表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/17

第15話 猫耳剣士⑤ 支配者

「アレックス殿、ここは抑えて下さい」

 セバス爺の強い口調を背中で聞きながら、あたしは一気に前へ出る。


 ミケちゃんが動き出す前に!

 間に合って!!


「だめよ! ミケちゃん、落ち着いてっ!」

 小さな肩に手が届いた。

 もう、離さないわよ!


「にゃっ、ちゃんと役に立ってみせるにゃ!」

 彼女は、あたしの腕を振り解こうとする。

 確かに、彼女の身軽さは尋常ではない、多少の罠があっても大丈夫よね。


 それにしても……、


「役に立つって……、あなた……」

 この娘は、何を恐れ焦っているのかしら?


 その間も続く、うめき声。それが、騎士団たちの、感情を逆撫でしている。


「セバス殿、この先を進めば直ぐです。なぜ、止めるのですか!」

 アレックスさんの言う通り。だからこそ、このダンジョンは、とても、やらしい。


「アレックス殿の感情は正しい、だが、我を失ってはいけません」

「しかし、セバス殿、直ぐそこなのです」


 アレックスさんも、少し冷静になれば、これは罠だと、気付くはず。でも、彼が、踏み止まるとは限らないわね。


 多分、このうめき声の主は、行方不明の別動隊。だからこそ、彼は、危険をかえりみない。親しい人との繋がりが激情を生み、彼に、行動を強く促す。


「アレックス殿、助けるという目的を果たすなら、冷静に事を運びなさい!」

「あなたのように、私は冷酷には……なれません……」

「冷酷? 確かに、その通りかもしれません。ここの主人は、趣味が悪い。アレックス殿は、助けたいという気持ちは正しい。私は、それよりも、仕置きがしたくてたまりません!」


 うわっ、セバス爺たら、激おこモードじゃない。


「にゃーが先頭を行くにゃ! 皆の力になるにゃ!」

 まあ、この娘たら、どうにも意固地なのね。


 きっと、アイツのせいね。

 アレン、なんの捻りもない名前の勇者が、いつも先陣を切るものだから、それが、力だと勘違いしてる。


 あたしと、初めて対峙した時のアイツと、今のあなたは、全然違うわ。


 アイツは、きっと大バカだから、もっと純粋だった。


 背中に誰かがいるから強くなれる。

 仲間が傷つくのを見たくないから先陣を切る。


 ああ、なんてバカなのかしら、考えてたら、イライラしてきたわ!


 でも、この娘も、知っていてほしい。

「あなたがいるから、皆んなは強くなれるのよ」

「どういう意味にゃ!」

 もう、焦っちゃって、ほんと、可愛い娘ね。


 空気が揺らぐ。異質な魔力の気配が、微かに漂う。ミケちゃんの直ぐ背後、そこの空間が避け、闇が覗く。


 二本の腕が、闇から生えるようにして、伸びてきた。


 咄嗟に、ミケちゃんの身体を引き寄せて、あたしと位置を入れ替える。

 当然のように、あたしの身体は、得体の知れない腕に掴まれ、闇の中へと、引きずられた。


「そうね、あなたは、ここに居て、皆んなの力になりなさい」

「にゃ! そんな!」

 ミケちゃんをトンと弾き飛ばす。


 尻もちをついた彼女と、セバス爺への、「ごめなさい」の謝罪は、ちゃんと届いたかしら。


 空間が閉じられ、皆がいる光景は、見えなくなった。


 皆んな勘違いしてないといいな。

 その辺りは、セバス爺に期待しましょう。

 だって、皆と離れ、一人になるのは、あたしには好都合なのよ。


「ようこそ、身代わりになった、心優しいお嬢さん。珍しい獣人が欲しかったが、貴女の魔力も中々のものだ」

 目の前の男は、スーツを着込み、黒いマントを羽織っていた。なんだろう、全然似合って無くて、カッコ悪い……。


「いつまで、触ってんのよ!」

「イタタタ、なんとも乱暴な、お嬢さんだ」

 男と距離を取る。連れ込まれた場所の全貌が掴めた。


「なによ、ここ、物置じゃない」

 あたしの思惑は、外れていた。てっきり、捻くれたダンジョンマスターがいる、最下層の部屋だと思っていたのに〜!


「失礼な! 物置では無いわ!」

「そんな、狭くて小汚い物ばかりあるから、てっきり……。可哀想に……、あなた、下っ端さんなのね。早く、ここの主人マスターに会わせなさい。いろいろ、言いたいことがあるんだからっ!!」

 あら? 主人マスターを悪く言われて怒ったのかしら?

 その忠誠心は感心ね。服の趣味は最悪だけど。


「さっきから失礼なことばかり言いおって。もう、許せん! 私は、ローグ! このダンジョンの支配者だ!」

「へぇーー、で、ここは、ガラクタをしまって置く、物置でよかったかしら」


「ちがーう! ここは、一流の調度品で飾られた。ダンジョン最下層、私の部屋だ! その、無礼な物言い、後悔するがいい!」

 えっ! ここ、部屋なの……。

 床なんか、何も貼ってなくて、地面がむき出しじゃない!


 その地面から、何本もの腕が生えてきた。

 腐った肉体をまとう者たち。嗅ぎ慣れた異臭。


「我がしもべたちよ。その者を、捕らえよ!」


 ゾンビさんたち、こんな所で復活してたのね。成仏できてなくて残念だわ。


 襲ってくるゾンビさんを難なくかわす。

 もともと、動きが鈍くて、戦闘には、てんで向いてない。だから、あたしに触れることすら出来ない。


「あなた、ゾンビさんたちを操ってるの?」

「その通りです! 今さら恐れても、貴女は許しませんよ。 私こそが支配者。闇の者たちを支配し、いずれ、地上に魔王として君臨するのです」

 いや、ゾンビさんには、戦闘力は、無いんですって!


 身体なんか腐ってるし、ほら、あたしが避けるだけで、ゾンビさんたちの身体は、ボロボロになってる。


 もしかして、

「あなた、人間なの?」


 ゾンビさんたちの、非力さを知らないなんて!

 世間知らずにも程があるわよ!


「ふふふ、そうです! 邪神さまに、力を授かった私は、人間を超越し、誰よりも非道になれる! さあ、我がしもべたちよ、その娘の服を剥ぎ取ってしまえ!」

「ちょっと、気をつけなさいよ! 唾がとんでるわ!」

 うわっ、ばっちい!

 もう、めんどくさいわ!


 右手に魔力を集中させる。

 大魔法は、ダンジョンが崩壊してしまうかもしれない。


 だから、簡単な炎の魔法で

「直ぐに、消し炭にしてあげる! 後悔なさい!」

 あたしの手のひらの先に、幾重にも展開される魔法陣。


「無駄ですよ!」

 その一言で、あたしの魔法は、打ち消された。


 相殺とか、障壁で防ぐとは違う。

 あたしの魔法は、無効化されちゃった……。


「忘れましたか? このダンジョンの支配者は、主人マスターである私なのですよ。この空間での魔法行使は、全て無効化させて頂きました」

 あたしを見る、ローグと名乗った男の舐めるようなやらしい視線で、背筋に寒気が走る。


「もう一つ教えましょうか? 私が邪神さまより、授かった権能を」

「聞きたくないわ!」

 もう一度、魔法を試すが、今度は、魔法陣すら展開できない。


「私が邪神さまより授かった権能、それは、精神支配です。何ものも、私に逆らうことはできない。貴女も、私のしもべにしてあげましょう。そして、その身体で、私に奉仕をする栄誉を与えましょう」

「その奉仕って、エッチなこと?」

 まあ、頷いちゃったわ! なに、この変態! エッチ! スケベ!


 でも、魔法行使が出来ないってことは……。


「良いことを思い付きました。あなたには、自我を保ったまま奉仕をしていただきましょう。その方が、お互いに快楽が得られるというもの。いずれ、この世界の女は全て、身も心も、私のものだ!」

 世界征服というより、それじや、ただの、ハーレムよ!

 魔王というより、スケベ親父じゃない!!


「さあ、私に、ひざまずきなさい。そして、その身体で奉仕をしなさい」

 心の中に、やらしい声が直接に響く。


 そして、私の魔法は、さっきから解けはじめている。

 それは、人の姿を保つ魔法。そのせいで、力が大幅に制限されていた。


 でも、ここなら大丈夫。

 ダンジョンの最下層、ミケちゃんも騎士団たちも、到底到達することは出来ない場所。


「あなたの身体は、支配しました。しばらくお待ち下さい。ゾンビたちに、服を脱がせてから、その後に、たっぷりと語り合いましょう」

 誰が、誰を支配すると、この下衆は、言ったのかしら?


「そんな目で、私を見ても無駄です。嫌がる女を、凌辱りょうじょくすることほど、甘美なことは無い」

「あら、なら、貴方は、どんな酷い目にあっても後悔は無いわよね」

 ゾンビたちを、片手で制する。

 彼らは、もう動くことは出来ない。それに、可哀想に恐怖すら感じているだろう。


「誰が、誰を支配するのかを、もう、一度、言って頂戴」

「ば、馬鹿な……、なぜ、動ける。それに、その赤い瞳、口から覗く牙、死体のように、生気のない白い肌……。屈服しろ! 屈服しろ! 私に従え! 従え! 従ええ!!」

 さあ、この変態、そして、女の敵をどう始末しようかしら?


 変身を完全に解くため、身体に魔力を走らせる。肌が淡く光っているのを感じた。


 ダンジョンの最下層で、本当に良かったわ。


「お嬢さま! セバス爺が助けに参りました!」

「カーミラ嬢、ご無事ですか!」

「お姉さま、助けに来たのにゃ!」


「ヒッ!」

 突然にことにビックリして、変な声を出してしまう。それよりも、あたしの姿を見られたらバレちゃう!


「お姉さま! 無事でよかったにゃ!」

 ミケちゃんが、腰に飛びついてきた!

 ナイスよ! ミケちゃん、やるじゃないっ!


 その反動を利用して、地面にうずくまる。

 さらに、瞳と牙を隠すために、手のひらを組むようにして顔を隠した。


「ゾンビたちが動いていない……。カーミラさまの祈りの力……」

 アレックスさんの小声が聞こえてくる。


 あたしが咄嗟に出した「ヒッ!」という変な声を、シスターのシキさんが、祈りの時に唱えていた「ヒッ!」と勘違いしちゃったのね!


「カーミラ嬢を早く、お救いしろ!」

 アレックスさん、それは、やめて!!


「あたしのことより、目の前の男を、倒して下さい! 障壁を展開します! 今は、それに集中させてっ!」

 ちょっと乱暴な物言いだけど、こっちには来ないで!


「ミケちゃんも、戦って頂戴!」

 いい加減、この娘にも離れてほしい。


「お姉さま、分かったのにゃ! にゃーが、変態ぽい男をやっつけるのにゃ!」

 ありがとう、ミケちゃん。あと、あの男は、変態ぽいじゃなくて、正真正銘、生粋の変態なのよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ