第14話 猫耳剣士④ ダンジョン
「副団長のアレックスです」
青年の騎士は、笑顔を作ると、手を差し出してくる。もう、三回目……。
差し出された手を、猫耳剣士のミケちゃんが握る。
「にゃーの名前は、ミケなのにゃー」
どうやら剣の道を志す者同士、心通じるところが、あるみたい。
恥ずかしがり屋のアレックスさんは、その都度、ぎこちない笑顔を見せる。
彼と目があったので軽く会釈をした。
数頭の馬を引いて歩いている、別の騎士が名前を告げると、ミケちゃんは、素早く移動し、すかさず握手をする。
すると、きっとアレックスさんは、それが気に入らないのね。
「副団長のアレックスです」
と言って、四回目のミケちゃんとの握手に、粗野な笑顔を見せ嬉しそう。
魔人を倒したというのは、人間界では、やっぱり、相当なこと。
ミケちゃんが、騎士団員たちから、握手を求められているのを見ると、そう実感せずには、いられない。
「アレックスさん、あそこが、目的の場所かしら?」
前方の岩場。そこに洞窟の入り口のような穴が見える。
「カーミラ嬢は、勘が良いですね」
あら、褒められたわ。でも、あんな入り口が見えてたら誰でも……。
「もう少ししたら、洞窟の入り口が見えて来ますよ」
「そ、そうなんですか!」
オホホホと笑いながら、お父さまが良く褒めて下さった笑顔を作る。
アレックスさんは、油断ならない騎士のようで、そんなあたしを見透かしたかのように、距離を詰めてきた。
ジッと、あたしを観察する、アレックスさん……。
「離れろにゃー!」
あらあら、まあまあ、ミケちゃんたらっ!
彼女は、よほど、アレックスさんが気に入ったようで、フーと鼻息の荒いうなり声を出し、毛を逆立てながら、あたしとアレックスさんの間に、割って入ってきた。
「はーなーれーろ、にゃー!!」
グイグイと、あたしとアレックスさんの腰辺りを、両手で、力一杯に押し、その距離を広げようとする。
なんて健気な娘なのかしら!
アレックスさんとミケちゃんは、ぎこちなく見つめ合っている。
そんな、初々しい二人を、あたしは、断然、応援したい!
いえ、応援をするわ!
「お二人は、仲良しで、お似合いですわ」
「違います!」
「違うにゃ!」
二人とも、照れちゃって、もうっ!
こっちが恥ずかしくなるじゃない。
それからも、二人は、互いを押し合いながら、ヒソヒソ話しをし、イチャイチャしていた。
そんな様子を微笑ましく見ていると、いつのまにか洞窟の入り口は目の前。
そして、それは、自然の洞窟では無いと一目瞭然で分かる。
真っ暗な入り口、足元から、階段が奥へと続いている。
その暗闇の先に、ぼんやりとした光を感じることが出来た。
人工的な地下の構造物なら、まだ良い。
そんなものではないと、アレックス副団長は、自信なさそうに答えを告げた。
「干上がった沼地の岩場に発見された人工的な洞窟です。おそらく、これは、ダンジョンではないかと、私は考えてます」
アレックスさんの言う通り、これは、まさしくダンジョンに違いないわね。
尋常でない魔力を感じる。
あたしが倒したドラゴンが、もし、ここの住人であれば、下っ端だったんじゃ、ないかしら?
「ミケ殿の力をお借りして、ここを調査したいと思います」
「団長殿、それは、考え直した方が良いと存じます」
セバス爺が口を挟む。
「あたしも、セバスに賛成よ」
知らないダンジョンに入るべからず。
それは、魔族では常識なのよ。
「しかし、別動隊は、ここへ、入ったとしか考えられません」
地上を探していなければ、その通りよね……。
「なら、ミケちゃんのお仲間にも、協力を依頼してみては?」
勇者のアレンの怪我は、完治してないと思う。
それでも、ドワーフのおじさんと、女魔法使いは、力を貸してくれるはず。
「大丈夫にゃ。皆んなは忙しいから、にゃーが解決するにゃ」
ミケちゃんが、ダンジョンへ入ってしまった。
「待ちなさい! 一人じゃ、危ないわよ!」
元々は、彼女を鍛えるつもりだったから、ダンジョンは好都合ともいえる。でも、違う。
だって、それは、あたしが知っているダンジョンならのことなのよ!
「アレックスさん、念のため、応援を依頼してください」
ミケちゃんを追いかけながらの、振り向きもしない、あたしの失礼な物言いを、彼は、ちゃんと聞いてくれた。
蹄の音から、馬で隊から数人が町へと向かったのが分かる。
「カーミラ嬢は、隊の中心へ」
騎士たちが、真剣な面持ちで、隊列を組む。
「にゃーは、みんなの役に立ってみせるにゃ」
ミケちゃんが、気負ったようにして、先頭を歩く。
ダンジョンとは、地下空間に広がる、小さな異世界。
大抵は、最下層にいる主と呼ばれる存在が、魔力で構築した、異空間だ。
そして、それは、主の縄張りであり、彼の為の世界と言ってもいい。
「ねえ、そろそろ、戻った方が……」
あたしの提案も、否決されるだろうと察し、言葉を途中で、飲み込んだ
人間のうめき声が、奥の方から、風に乗って聞こえている。
隣のアレックスさんは、握り拳を作っていた。




