第13話 猫耳剣士③ 調査隊
「お嬢さま、人の気配が近づいて来ます」
まあ、セバス爺たらっ、そんな言い方だと、あたしが、コソコソしないといけないみたいじゃない。
「おお、地面が割れているのにゃ」
猫耳剣士のミケちゃんは、地面に這いつくばっている。
女の子がそんな格好をしたら、ダメったらダメ!
「早く口止めをした方が、よろしいかと……」
セバス爺は、鳩たちをシルクハットの中へ入れるのに忙しい。飼うつもりだろうか?
焦土と化した大地に先の見えない地割れが誕生している。
セバス爺の鳩たちは、隠す必要は無いけど、地割れの原因を追求されると、確かに面倒そうね。
でもね、セバス爺、こんな惨状になった責任の半分ぐらいは、きっと、剣のせいなのよ!
この剣、不良品だわ!
今度、あの女神に会ったら文句言ってやる!!
セバス爺ときたら、そんな、あたしの気持ちも知らないで、鳩たちをシルクハットへと仕舞い終え、満足げにしている。それは、もう、凄いドヤ顔だ。
あれだけの鳩が、そのシルハットに入ってると思うと、確かに凄いわ!
剣を鞘へ納め、ミケちゃんの方へ……。
「おお、底が見えないにゃ」
なんだろう、好奇心が刺激されたのか、身を乗り出して、地割れを覗き込んでいる。
「にゃっ!」
ミケちゃんが、地割れの方へバランスを崩した。
咄嗟に彼女の尻尾を掴む。
ミケちゃんは、よほどビックリしたのか、はたまた、底の見えない地割れへ落ちる恐怖からか、彼女の身体は小刻みに震えている。
さらに深刻なのは、息が荒く、体勢のせいだろう、血液が頭の方へ集中し、彼女の顔が火照ったように赤い。
さっきまでの元気は、どこへやら、ミケちゃんは、口をパクパクさせ、身体の不調から出てしまう、喘ぎ声が漏れ聞こえる。そして、あたしと彼女の目が合う。その瞳は、助けを求め、今にも泣き出しそうだ。
「今、助けるわ!」
「そ、そんなに、強く握ったらあ……」
ミケちゃんは、強く握れと言う。
「大丈夫、離さないわ!」
「だ、だめ……」
「もうっ! だから、離さないって、言ってるでしょ!」
えいっと、ミケちゃんを引っ張ってあげる。
「そんな、乱暴にしちゃ、だ、だめ……、あっ」
確かに彼女の言う通り、少し強く引っ張り過ぎたかも知れない。でも、なんだろう。最後の方、なんか色っぽかったのは、気のせいよね……。
「ごめんなさい。少し、乱暴だったわ」
ミケちゃんは、息も絶え絶えで、横たわっていた。
本当に、心配だわ。大丈夫?
小さな彼女の身体を起こし、楽な姿勢に、してあげる。ミケちゃんの顔が赤い。額に手を当てると、少し熱があるように感じた。
彼女は、恥ずかしそうに、ジッとあたしを見つめている。
それも、そうだろう。
仮にも剣士たる者が、バランスを崩して、落ちそうになったのだ。
穴があったら入りたいぐらい恥ずかしいに違いない。
「初めてだったのにゃ」
いつも、いつも、ミケちゃんが、穴に落ちるわけないのは、あたしでも分かるわよ。バカねっ。
そんなこと、言う必要ないのよ。
「本当に、お姉さまが、初めてだったのにゃ」
ほんとっ、この娘たらっ、落ちそうになったのが恥ずかしかったのね!
さっきまで、地面に這いつくばって、地割れに興味津々だった娘が、一転して、女の子らしく、ぺたん座りをしながら、モジモジと身体をくねらせている。
「分かったわよ。この地割れのことは、あたし達の秘密にしましょうね」
これって、もしかして、一石二鳥じゃない!
「分かったのにゃ……。にゃーの、お姉さまに捧げた初めては、秘密にするのにゃ」
何をすねているのか、ミケちゃんは、口を尖らせながら、約束をしてくれた。
この娘……、捧げたって言ってなかった……。
それに、さっきから、あたしのことを「お姉さま」と呼ぶのは、実力を認めてくれたってことよね……。
「お嬢さま、そろそろです」
セバス爺の視線の先に、複数の人影が現れていた。
その人影の正体は、直ぐに分かった。
領主が派遣した、異変を調査する騎士団だった。
「この地割れは……」
団長らしき青年が、言葉を失っている。
「お姉さまが、切ったのにゃっ!」
ゲロるの早いわよっ! もうっ! 口が軽いわね!
猫耳剣士のミケちゃんは、あたしの腕に絡みついたまま、平然と笑っている。
なんて、恐ろしい娘!
それに、あたしより、あなた……、胸が大きいのね!
彼女たらっ、あたしの精神にトドメを刺すかのように、その柔らかな弾力を、ギューギューと押し当ててくる。
「何か、心当たりが、お有りなのですか?」
青年の視線が痛い。
人間の騎士とは、頭脳明晰、品行方正な者が就く職業だと、あたしはお父さまから教わっている。
だから、もう、隠しきれないと思う。
変に隠すより、正直に言った方が、後を考えると、きっと良い。
早く言ってしまおう。「この剣が、不良品なのですよ」と……。
あたしの誠意より、セバス爺の嘘の方が早かった。
「わたし達も、驚いているのです。この地割れは、異変のせいでしょう」
「そうですか、やはり……」
青年には、何やら思い当たることが、あるようだ。冤罪が産まれそうな予感に、罪悪感を感じてしまう。
「お姉さまが、切ったのにゃ!」
あなたは、お黙りなさい!
この娘たら! そうとう胸に自信があるらしい。
あたしの腕を、服の上からでもハッキリと分かる、その胸の谷間へ、すっぽりと納めるようにして、ギュッと抱きつく。
もうっ、やめなさい!
腕を引き離すと、彼女は、あたしの腰に絡みつく。
この娘たら、いったい何を、どうしたいの?
「やはり、あそこが、一番、あやしい……」
騎士の青年は、答えを一つ、導き出したようだ。いったい、何があやしいのだろうか?
「実は、別動隊が行方不明になってます。そこの、獣人の剣士は、魔人を倒したアレン殿の、お仲間とお見受けします。是非とも、協力を依頼したい」
「にゃーの力が、必要なのかにゃー」
相変わらず、ミケちゃんは、あたしの腰に絡みついたままだ。
いい加減、離れて欲しい……。
「はい、仲間たちが心配です」
「お姉さまと一緒なら、力になるのにゃ」
皆の視線が、あたしに集中する。
地割れの原因は、不良品の剣のせい。
騎士団の言う、異変とは、この焦土と化した大地のことだろう……。
そもそも、沼地が焦土と化したのは、あたしのせいだと知っている。
でも、あたしにも気がかりがある。
あのゾンビたちのこと……。
それに、別動隊の行方不明も、少しは気になる……。
「あたしは、別に良いわよ」
「ありがとうございます。か弱いご婦人を同行させるの気が引けますが、あなたの身は、私が、守りましょう」
青年騎士は、自らの胸の甲冑をドンと叩いた。




