第12話 猫耳剣士② 力比べ
それは、ちょっと昔の事。
とても最近までの、お話し。
街道の往来を邪魔をする、悪戯な獣がいた。
死者は出ない、しかし、そのせいで、たくさんの怪我人が、出ていた。
街道につながる町は、経済が停滞、住人も減る一方で、大迷惑。
なぜ、彼女は、そんなことをしたのか?
親の顔も知らない。話が通じる同族もいない。
彼女は、ただ寂しかっただけ。悪戯をすれば、構ってもらえる。そして、遊んでもらえる。そう彼女は、思っていた。
そのままでは、獣は魔物へ、さらには、化け物になっていたかもしれない。
だが、彼女はアレンに出会った。
そして、彼は、彼女に言った。
「もう一人じゃない。僕たちがいる。だから、その力を貸してくれ」
その言葉を、獣だった彼女は、とても喜んだ。
そして、彼は、名前までも、彼女に与えてあげる。
その瞬間、彼女にとって孤独は、過去のものになった……、はずだった。
「あたしは、カーミラ。あなたの、お名前は?」
猫耳の剣士は、あたしの問いに、満面の笑みで答える。
「にゃーの名前は、ミケなのにゃー」
えいえいおーの振り付けまでする、大サービス。
「なにするのにゃー。苦しいのにゃー」
はっ! いけないわ!
そんな仕草されたら、抱きついちゃうじゃない。もうっ、この娘を、持って帰ろうかしら。
「おまえ、すごい力なのにゃ。なに者、なのにゃー」
「そんなに毛を逆立てないでっ。あたしは、カーミラよ。あなた、一人? お仲間さんたちは?」
「みんな忙しそうなのにゃー。にゃーも力を貸すのに、誰も頼って……、くれないのにゃ……」
猫耳剣士のミケちゃんは、落ち込んで一人になってたのね……。
これでは、剣技の伝授どころじゃないじゃない。
もうっ!
「そう、ミケちゃんは、みんなの為に、何かしてあげたいのね。だったら、聖堂へ、戻ってみましょう」
しょうがないわね。アイツの怪我が治るまでは、会うつもりは、無かったけど……。
この娘の為には……。
「にゃーは、もっと強くなって、アレンを守れるように、なるのにゃ」
あら、そうなのね。
「なら、あたしが強くしてあげるわ」
「ダメにゃ、おまえ、可愛いから、弱いにゃ」
言っとくけど、それ、ブーメランじゃない?
「ふん、じゃあ、勝負よ」
「勝負なのにゃー!!」
そして、あたしとセバス爺、猫耳剣士のミケは、昨日までは、沼地だった場所に来た。
焦土に成り果て、沼地や丘などは、見る影もない。陽気なゾンビさん達を火葬してしまった。
「女神のフレイアさまは、スゴイのにゃー」
彼女が言うには、孤児院のシスター、シキさんが、女神フレイアが、全てやったと教会へ、報告をしたらしい。
ゾンビさん達が、成仏できたか、あの半裸の女神に会う機会が有れば、尋ねるのも良いかもしれない。
「フレイアさまは、強い軍神だと、聖堂でも話題になってたにゃー」
もともと、フレイアは豊穣を司る女神。でも、軍神へ、ジョブチェンジをしたみたい……。中々、思い切った決断ね。
「にゃーも、今日、聖堂の絵に、強くなれるように、お祈りをしたのにゃー」
農民に人気があったフレイアも、新たな信者が増えて喜んでいることだろう。新しい、門出に祝福をしてあげましょう。
あと、シキさんは、しっかりと、あたしのことは伏せてくれているらしい。流石は、シスターさんね。
「この辺りでいいかしら?」
猫耳剣士のミケさんが、コクリとうなずく。それにしても、セバス爺の周りには、鳩が一杯!
連れてきちゃ、ダメでしょ!
「なら、にゃーから行くにゃー」
彼女の得物はサーベル。その剣先を、あたし目掛けて、真っ直ぐと突き出す。
その剣筋を上半身を動かし、頬の横を通るようにしてかわす。
剣の稽古は、子供の頃、お父さまとしたことがある。剣技までは、知らないけど、基礎なら仕込まれた。
それに、お父さまの速さに、彼女は遠く及ばない。彼女の連続突きも、払いも、全て、あたしには、見えていた。
見えているのに、人間の姿では、身体が思うように動かない。
「いたいっ!」
もうっ、寸止めとかしなさいよっ!
「にゃにゃにゃ、おまえ硬いのにゃ!」
硬いとか、女の子に向かって言うな!
「凄いのにゃ! 硬いのにゃ!」
凄いとか、硬いとか、言っちゃダメ!
でも、
「結構、早いのね、ミケさん」
人間の姿では、やっぱり荒事は向いてないみたい。
「カーミラも凄いのにゃ。その、腰の剣を抜くのにゃ」
あたしは、剣に手を掛ける。
「中々の業物に見えるにゃ。その剣の名前を聞いておきたいにゃ」
「名前なんて無いわ」
貰い物だから、名前なんて知らないわ!
剣を抜くと、あたしの魔力に反応したようで、ぼんやりと刃先が光る。
なんか、嫌な予感……。
「今度は、ちゃんと打ち合うにゃ!」
そんな、あたしの懸念を無視して、ミケさんは、突っ込んでくる!
「来ちゃ、ダメッ!」
だから、あたしは、他所の方向に、剣を振った。
「真面目に……」
ミケさんは、あたしが、ふざけていると思って、最初は、怒ったようだ。
ただ、剣の振った先を見て、考えを改めたらしい。大口を開け、にゃっとなって眼を見開いた。
「地面を割ったら、ダメなのにゃ」
人間の姿でも、あたしの魔力は、そこそこ強い。
振った先の大地は裂け、地割れとなっている。
風が、砂けむりを運んでいく。
「にゃーの負けにゃ」
素直な娘は、好きよ!




