第11話 猫耳剣士① 教訓と償い
あれから孤児院に戻り、お医者さまにパナセアを渡して一件落着とはいかなかった。
勇者にも、その薬草は手に渡るはずだったので、彼の怪我の具合を伝え、薬草の残りを彼へ渡すようお願いもした。
それでもまだ、終わらない。
くれぐれも、あたしの大立ち回りを吹聴しないようシスターのシキさんに念を押しておく。「聖女さま、任せて下さい」とその時の彼女、不安しかないわ……。
だから、「油断しすぎよ」と昨日のあたしを叱ってあげたい。そんな寝覚めの悪い朝を迎えていた。
「あらっ、この紅茶、美味しいわね」
「流石は、お嬢さま、良い品を町で手に入れましたので、早速、いれてみました」
セバス爺の行動力には、感服だわ。
美味しいお茶を飲みながらも、あたしの頭はフル回転している。そして一つの教訓を得ることに成功した。
それは、出会う人物の名前に注意すること。
振り返れば、孤児院の関係者の名前は不自然極まりない。
子供たちの名前が、ハルちゃん、ナツくん、アキくん、フユちゃん、そこへきて、シスターがシキさんなんてっ!
安易極まりないわ!
覚え易くて楽だけど、春夏秋冬で四季なんだから、本人たちには、失礼で申し訳ない、でも、笑っちゃう。
あたしのお父さまがドラキュラで、執事がセバス。
シナリオのネーミングが安易すぎるのよっ!
次からは、要注意ね!
イベントを一つ奪ったところで、正ヒロインの姫さまにダメージはない。彼女の見せ場なんて、腐るほどあるんだから。その上、聖女の力なんて、その片鱗を、今までに何度もみせているはず。
だから、あんな沼地の一件なんて、些細なことよ。彼女の地位は、揺らがない。
それよりも、問題は、ポンコツ女剣士の方ね。
彼女には、なんとしても、メテオストライクを会得して貰わないと……。この先の進行に支障が出かねない。勇者が死んでしまっては、あたしたち、吸血鬼が望む、人間との和平なんて、成立しないわ。
人と魔族とのパワーバランスは、重要なのよ!
それに、役立たず女剣士が、パーティから外されちゃったら、可哀想。
確かに、ちんマイ猫耳娘は、モフモフ枠として必要かもしれないわ。
でも、ここは現実なの。可愛いだけで重宝されるほど甘くは、ないのよ!
剣技なんて苦手だけど、記憶の中にあるメテオストライクぐらいなら伝授できるわ!
使ったことないけど、きっと大丈夫!
あたしなら出来る!!
「お嬢さま、お似合いです! 何処から見ても、可愛らしい剣士です!」
セバス爺が絶賛してくれる、でも、美人とは言ってくれない……。
振り返れば、ナツくんが、あたしに悪戯をしてきたのが、クエストの始まりだったみたい。
なんて、恐ろしい罠なの、あたしが町に入ってすぐ、始まっちゃってるじゃない。
避けることが難しい罠。
そして、ゲームでナツくんの標的となったのは、猫耳剣士だった。あのちんまい女剣士と、あたしが同格だなんて、ナツくんの目、大丈夫かしら?
「それでは、お嬢さま、お供をいたします」
「それにしても、あの猫耳っ娘、何処にいるのかしら?」
ポロッポと白鳩が一羽、飛んできて、セバス爺に耳打ちをする。
「それなら、心配はございません。爺にお任せ下さい」
セバス爺は、白鳩をシルクハットにしまう。その時の白鳩のドヤ顔たら、可愛い。
皮のマントを翻し、あたしは町へと向かった。
町の中心、公園の噴水がとても印象的。
時折り、吹き上がる水が、曲を奏でているようで、思わず魅入ってしまう。
多くの人を魅了する噴水。それが、お休みすると、セバス爺が注目の的になる。
シルクハット芸に見切りをつけたセバス爺は、鳩に囲まれていた。その数が尋常でなく多い。
恥ずかしいので、ベンチに腰を下ろして眺める。
情報を集めてくれているのだろうけど、やり過ぎなのよ。出発の際、白鳩がセバス爺に耳打ちしたのは、「仲間は増やしましたぜ、爺さん」とか、きっと、こんな感じだったんだわ。
「ここに、座っていいかにゃ」
「別にいいにゃ」
あら、ちんまりして、猫耳が可愛い剣士さんね。
「どうかしたニャ」
猫耳剣士さんは、大きな瞳をまん丸にして、あたしを見つめている。
ぴょこぴょこと動く耳が、とても愛らしくて、たまらない。
多分、彼女なら、可愛いだけで生きていけるかもしれない。そんな錯覚すら、抱いてしまう。
多分、この娘……。
ああ、だとしたら、白鳩とセバス爺に申し訳ない。でも、まだ……。
「もしかして、あなた、アレンさんと一緒に旅をしてらっしゃいますか?」
「な、なんで、知ってるにゃ! お、おまえ、そんなに可愛いのに、まさか、頭が良いのか!」
あらあら、まあまあ、この娘、もしかして、可愛い娘は、バカだと思ってる?
それにしても、白鳩とセバス爺は、何してるのよ!
あなたたち、それじゃ、ただの大道芸じゃない!!




