暴れる感情 その3
ニャン子をかなぐり捨てたアリシア。
本当に憂うのは、自分の事よりも大切な人の安寧。
それが誰なのか・・・はっきりさせないと?!
俺の眼に映るのは。
明らかにニャン子ではないアリシア。
真剣な翠の瞳で訴えかけてくるのは?
「アルジのユージは、お母様がどうして名乗り出てくれないとお思いですか?」
今迄の話を全て聞いていたのか?
アリシアからの問いかけは、聴いていたからこそ出来るんだが。
「既に珠子様として目覚めているのなら、なぜ萌としてだけ接するというのでしょう?」
萌が母さんならばだろう?
まだ仮定の話なんだぞ、アリシア。
翠の瞳で見据えられても、俺は答えずに居たんだ。
いいや、答えられなかったと言った方が正しいな。
だってさ、俺が求めていた問いをアリシアからぶつけられたんだから。
「私。
私が珠子様なら、こう考えるんです。
大事な子を危険な目に遭わせたくはない。
自分に課せられた運命に巻きこんでしまうなんて・・・と」
アリシアがベットから降りて座り込んだ。
「お前が母さんだとしたらだろ?」
俺も天使を天界に戻して座ったんだ。
横目で俺を見上げて来るアリシアの横顔。
母さんや萌と同じ緑色の瞳で俺に訴えているのは?
「そうねユージ。
でも、彼女だってそう言うと思ったの」
彼女・・・か。
アリシアが指す彼女ってのは、きっと・・・
「ねぇユージ。
初めに謝らせて欲しいのです。
あなたに嘘をついて来た事を」
不意に。
俺を見詰めて謝罪するって言いだしやがった。
「嘘って?」
訊き質したら顔を伏せてしまうアリシアが、小さめの声で言うんだ。
「ずっと。始まりの時から騙していました」
「だから何を?」
嘘を吐いて俺を騙していたんだと言うんだが?
「あ、あの。
ニャン子な姿で地球に来てしまったことです」
「ああ、その事か」
今となっては怒る気もしない。
「それに記憶操作まで使って成りきっていました。
保安官に逢う為に来たんだと嘘を。
偶然ユージの元に辿り着いただなんて嘘を吐いていたのです」
「そうだったなぁ~。なんだか懐かしく思えるよな」
たったの一か月ほど前だというのに、昔話を聞いてるみたいだ。
嘘を吐かれていたなんて、今更どうでも良かったんだ。
嘘だと正直に言ってくれるだけで十分だったんだよ。
「あの・・・怒らないのですか?」
「なぜ怒らなきゃいけないんだ?」
素直に言ってくれたんだし、それで何か悪いことが起きた訳でもないだろ。
「だって、嘘つきですから私は。
アルジのユージに取り入る為に・・・
数年前の体つきになって警戒されないように仕組んだのですよ?」
「いやぁ、機動少女のアリシアだったら、確かに萌が警戒しただろうな」
俺はどうだったのだろうとかは、言わない事にする。
「あのパツンパツンな衣装で現れたのなら、萌が逆上したかもな」
結界の中でだけ見せられた機動少女の戦闘服って奴。
あれでもし邂逅したのなら、俺だって退いてたのかも知れないな。
「そう?・・・そうですよね。
メタルジャケットを着た状態だったら懼れられちゃいますものね」
い、いや。そう言う意味じゃないんだけど。
「もしも警戒されてしまったら、護衛の任務を熟せるのかが不安でしたので」
秘密裏の内に護衛を成し遂げるのは、至難の業でもあるしな。
何故俺の前へと姿を見せたのかを放し始めたのだろう。
どうして謝ってきたのか?
「アリシアは、俺と逢わずにいた方が良かったと言うのか?」
いや、それとも逢った後で何かを取り違えたとでも?
「いいえ。
昔のユージに逢えたのは嬉しく想うのですけど。
まさかお母様・・・珠子様が行方不明だなんて思いもしなかったのです」
昔?
ああそうだったよな、アリシアは未来の宇宙から来たニャン子星人だった。
だとしたら、未来も判っている筈では無かったのか?
「私の居た世界で、新任保安官様から悲劇を回避するようにって頼まれて。
任務を管理局が承認して・・・それでやって来たのでしたけど。
まるっきり、設定が替えられてしまっていたのです」
設定が?つまり母さんが行方不明になっていたのだと?
「初めてユージに跳び付いた時に気が付いてしまったのです。
ユージには母親の香りがしないって。
あ、いえ、香りって言うのは喩えで。
珠子様が傍に居られないって気が付いたのです」
その時までは俺と母さんとの両者を護衛する手筈だったのか?
「そこで咄嗟に記憶操作スイッチをオンにしたのです。
自分は銀河連邦時空局保安官補助手であるだなんて過去の話を持ち出しました。
姿は事前に若返っていたので問題はありませんでしたが、
言動も変えねばおかしいと思い、ニャン子星の母国語に併せてみたのです」
そうなのか、それで変換機もそれに合わされていたのか。
「異星人だと名乗り、未熟な見習いだと言っていたのは。
ドアクダーとユージが既に接触していたのが分かったからでもありました。
敵も味方にも、私という本当の存在を知らせてはなりませんでした。
敵を過度に刺激しては、一時に攻め込まれる虞があったからです」
一度口を噤んだアリシアが俺を見上げて。
「そして味方を集う事にしたのです。
珠子様を探し出す間、敵状を探る手段としても・・・」
それが雪華さんであり、シンバであったのか。
「彼女達と接触していたドアクダーの規模から、近くに居る敵は計り知れたのです。
ですが、今度は・・・総力戦を挑まれてしまったのです」
今度って言うのが、奴等を指しているのは間違いない。
「この辺りに蔓延るドアクダーの幹部。
私の居た世界では、左銀河を消滅させた大罪人。
ナンバー11とも呼ばれたダレットが、自ら現れたのです」
遂にって訳だな。
そうなると、アリシアの討つべき手は?
「奴が地上に居る間は、私が対処しないといけません。
この星から出たのなら、ミシェル保安官に因って処理されますが」
つまり奴と闘うのは俺達って訳だよな?
俺は黒の3連鬼との闘いを思い出して身を引き締めたよ。
「ですが、今の私では防ぎきれるかが分からないのです。
歴史に因れば、ダレットの戦闘力も知れていたのですけど。
何時の間にか機動魔鋼鎧を用意していました。
旧式以外にも保有しているモノと思われる節がありましたから」
この計画が実行に移された折、アリシアに与えられていたのは戦闘妖精が1体だけ。
烈華と呼ばれる上級妖精が唯一つだけしか与えられていなかった。
もしも機動戦闘に持ち込まれたら、相手が旧式と言えど苦戦は必至。
「もしも、数体の敵機動鎧に攻撃された場合。
ユージや珠子様を御守りしきれないかも知れないのです」
ポツンと。
唯無念さを滲ませて、アリシアが言ったんだ。
そこで何故アリシアが寝言で言っていたのかが分ったよ。
未来が変えられた結果、不本意な最期が訪れてしまうかもと泣いていたんだ。
「それを謝るというのか?」
そんな未来に誰がするって?
「アリシアの世界に居たユージという少年と珠子母さんを護る手筈だったんだろ?
俺と母さんを宿した子を守れとは命じられちゃぁ居ない筈だぜ?」
屁理屈だとは分かってるさ。
「アリシアに頼んだユージの世界ではどうだったのかは知らないが。
こっちの世界では悲劇なんて起こさせたりはしない。
俺が約束を破る様な真似をすると思うのかよ?」
だけど、こうでも言わないとアリシアは・・・
「そうですね、こっちのあなたは何でもすると言い切られたのですから。
珠子様が為される運命の終焉にストップをかけられるのは、ユージだけなのですから」
最期をこの星で迎えさせてしまうんだ。
だから、停めなきゃならない。
ドアクダーの陰謀も、モエルさん達の運命とやらも。
「ユージは。
こっちの世界の勇者剣士様は。
私の慕う彼よりも、もっと温かくて優しい人なのですね」
「そいつはどうかな?
俺は成人君主なんかではないし、そもそもが勇者なんかでもない。
唯の高校男子で、欲深い野郎なんだぜ?」
俺が明後日の方を向いて嘯いてやったら。
「いいえ、やっぱり善い人ですよユージは」
しな垂れかかるアリシアが、太腿の上に載りかかると。
「やっぱり・・・私も。
あたしも!ユージが大好きです」
上目使いに俺に迫りやがるんだ。
「萌と交わしたように、ユージとも約束します。
あなたとあなたの大切な全てを守る為に全力で立ち向かうと。
いつの日にか、保安官になられるあなたの下僕であり続けるって」
そうか・・・それがアリシアの覚悟って奴か。
思わず、アリシアの赤髪を撫でていたよ。
自然とそうしてやるのが主人の務めの様な気がしたんだ。
ニャン子な娘に・・・・
漸く。
此処に至って。
アリシアの想いが表されました。
違う世界のユージを慕ってきたから、今までは我慢してきたのでしたが。
遂に口に出してしまいました。
それがこの後にどう影響するのでしょうか?
次回 迫る脅威 その1
一転してシリアスな展開が待ち受けて・・・いるのかな?




