ずっと君を護る! その4
嘗て。
勇者剣士が地図の巫女と交わした約束。
今は受け継ぎし者が交わす。
永久に傍にいるのだと。
それは・・・誰の?
「「なんと?!まさかの展開だわ!」」
機動少女なアリシアは、駆けつけるタイミングを逸したようです。
ユージの左手に填められてある装置を通してニャン子に宿るつもりだったようですが。
飛び出る前に勇者剣士の異能を授かったユージに因って、全てが解決してしまったのですから。
「「こんな事って?!あったのねぇ~」」
ポワンと状況を眺める機動少女がため息を吐きます。
勇者剣士の剣を現界させたアルジのユージ。
その傍らに立つもう一人の自分を観て感じるのは、記憶にない新たな世界だったのです。
「「アルジのユージが魔王剣を授かったのは、ずっと後だった筈なのに。
これが事実なら・・・私は消えてしまうんじゃないのかしら?」」
記憶では、ユージが覚醒を果すのはずっと後の話。
ドアクダーに攻め込まれ、進退が極まった時の筈だと首を傾げるのです。
「「まかり間違えば、二人が堕ちてしまうと踏んだミシェル様が派遣したというのに。
アルジのユージが目覚めるまで、ずっと護る手筈だったのになぁ。
歴史では私が君をずっと護る事になっていたんだよ?
どこで変えられちゃったんだろう?」」
機動少女のアリシアが首を傾げて考え込みます。
自分がユージの元へ来たのは、全てこの日の為であった筈だと。
「「もしもこれが、並行世界の新たな歴史だというのなら。
私は最初の時点で異世界へと飛ばされて来たって訳?」」
アリシアの導き出した結論は、自分が消えていない事からも想定出来たのです。
「「だとすれば?
私はこれからどうすれば良いんでしょう、ミシェル保安官?」」
新たな世界となったこの星で。
もう一人のアリシアが居る世界では、自分が存在するのは矛盾を招くのではないか。
「「それじゃぁ・・・私は?
もしかして死ななきゃいけニャいの?!」」
思わずニャ語が出てしまう程、大慌ての機動少女版アリシア。
でも・・・と、落ち着いて考えてみます。
「「よく考えたら今の私ってば、影の存在だったよね?」」
そうです、影というよりは神に近い存在・・・
「「機動ポットに宿る精神世界の産物に成っているんだっけ」」
妖精烈華と変わらない存在ですよね?
「「うニュぅ?!戦闘妖精はどう思う?
こんな私に付き従うって、癪じゃないの?」」
同じポットに宿る妖精さんに訊いてみます・・・と。
「「ふん?ふ~んふんふん!」」
「「なになに?どうせ頼まれなきゃ出番なんて廻って来ない存在じゃないか・・・ですって?」」
ずばり・・・言われてしまいましたねぇ。
「「むきぃ~!なんという屈辱感!!」」
いやいや。アリシアさん、妖精さんに悪いでしょ?
「「ふ~んふんふんふ~ん!」」
案の定、妖精さんが何か言い返しましたよ?
「「え?!御主人様がきっと頼まれるから待っていろ、ですって?!」」
おや?御主人様って、誰?
「「ふんふんふーんふん!」」
「「今の私達は神の如き存在に徹しておけば良いんだ・・・とな?!」」
なるほど・・・もはや影でさえも無いと?
影ならば当人に寄り添う事も出来るでしょうが、神ならば何処に居るのかも分からない。
「「しょんなぁ~?!私ってばアルジ様にも話しかけたら駄目なの?」」
しょげかえる機動少女なアリシアさん。
「「折角、若き私の御主人様の元へ来れたのに?観てるだけなの?」」
「「ふん!ふ~~んふん!」」
妖精さんはケモ耳を垂れさせたアリシアさんに言い切ったようですけど、何と仰った?
「「これで仮初めでも女神に成れたじゃない・・・ですって?!
女神は女神でも、こんな影な女神なんてのにはなりたくないよぉ~~~」」
・・・女神ですか。
そう言えば保安官様は女神・・・級とか言ってましたっけ。
「「機動女神様に成りたかったのに?!
こんな何も出来ない女神になんて為る筈じゃなかったのにぃ!」」
「「ふん・・・フンふ~~~~~ン」」
ジト目で観ている妖精さん。何を言ったのでしょう?
・・・ま、この世界の自分に任せておきなさいよ・・・
多分、こんな感じではないかと。
「「機動女神で永遠なる赤毛のアリシアには、いつになったらなれるのよぉッ!」」
・・・長い目で観てやれば?新たなる世界で生きるニャン子な自分を。
「「アッチのアリシアは記憶操作されて保安官が居るとばかり思っているのよ!
この地球がチタマだとばかり思い込まされているんだから!」」
・・・教えてあげれば良いじゃないですか?
「「思い出してみなさいよ!
アタシが出張る間は、もう一人の私は寝ちゃってるでしょうが!」」
・・・会話もままならないと?
「「もしかしたら・・・アルジ様は私の事なんて忘れちゃってるかも?!」」
可能性は・・・大いにありますよね。
呼び出されなくなる恐れがありますね、現実世界のアリシアが強くなれば。
「「ふん・・・ふ~~~~ん」」
目を瞑った妖精さんが十字を切ります。
諦めろですってW
あ、訳さなくても分かりますよ、大概。
「「どひぃいいいいぃ~~~?!」」
もはや完全なる・・・居ても居なくても良い存在?
精神世界の中では消え去る事もままならず・・・諦めて貰うしかありませんね。
「「悲ニャぁッ!たしゅけてレミュウス様ぁ、ミシェル様ぁ~~~」」
上司様を呼んでも、ここは銀河の果て。
助けなど来ない・・・ですよ?
妖精烈華さんも、肩を竦めてお手上げ状態。
泣き叫ぶ機動少女なアリシアさんは、未来でも損な娘なのは変えられなかったようですね。
~~~~(=^・^=)~~~~~
瓢箪使いのキンギンを倒して、既に1週間近く経つんだけど。
この辺りにはもう、ドアクダーの存在が感じられなくなったんだ。
俺達の居る乗山市は、平穏に過ぎて行くばかりだったんだ。
「ユージぃ!のろのろしてたら遅刻だぞぉッ!」
今朝もシンバが出勤前に声を張り上げてやがる。
「ボクはもう出ちゃうからね!行ってきま~す」
「シンバ、お弁当忘れてるぅ~!」
萌も元気に送り出してるな。
孤児園を救ったシンバが、どうしてまたここに住んでいるのかって?
決まってるだろ、そんなの。
「ホント、シンバは働き者よねぇ?」
萌が誰かを指していやがる・・・・俺かよ?
シンバは相変わらず、孤児園の為に働いているんだぜ。
少しでも多く園に仕送するんだって張り切っているんだ。
そんなシンバをこの家に住まわせるのを提案したのは。
「ほらほら!学校行かなきゃ、遅刻だかんね!」
朗らかに笑う萌なんだ。
今迄見せた事も無い位の笑顔を、俺達へ贈って来るんだぜ。
「変わりましたよね萌さんは」
雪華さんがそっと俺に零すのも判るってもんだ。
「それに比べて・・・アリシアさんときたら」
で?雪華さんは奥に目を向ける。
そこには?
「赦してニャ~~」
ニャン子引っ掛けフックに猫掴みされてるアリシアが・・・
「なんでも朝一番からやらかしちゃったみたいなの」
なるほど・・・納得だ。
「もうお弁当をつまみ食いしニャいから~~」
全く以って、このお馬鹿は!
「おいしそうな匂いに負けちゃったニョニャァ~~」
哀れな声で啼くアリシアだが、萌が許す迄放置しておくか。
そう考えていたら、さ?
「ゆー兄、外してあげても良いよ」
まるで俺の考えていたのを、読み取ったみたいに萌が言って来たんだ。
「あ?ああ、分かった」
萌は気にもかけていない素振りで弁当箱をザックに詰め込んでいる。
ホント~に、変わったのかな・・・萌は。
ついこの間まで、あんなにギャイギャイ料理と格闘してたのに?
なんだか、余裕みたいなものを感じるんだが?
萌を見ながら、オシオキされていたアリシアをフックから外す。
「ごめんニャ~」
アリシアは上目使いに俺へ謝ると。
「萌たん~お昼には食べれるニャか?
あんな美味しい卵料理は初めてニャ!」
もう食い気が優ったようで、萌へと憑りつくんだ。
「そうね、アリシアには大目に入れておいてあげたよ」
「やったニャ~~~!」
喜ぶニャン子。微笑む萌・・・萌?
俺は微笑む萌の瞳を見て違和感を覚えたんだ。
この娘は俺の義妹である萌なんだろうかってね。
深翠の瞳の色・・・萌だ。
元の茶髪の色の影響か、黒髪がやや薄れて来たみたいには感じるが・・・萌だろ?
微笑む顔は昔から変わらないよな?
・・・いいや、変わった。
何だか少し・・・大人びた?余裕を感じるな。
なんだか、俺より大人になったみたいに思えちまうんだけど?
見詰めていたら気が付いたのか、
「なに?ゆー兄」
そうなんだ、呼ばれ方も変わったよな。
ゆー兄ぃって伸ばしていたのに・・・さ。
初めてそう呼んで来たのはあの日以来。
モエルさんとユージニアスが最期に現れた日。
あの闘いを終えて、眠っていた萌が眼を開けた後。
暫く呆然となっていた萌が、俺に言ったんだ。
「「ゆーじ・・・に。
もう一回逢えた・・・ような気分なの」」
小声だったからはっきりとは聞き取れなかったけど、確かにそう聞こえたんだ。
まさかモエルさんが萌を、現実世界でも乗っ取ってるなんて考えられない。
だけども、一瞬だけそう思えてしまったんだ。
萌の瞳に感じた不自然な違和感。
でもさぁ、モエルさんだったのなら。
俺がユージニアスだなんて言う訳がないだろ。
だって、勇者剣士はニャン男だったんだぜ?俺にケモ耳が付いてる訳じゃないだろ。
だから、気の所為だと想う事にしたんだ。
萌の中に宿っていたモエルさんは、勇者剣士と同じように消えてしまったんだから。
「いや、なに。遅れちまうぞってな」
萌の顔をじっと見てると、なぜだかモエルさんと混同してしまうんだよな。
「うん、直ぐ支度しちゃうから」
俺の視線をはぐらかすように横を向き、登校の用意を急ぎ出す萌。
その仕草を観て、もう一つの謎が湧いて来たんだ。
「あんな処に痣なんてあったかな?」
萌の左のうなじに、見たことの無い痣みたいなものを見つけたんだ。
最近はボブで通して来た萌の髪型が、少し変わっていたから分かったのかもしれない。
左の首筋に紅く浮かんでいる痣?
ー 左のうなじに紅い痣?
あんな所にあったっけ?知らない内に出来ていたのか?
気が付かなかったと言えば、それまでだろうけど。
なんだか気になるんだよな・・・何かを秘めている様に思えて。
「ほら、野良君も!早く行かなきゃ」
ぼけっと突っ立っていたら、雪華さんが急かして来た。
「あ、ああ。そうだよな」
いつの間にか、アリシアも萌も玄関から出ていた。
オカシイな、俺と話していたんだからいつの間に出られたんだろう萌は?
なんだか狐に化かされてるみたいな話だ。
「早く行くニャ~」
ニャン子が元気よく飛び出して行く。
「待ってよアリシアさん」
雪華さんが後を追いかけて走り出す。
その後ろを弁当が詰まったザックを手にした萌が歩いて行く。
「平和になったから、もう安心だよな」
ドアクダーも出没しなくなった。
平凡な生活が再び俺の前にあったんだ。
でも。
もう退屈なんて思わなくなったよ。
目の前を歩く萌に追いついた俺がてを指し伸ばす。
「持ってやるよ」
みんなの弁当箱を一纏めにした鞄に。
「え?」
俺に振り返った萌が翠の瞳を向けて来た。
手を挿し伸ばしたら、萌の手と重なったんだ。
ちょっと驚いた萌が、俺を観ている。
「いいよ、ゆー兄。一緒に持とうよ?」
重なった手から感じる萌の優しさ。
前だったら恥ずかしがって振り解いていただろうに。
重ねられた手をそのままに、萌が笑うんだ。
まるで・・・天使の如き微笑みを浮かべて。
「萌?変わったよな」
「うん?アタシって変なのかな?」
問いかけたら少しだけ不安そうに瞳を雲らせる。
「変じゃなくて・・・何て言うのかな。
少し大人になったって言うか、雰囲気が変わった気がするんだ」
そう言ってやったら萌がもう一度微笑んだんだよ。
「そっか。ゆー兄がそう思ってくれたのなら、そうなんだろうね」
はにかむ様に笑うのは変わらない。
「アタシだって本当の恋に目覚めたんだから当然よね、<エル>なんだから」
でも、俺の耳に微かに聞こえた呟きにドキリとしちゃったんだ。
萌はどこかに居る<エル>と名の付いた子に言ったんだ。
いや、自分を<エル>と呼んだ?
エル・・・モエルか?いや、違うな。
そう言えば、エルって旧約聖書なんかでは<天使>を指していた筈。
まさか萌が天使にでもなったって言うのか?
「天使かぁ・・・今の萌なら成れるんじゃないかな」
言わなくても良いのに、溢しちゃったんだよ。
その途端、重なっていた手に力を感じたんだ。
「なっても・・・なったって良いの?ゆー兄はそう想うの?」
立ち止った萌が下を向いて訊いて来た。
一瞬、俺は萌が天使になったらどうすれば良いのかを考えてしまった。
一瞬だけだぜ。
答えは初めから決まっているんだから。
「萌が天使なら、俺は天使を護る勇者だぜ?!
ずっと萌を護ってやるさ、いつの日までも・・・な」
重なった手から力が抜けて・・・萌が俺を振り仰いだ。
「じゃぁ!萌は天使にならなきゃだね!」
今迄観て来た萌の中でも、最高の明るい声で微笑んだんだ。
「天使になって、ユージの傍に居続けたい!」
明るい声で・・・涙を浮かべたよ。
それが俺、野良有次に向けられたモノだって分かるまで固まっちまったんだけどな。
俺と萌。
古の宿命を受け継いでしまった損な二人。
でもさ。
悪いことばかりじゃないんだぜ?
これからの事は俺達で切り開けば良いんだから。
だってさ。
俺は勇者。萌は天使。
カップルになるんなら、最高の取り合わせじゃねぇか?
だから・・・
「俺が天使をずっと護る!
今迄も、これからも。
永遠に、希望溢れる未来へ向かって!」
ユージの心は、数年間を共にしてきた萌を選んだようです。
伏せてきた想いを、遂に明かしたのでした。
出逢った時から、密かに想いを寄せていた二人。
宇宙から堕ちてきたアリシアによって、2人の想いが繋がったようです。
機動少女アリシアは2人にとっては愛の女神だったのでしょうか?
これで第2章もお終い。
次の第3章は、がらっと雰囲気が変わります。
まだ本性も名前さえも分からない<ナンバー11>との戦いが始まるのです。
一度。
ここで中休みとさせていただきます。
連載再開は、ツィッターなどでご報告いたします。
これからも損な子達の活躍にご期待ください。
(この後書き報告は、連載再開と同時に削除いたします)




