俺は早計だったのか?その4
一通り敷地内の案内を終えた処で、俺は次の行動を決めなくっちゃいけないと考えたんだ。
このままぶらぶらと歩いているだけじゃ、本当に学校案内になっちまうからさ。
「なぁアリシア。ついて来たのはいいけどさ、情報をどうやって集める気なんだよ?」
俺が次の行動に出られるのも、アリシアの返事一つなんだ。
探している保安官とやらの情報を、どうやって探せば良いのか聞いちゃいないんだから。
「・・・・・・」
ダンマリかよ、おい?!
「しぃ~・・・ニャ」
?なんだ?
返事を返さないと思ったら。
アリシアは何かを感じているのか、帽子から突き出したケモ耳で辺りを伺っているようだ。
「なんだよアリシア?何かあるのか?」
小声で俺が訊いたら。
「誰かがアタシ達をつけているニャ」
おいおい?!学校の中で俺達をつけているだって?
「誰かって・・・誰だよ?」
「判らないニャ。なんだか悪意みたいなものを感じたニャ」
本当かよ?悪意って・・・マジか?
「もしかしたらゴリの奴がアリシアを狙って?」
職員室で観た体育教師でゴリラのような丹鮴を思い出した。
「奴ならやりかねないからなぁ」
あの体躯を持て余しているのは、普段の素行を観ていれば判るという物。
それに職員室でアリシアを嘗めまわすように観ていたのも、俺の考えを肯定させた。
「そうじゃないニャ、あそこに居る女子みたいニャ?」
「はぁ?!女子ぃ~ッ?」
アリシアが校舎の脇をを振り返って指し示した。
釣られて俺もそこへと視線を振り向ける・・・と。
そこに居るのは。
「あ、萌?!」
振り返った途端に目が合った。
「きゃわぁッ!」
俺と目が合った萌の奴が、素っ頓狂な声を上げたかと思うと。
「あ、おい待てよ萌?」
いきなり逃げ出しやがったんだ。
何してたんだアイツ?
「あの女子はアルジのユージにとってどんな関係ニャ?」
萌を知らないアリシアが訊ねて来た。
「ああ、萌か。アイツは俺の義理の妹なんだ」
「義理の?妹さんニャ・・・そうニャんだ」
ふうぅ~んと訳知り顔で、走り去った萌と俺を見比べるアリシアが。
「確かに似てないニャ。良かったニャあの子」
「ほっとけ!」
しげしげと俺の顔を観て言いやがった。
どうやらアリシアは異星人の容姿は判別できるのが、これで分かったよ。
1年生の教室に駆け込んだ萌。
「どうしたのよ萌ポン。アンタらしくないじゃない授業をすっぽかすなんて」
クラスメートの大牧春香が、隣の席から訊いて来きました。
萌さんとは違って長い髪をストレートに垂らしている、少し大柄な子です。
「別に・・・良いじゃん。春香には関係ないっしょ」
答えて手に下げていた弁当箱を机に、どんッと置いて。
「あ・・・渡し損ねた」
やっと自分が手にしていた弁当箱に気付いたのでした。
「ありゃま、萌ポンともあろうお人が珍しや」
ふざける春香の声も、今の萌さんには上の空。
「あの子・・・ゆー兄ぃのパーカー着てた。
昨日の晩には居なかった筈なのに・・・いつの間に服を貸していたの?」
女の勘が働いたのでしょうか、萌さんは苛立つ心の底で考えてしまうのです。
「まさか・・・あいつが?ゆー兄ぃの彼女とか?ありえないッ!」
ケモ耳帽子を被り、尻尾の付いたカーゴパンツを穿いていた・・・自分と同い年位の女の子に。
「じぇ・・・ジェラシィ~じゃないもん。あんな奴なんて・・・・」
さっき見た赤髪の少女の容姿を思い出した萌さんは、
「あんな・・・おっきぃかったな・・・アタシよりもずっと」
俯いて比較してしまうのでした。
「萌ぽぉ~ん、お~い?」
ブツブツ呟く萌さんに春香さんが手をひらひらさせて訊いています。
現実逃避してるのかと・・・
「そ~言えば・・・ゆー兄ぃの押し入れに入ってたエッチイ画像の女って。
みんなおっぱい大きかったっけか・・・な」
・・・萌さん、見ちゃったんですか。いけませんねぇ・・・
「どうしよ、もしもゆー兄ぃの彼女だったら」
ヤンデレを募らせる萌さん。
「お~い萌ポン?」
さすがに春香さんも手を出しかねているようです。
周りの空気を凍らせるヤンデルっ子には。
「そこでニャ!先ずは行き当たりばったりに声を掛けるニャ!」
どこがそこでなんだよ・・・
「声を掛けるって?保安官を知りませんかって訊ねても誰も知らねぇ~ぞ?」
「当たり前ニャ!知ってるって言う方が怪しいニャ」
どどんッと、胸を張ってアリシアが言い切ったんだが。
「じゃぁどうやって?何を訊くってんだよ?」
「アタシの方から名乗り出るニャ!ニャン子星人の保安官補助手だってニャ」
・・・はぁ?!
「もしもアタシが異星人だと分れば、相手もはいそうですかって正体を現すかも知れないニャ」
「・・・もしも~し?」
そんな話誰が信じる?
「もしかしたらドアクダーの一味に知れて、動き出すかもしれないニャ!」
「あのなぁ・・・」
俺達の居る高校に、悪の組織が居るのかよ?
「生徒の中に居なくても、親兄弟や親族に化けているかも知れないニャ!」
勝手に盛り上がっているアリシアに、俺は呆れてモノが言えなくなっちまう。
「もしもそうだとしてだ。アリシアに悪の組織と闘うだけの技量があるのか?」
ツッコミを入れた訳じゃなくてダナ。
滅茶苦茶低次元の方法に嫌気がさしただけなんだけど。
「・・・そ、そうニャ?!保安官様頼みニャ・・・」
うむ。自分には悪の組織と事を構えられない自覚はあったようだ。
「だから派手に暴れて貰えば、きっと保安官様が出馬される・・・筈ニャ」
だんだん声のトーンが落ちてますが?
「とどのつまりは・・・アリシアは何も出来ないと?」
「それを言うニャ~ッ!!」
泣くアリシアに呆れる俺。
「まぁな、アリシアの事だからそうじゃないかとは思ったよ。
でも、確かに方法としては良いかもしれないし、何もしないよりはマシなのかもしれない」
「ニャ?!」
俺はこう思うんだ。
アリシアの言った通りだとしてだ。
この地球上に異星人達が居るとして、どうやって探す?
相手は地球人に化けているとしたら、はい私もですって名乗り出るか?
逆にバレないように誤魔化そうとするんじゃないのか?
でも、名乗り出たアリシアが自分達を捕らえに来た保安官助手だと知ったら?
何時かは自分達の存在を嗅ぎつけて、逮捕されてしまうと考えたら?
「アリシアに訊いておきたいんだけど、ドアクダーとかいう組織は凶悪なのか?」
俺の答えを肯定するような言葉が帰って来た。
保安官補助手の口から。
「そうニャ!ドアクダーは居付いた星を根こそぎ悪に染めようとするニャ」
これで確定だな。
「だったらさ、アリシアの言う方法で良いんじゃねぇの。
もし俺がドアクダーだったら、間違いなく保安官補助手の抹殺に手を染めるよ」
「あニャッ?ニャンと・・・抹殺ニャ?!」
飛び上がって驚くニャン子。
「そう。禍根を残さないようにバッサリと」
「悲ニャぁッ?!」
驚くより恐慌状態に陥るアリシア。
「や、やっぱり止めるニャ!他の方法を考えるニャ!」
自分で言っておきながら・・・こ奴は!
「待てよアリシア。そうなる前に保安官が出てきたら済むんだろ?
保安官に連絡が着いたら、アリシアの任務は終わるんじゃなかったのか?」
「そうニャが・・・もしも保安官様が来て下さらなかったらどうするニャ!」
そこ迄は考えていなかったけど、そうでもしないとアリシアは永久にこのまま。
「帰りたくないのかよ?このままじゃあ一生地球に住まなきゃならなくなるぜ?」
「それも嫌ニャ~!」
両腕を小脇に沿えてブリブリ振って泣くアリシアに、トドメの一言を。
「もしかしたら、もうとっくに存在を知られてたりして?」
「悲ニャぁ?!どうするニャどうするニャ?」
更なる恐慌状態に落ちたな。
「どうするもこうするも。
相手に告げてやりゃいいんだよ、保安官がこの星にも居るってね。
そうすりゃ懼れて手を出さないかも知れないし、仲間と逃げ出すかもしれないだろ?」
「ホントーにそう思うのかニャ?」
怯えながら縋り付く様に俺に訊いて来る。
「万が一の時は・・・諦めて」
「嫌ニャぁああああああああああぁッ!」
泣いた啼いた。
こんなに面白いニャン子だったんだな、アリシアって。
いじめっ子だとか言わないでくれよ、俺だってどうして良いのかは分からないんだから。
暫く放心状態だったアリシアに、自販機からジュースを買って来てやった。
ちょうど昼休みに突入するチャイムが鳴ってたしな。
「これでも呑んで落ち着いたら?」
差し出したのはレモンティー。
「プルリング・・・珍しいニャ」
缶紅茶が珍しいのか、しきりと眺めまわして。
「この星にはまだアルミニュウムがあるのニャ?」
「え?アリシアの星にはないのか?」
自分の缶コーヒーを開けてから訊いたんだ。
「ニャン子星だけじゃないニョ、他の星にも殆ど残ってないニャ。
だから飲み物なんて大概は形状記憶合金に入ってるし、
缶型なんて今初めて観たニャ、ボトルタイプやチューブ式しか観たことがないニャ」
物珍し気に缶紅茶を観ているアリシア。
そう言われて再確認したんだ、ニャン子の少女が異星から来たんだって。
「そっか。文明が変わると容れ物も変わるんだな」
「それが良いことなのかは分からないニャが」
プルリングを開けて、アリシアが紅茶を口にした時。
「仲が宜しいようで」
訊き馴染んだ女の子の声が俺達を呼んだ。
「ほらっ!今日の分!」
突き出されたザックに入っているのは、間違いなく俺の。
「さっさと食べなさいよ」
ツンケンしたモノの良いようだが、こいつとしては良く喋ってる方だ。
「萌、持って来てくれたのか今日も?」
「ふんっ!アタシじゃなくてお母さんが持ってけって言うからよ」
学校ではいつもそうだ。
ツン状態で普段なら喋りもしない。
だけど今日は声を掛けて来た・・・珍しく。
そして、差し出している手が震えてる?
「なんだよ萌?なにか気に入らない事でもあったのか?」
震えている手の意味が計り知れなくて。
「あったのか・・・ですって?この頓智気兄貴!」
途端に喰いつかれた・・・義理妹に。
「帰るまでに持って来なさいよね!」
投げつけるように弁当が入ったザックを放り出し、踵を返して歩き出そうとした萌に。
まさかの娘が声を掛けたんだ、しかも・・・
「さっきコソコソと観てたニャ?どうしてコソコソしてたニャ?」
萌に遠慮なく訊いたのはアリシア。
猫耳尻尾有りのニャン子が、火に油を注いじゃったんだ。
ビクンと立ち止まる萌。
「アルジのユージに用事があったのニャったら、なぜコソコソ見てたのニャ?」
アリシアとしたら義理でも兄妹なのにと思ったのだろう。
こそこそ見る必要なんてないのでは・・・と。
「あるじ・・・のユゥ~ジぃッ?!
あなたッ!ユージ兄ィの・・・彼女のつもりなのッ?!」
睨みつけて来た萌の顔には、あからさまに怒りが見て取れた。
「は・・・ニャ?」
意味不明だったのか、アリシアが困惑したような顔で萌を観てる。
「今いったじゃないッ!あるじって・・・それって主人のアルジだよね?!」
怒る萌。
だけども、大きな勘違いをしているぜ。
アルジと云うのは・・・
「絶対認めないんだから!」
萌が怒りに萌えている・・・なんて冗談を言ってる場合じゃない。
だけど、こんな萌を観たのは初めてだ。
俺は弁当箱を持ったまま、二人の少女がどうするかを見守ってしまった。
・・・ほう、これが修羅場とか言う宴なのか、なんてね。
修羅場・・・なんていいますか、今一違う気がしますね。
さぁ、萌さんとアリシアはユージを巡って争うのでしょうか?
違う気がするんですがねぇ。
次回 誤解?もっかい?!地下一階!その1
誤解・・・まぁ、そうでしょうけど?もいっかい?で・・・なぜ地下一階??