ブルーブラッド・蒼き貴公子 その2
勇者剣士ユージニアス。
彼は継承者たる者へ異能を引き継がせる・・・
勇者剣士から継承した異能。
その力を呼び出すには、祈りに近い召喚術式を唱えなきゃならなかった。
でも、長々と詠唱する必要なんていらないんだ。
心の中で沸き起こる名を呼べば良いだけだったから。
「俺に力を貸せ!
無限光よ、使徒を我が手に!」
無限の光。
王者の剣の謂れである使徒名・・・最後の剣マルクト<サンダルフォン>
ユージニアスが持っていたのは最強にして最期の剣。
神々が持つとされる審判を下す魔王剣だ。
この俺にそんな大層な剣が持てるのかって?
持てるんだよ、受け継いじまったから。
突き出した右手の中で強大な力が模られていく。
ドォオオオオッ!
金色の光・・・無限光と共に。
ギュルルル!
蒼き剣が現界する!
蒼き柄、黄金の鍔、そして蒼き刀身が模られる。
見る者を圧倒する異界の魔法剣・・・刀身から湧きかえる神々しき審判の輝。
剣を握る手の先から、身体中に光がしみ込んで来るような感触。
「「正しきは罰せず、邪悪には粛罪を!」」
剣の中から使徒の声が伝わる。
マルクト・サンダルフォン・・・大天使の名を冠した剣。
継承者になった俺に求めて来る。
「「新たなる我が主よ、御名を示されよ。我に臣下の誓いをなさしめよ」」
始まりの時。
俺は勇者剣士の遺志を受け継ぐ者となる。
「友を救う為、立ち阻む者を退ける為。
ユージニアスから引き継ぐのは正義の心と異能。
邪なる者を打ち砕く最後の剣よ。
守護天使サンダルフォンは野良有次の刃となるんだ!」
現界した俺の天使。
俺の異能の在処。
神にも等しき絶大なる異能を誇る魔剣<サンダルフォン>。
今、新たな主となった俺が命じるのは。
「俺と共に在れ!俺が願う様に闇を斬り裂け!」
無限光の中、使徒が新たなる主に誓いをたてる。
「「我が主ノラ・ユージよ。
誓って守りましょう・・・我と我が名を以って添い奉る!」」
金色の光が消え、王者の剣は新たな主を認めた。
今の今迄異能など持っていないと思えた俺に、使徒サンダルフォンが復命したんだ。
俺は今から普通の高校生ではなくなる。
それがどんな意味を持とうが関係ない。
今やるべきなのは、アリシア達を救うだけなんだから。
邪な野郎から救い出してみせるだけなんだから!
光が消えた後、右手に現界した剣を握る俺を観て。
「あ・・・あれは?!」
セッカを介抱するランが眼を見開きます。
「ゆー君?!本当のユージニアスなの?」
いつか見た勇者剣士が握っていた剣を観て。
「違うわ・・・彼は。彼は野良有次、あなた達のアルジになるべき人よ」
かけられた声にランが振り返る。
そこには萌の姿をした・・・萌ではない少女が居たのです。
「萌ちゃんじゃない?あなたは?!」
セッカは気付いた。ユージの義妹ではなくなった娘がいるのだと。
「私は<地図の巫女>。嘗てユージニアスと共にここへ来た娘よ」
「なんだって?!アンタがゆー君の宝だというの?」
ランも萌ではなくなった娘の正体に気付きました。
「そう・・・この子に宿り、時が満ちるのを待っていた。
彼が自ら異能を欲する時まで。
自分の手で悪魔から誰かを救おうとするまで・・・」
瞳の色がより深く濃い翠になった萌から、巫女の声が届けられました。
「彼は勇者剣士の遺志を継ぎます。
誰かを護り、皆の為に闘う勇者へとなるのです」
「ユージが?異能なんて持っていないのに?」
ランがそう言いかけて口を閉ざします。
目の前に居るユージの手に握られた大剣が意味したものを悟り。
「王者の剣・・・間違いなく勇者剣士の魔法剣」
それを握れるという事は?!
「いいえ。
彼が持つのは、新たな使徒。
彼の属性である第10のセフィラの守護者が形になった物なの」
「第10のセフィラ?」
ランは地図の巫女が言う<命の樹>の守護天使を知らなかった。
「そう。最期にして最強なる使徒。
ユージを護りし者はマルクト・サンダルフォン。
この星を護る最強にして最期の天使よ」
「サンダルフォン・・・旧約聖書の大天使?!」
名前だけは聞いた事があるようで、ランは戸惑いを隠せずにいたようです。
「今、現界した魔剣はね。
ユージの中に眠っていた異能が目覚め始めた証なの。
まだ完全なる力を発揮は出来ないでしょうけど、目の前に居る者には立ち向かえるわ」
地図の巫女が示す相手は、魔剣を目の当たりにして驚愕しているのでした。
「力は完全では無くても、心はもう完全な勇者。
だから彼は・・・きっと勝つわ」
地図の巫女の言葉に、ランは頷かざるを得ません。
「そうよね、ゆー君の異能を受け継いだんだものね」
勇者剣士が誇った絶大なる異能を思い出して、
「モエルさんも受け継がせる気なの?
彼に託された運命に望みを託すのなら、あなたの宿命を萌ちゃんへも?」
ランが言った彼とは、勿論ユージを指しています。
「それが出来るのなら。でもこの子はまだ自分が為すべきことを知らない」
胸に手を添え、モエルさんが溢します。
「この子には私みたいになって貰いたくはない。
萌には萌の生き方があるのですから・・・」
地図の巫女という忌み嫌う存在には成って貰いたくないと。
「この宇宙のどこかに。
きっと私という災禍を解放してくれる方がいると思うの。
これまでずっと待ち続けて来た・・・永い時を。
もう少しだけ待ちたいと思うの、我儘だとは思うけど・・・」
モエルさんが願うのは、萌に宿ったままで?
「ユージ・・・今は再び眠りにつかれた彼。
ユージニアスが願う解放の時まで、私は待ちたいの。
この世界の勇者ユージが、希望を呼び込んでくれるかも知れないから」
違うようです。
モエルさんはこの世界に現れた勇者に期待しているみたい。
「もし・・・もしも萌が望んでくれるのなら。
私の運命を継承すると言うのなら・・・託しても良い」
萌さんが望むでしょうか?
ふっとため息を零したモエルさん。
ドアクダーを前に、剣を構える少年を誇らしげに観ていた地図の巫女が。
「きっと・・・私も委ねられる。
あの子達がそうであるように・・・
蒼き貴公子と、再び愛を奏でられるって思うから」
微笑む地図の巫女モエル。
彼女が本当に願うのは、解放の時だけではない?
萌の姿のままで見詰めるのは魔剣を構える勇者の姿。
嘗て自分の前に居た蒼き貴族と同じ正義を貫く人。
「ねぇユージニアス様。きっと守ってくださいますよね?」
手の届く距離に居る勇姿に手を差し出す事も出来ず、心は逸るばかり。
「いつの日にか・・・きっと」
願いが叶うのはいつの日だと思うのでしょう?
もう直ぐ?
まだまだ先?
ですが、これだけは言えたのです。
「新たな勇者ユージ。
あなたは大切な人を守り抜いてみせれますよね?
偉大なるあの方と同じ流れを汲む者ですものね。
蒼き貴公子ユージニアス様の生まれ変わりなのですから」
守り抜くのは約束?それとも大切な人?
その両方を守れるのが真の勇者なのですから・・・と、地図の巫女は祈りを捧げるのでした。
モエルは宿命を引き継がせるのを戸惑うのでした。
あまりにも過酷な運命だと・・・勇者剣士に守られ続けても。
ですが、宿命を終わらせれる勇者が彼だと思い直し・・・
ドアクダーキンギンによって、古の2人が決断を下す時。
新たな物語が始まるのでした。
ユージと下僕達・・・そして宿命の御子。
そうなるのはあと少し後の事。
次回 ブルーブラッド・蒼き貴公子 その3
放て!審判の光を。囚われた2人を取り返すんだサンダルフォン!




