ブルーブラッド・蒼き貴公子 その1
遂に彼の姿が?!
彼・・・勇者剣士ユージニアスが?
「がぁ~はっはっはっ!もはやお前達に勝機はないぞ!」
おっさんドアクダー、キンギンが嘲りやがる。
「さぁ、大人しく仲間の元へ行くが良い」
差し出して来る瓢箪の首先。
下手に返事してしまえば、忽ちにして飲み込まれてしまう。
「いいか、絶対に返事しちゃぁ駄目だからな!」
残された萌に嵐、そしてセッカに言い聞かせる。
もしも瓢箪に飲み込まれてしまえば、萌・・・いや、モエルさんを守る事が出来なくなるんだ。
それに、二人を助け出す事だって。
「うん、分かったよゆー兄ぃ」
背後に居る萌の声が聞こえた。
このピンチにモエルさんは出ては来ていないようだ。
きっとキンギンに、自分の存在を教えないように務めているんだな。
狙いは<地図の巫女>であるモエルさんなのだから。
「でも、こうなってユージニアスに出張って貰えないのは辛い」
俺の中に居る勇者剣士の異能なら、たちどころの内にキンギンなんて打ち負かせられる筈なんだ。
「おい、もう一人の俺。出るのなら今だぜ?」
他人を宛にするのは良くはないが、今はそんな悠長な話をしている時では無いんだ。
「二人を救うには、アンタの王者の剣が必要なんだよ」
審判を下す魔法剣。
それがあれば、きっと瓢箪の中から助け出せる筈なんだ。
「魔法剣にあるべき場所へ戻らせれば済むんだから」
それに・・・キンギンもフッ飛ばしてやるのに。
「出て来れないのなら・・・俺に剣を貸せよな!」
そう・・・使いきれないとしたって。
「俺にも王者の剣が使えるのなら、お前の代わりに萌を・・・いや。
アンタの守るべき存在を、きっと護ってみせるぜ!」
モエルさんを。
<地図の巫女>って娘を・・・護り抜いてやるぜ!
心の底で。
俺は萌の微笑む顔を思い浮かべる。
それはボブカットにする前、栗毛だった頃の姿。
長い髪を靡かせて微笑んでいる少女の姿。
「きっと・・・護ってやる。そう誓ったんだよ俺は!」
義兄妹になる前。
出逢ったばかりだった頃の<萌>に約束したんだ。
あの日、あの晩。
萌を襲った怪異を叩きのめした後。
覚えていないけど・・・思い出した。
「俺は・・・萌に・・・約束したんだよ。
必ず・・・いついかなる時だって・・・護るって」
何かが俺の中で開かれていく。
重い扉を抉じ開けて、何かが出て来ようとしている。
蒼い輝・・・
蒼き光を纏う奴が・・・・
キィイイイイイィ~~
光の中から出て来たのは・・・・
「「ユージ・・・さぁ・・・行きましょう」」
萌の中でもう一人の萌が手を差し出しました。
「「この子達に・・・授けましょう」」
輝の中で揺蕩う乙女・・・その名は。
「「私・・・この時を待っておりました。
私はこの子達に委ねたいと想うのです」」
光の中、差し出された手の先には?
地図の巫女モエルが告げる相手とは?
キイィイイイイィ~
扉が開きました。
溢れる蒼き光の中、扉の中より歩を進める者が。
「「そなたが望むのであれば・・・」」
蒼き甲冑に身を包んで・・・
ギャキンッ!
背に負った大剣を抜き放ちます。
「「我が剣を以って・・・誓いとなさん」」
蒼き鎧に身を包んでいるのは?
「「我が剣は、聖なる者へと譲渡される。
まだ未熟なれど、正義を心に宿しているのは疑う術もない」」
大剣・・・その名は?
「「我が遺志にそぐわん者よ。
心に正義を輝かせるものよ。
我と巫女の名により受け継ぐべし。
審判を司る女神より受け継いだ王者の剣を!」」
審判の女神・・・ジャスティゴッデス?!
「「月より出でし女神にして裁きを司る者。
正義を信奉し、邪悪を阻む女神から賜った剣よ。
我が遺志を受け継ぐ者に異能を授けよ」」
ユージニアスは剣を突き上げ、天に願いました。
そう・・・宿る少年へと託す為に。
「俺の中でアイツが剣を抜いた?」
何かが起こりつつあるのが分かる。
強い力を感じ、俺が俺ではなくなるのが判ったんだ。
「つまり・・・変わるんだよな?」
意識を奪われ、奴が入れ替わろうとしているんだ。
「いつもは迷惑だったけど、今日は恩にきるぜユージニアス」
このまま、俺は意識を奪われて・・・入れ替わる。
筈だった。
だったんだけど?
「「聞こえているかアルジのユージよ?」」
初めて。
ユージニアスの声が聞こえて来た。
「ああ、ばっちりとな」
ユージニアスの声は重く・・・そして、どこかで聞いた事のある声だった。
「「お前は王者の剣を所望するか?」」
「えっ?アンタの剣をか?」
意味が解らなかったが、確かに俺は。
「ああ、今直ぐに!俺に貸してくれるのならば」
貸して貰っても使いこなせるかは分からない。
「仲間を助けたいんだ!だから今直ぐ必要なんだ」
何も出来ない内に終わらせられるのは御免だ。
みんなを助けたい・・・護りたいんだ。
「俺に使いこなせるかは分からない。
だけど、大切な人達を護りたいんだ!
ユージニアスのように大切なモノを俺の手で護りたいんだ!」
意識の中、光から誰かが現れ出る。
それは・・・蒼き剣士?
「「良く言った。それでこそ継承者だ」」
「え?!アンタが・・・勇者剣士?」
眼を疑うけど・・・そうらしい。
何度も見返したってユージニアスは・・・
「「そうだ、私が貴族・ユージニアスだ」」
・・・ニャ男?!
金髪で蒼き瞳。
そこまでは想定内だが・・・ケモ耳が付いていやがる。
蒼き甲冑に身を包んだニャン男が、俺を観てる。
「「継承者よ、この剣をお前に託す。
審判を司る魔法剣は、邪悪を斬る為だけではない。
間違った道を歩もうとする者をも切り裂くと心せよ」」
つまりは聖なる魔剣って話?
「「剣は異界から出でる。
常に身に着けておく必要は無い」」
そうか?!だったら使いたいときにだけ呼び出せば良いんだな?
「「継承者たる自覚を持て。
一つ間違えば、魔剣は己をも斬ると心しておけ」」
道を外せば、則ち魔剣として自らを斬る羽目にもなるか?
「「最後に言っておきたい事がある。
地図の巫女を護って貰いたいのだ、私の代わりにだ。
愛してやまないモエルを・・・護ってくれ」」
勿論だとも!
それが萌を護る事にもなるんだからな!
「「頼んだぞ・・・我が継承者よ」」
光の中、扉の中へ勇者剣士が消えていく。
それと同時に、俺の意識が戻って行った。
「そらそらどうした?最後のお祈りでもしていたか?」
嘲るキンギン。
だけど・・・半分は間違いだ。
「生憎、俺は信仰が厚くなくてね」
信じられるのは仲間達の方だ。
「だけど、最期の祈りを捧げていたのは間違いじゃない」
「?!どういう意味だ?」
キンギンが嘲るのを辞めて訊き返して来る。
「決まっているだろう?
お前をぶった斬る為の祈りだよ!」
「ふッ、ふざけた言を・・・」
言っちゃぁいないぜ?
俺は差し出した手の中に感じていた。
心の奥で湧き出て来たスペルを唱えていたんだ。
ユージニアスから受け継いだ剣を現界させる為に!
ニャンと?!
ニャンということでしょう?
勇者剣士がニャン雄だったなんて?!
まぁ、アリシアがニャン子だったから予想できたかも。
それは・・・この際措いて置いて。
ユージが手にした使徒とは?
旧約聖書にそれが記されていました・・・
次回 ブルーブラッド・蒼き貴公子 その2
使徒<サンダルフォン>?!その名にピンときたら。<命の木>で調べてみて?




