表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機動女神エターナル・レッド ケモ耳ニャン子は俺の女神様?  作者: さば・ノーブ
第2章 ブルーブラッド
62/144

Emo~い その1

家に連れ帰ったシンバに訊いた。

なぜ襲ったのかと・・・


するとシンバは笑いやがった?!

紫髪でオッドアイ。

男の子っぽい姿の彼女は、シンバ・グラトナだと名乗った。


はにかむ様に笑うシンバさんは、その名が本名だとは言わなかった。

そう呼ばれ続けて来たから、自分でも呼称に使っているだけだと言ったんだ。


なぜかって?

それは、彼女がどうしてアサシンなんかをしているのかと密接に関係していたんだ。



訳を質した俺達に、シンバがぽつりぽつり話してくれた。

どうして俺を狙ったのか。それはこうした経緯いきさつなんだ・・・



初めにアリシアが、なぜ若いのに大金を欲しがったのかを質したんだ。

するとどうしても、あの金額が必要なのだと答えるんだ。


俯いたシンバが、素直に答えてくれる。


でも、どうして必要なのかと萌が訊いたんだ。

暫く話すべきかを悩んでからシンバは、訳を教えくれた。


そして・・・

シンバ・グラトナが本名ではないと云っていた訳も、明かされる事になったんだ。


物心がついた時には孤児園で暮していたのだと言う。

捨て子だったのか、誰かが幼子の命を救う為に園へ送り届けたのかは分からない。

丁度萌が生まれた頃の話だ。

乗山市から遠く離れたとある地方が、巨大地震に見舞われたのを思い出したよ。

何人もの子供が肉親を亡くし、園を頼って来たのもニュースで観た事がある。

自我もないシンバには親兄弟がいた事さえも分らなかったんだろう。


だから、自分がどこの誰なのかを園の先生からも教えられていないとも語った。


天涯孤独・・・自分が誰なのかも知らないシンバと名乗る娘。


だけど、シンバは自分が不幸だとは言わなかった。

本当に天涯孤独だなんて、世捨て人のような恨み辛みは溢さなかった。


なぜ?どうして孤独ではないというのか。


その理由が、今回の暗殺未遂事件の発端だったんだ。


「ボクの生まれ育った園が経営不振で、取り壊されてしまいそうなんだ」


教えてくれたシンバが唇を噛んでいる。


「園はまだまだ多くの子供達を養っていかなきゃいけないんだよ。

 退所させられる子供達の行き場なんて、他にはないんだから・・・」


契約金を園の維持に使うつもりだったのは、言葉の端から伺えたんだ。


「補助金だって減らされる一方なのに、どうやって維持できるんだ。

 ボク達が働いた僅かな金なんかじゃ、到底賄う事なんて出来っこないというのに」


義務教育を終えた子達が必死に稼いだ金を貢いでも、園は取り壊される運命なのだと嘆くんだ。


「先生達は悪くない。

 悪いのはどれ程必要なのかも考えないお役所役人達なんだ。

 税金が払えない?公共料金が滞ってる?借金が膨らんだ?

 だったらなぜ助けてくれない?

 天下り役人に支払う金が有るのなら・・・

 どうして必要な場所に手を挿し伸ばしてくれないんだ?」


嘆くシンバは、最期にこう言ったんだ。


「どうしても助けてくれないというのなら。

 ボクが必要な金を造り出さなきゃならないんだ。

 どんな手を使っても、どれほど薄汚い金だとしたって。

 園を護る為なら悪魔に身を売っても、稼いでやるだけだ」


つまりは・・・そういう経緯なんだ。

彼女・・・シンバは、元から悪いことをする子じゃ無かっただけ。


必要な金額をかき集める方法が暗殺者(アサシン)だっただけの事だ。

しかも聞いたところに因れば、まだ犯罪に手を染めた訳でもなさそうだし。


話を聴いた俺は、心底標的が俺で良かったと思えたよ。

初犯は未遂で終わり、しかも金は悪者ドアクダーから取れる筈だから。



「ううっ・・・なんてエモい話なの」


萌が憚ることなく泣いてやがります。


「そうだったのですか。心中御察しいたします・・・シクシク」


雪華さんまで貰い泣きですか。


「・・・ニャ?」


机の上に残された晩飯をアリシアが眺めていやがるんだが?


「アルジのユージを狙った経緯が、まだ話されてはいニャいニョ?」


そう言えば。

ニャン子も、偶にはまともに訊くんだな。


「そうだったな。

 奴と接触したのは、ボクが異能使いである事がバレちゃったからなんだ。

 地龍の魔法で泥棒を取り押さえたのを、アイツが観ていたからなんだ」


「アイツ?ドアクターか?」


うん・・・と、頷いたシンバが続ける。


「仕事の都合でこの街まで来た時、ちょうど窃盗事件現場に出くわしちゃったんだ。

 恰幅の良いおじさんからアタッシュケースを盗んだ男と鉢合わせしたんだけど。

 そいつがいきなり斬り付けて来たから・・・」


身振り手振りを交えて話すシンバが、右手を突き出すと。




 シュン!



細い剣が現界したんだ。


「危ないなぁ~」


萌が分かったから仕舞ってと、手ぶりで教える。

直ぐに了解したシンバの手から剣が消えてしまうと。


「地龍の剣で男から鞄を取り戻したのを、オジサンが観ていたんだよ。

 そのオジサンが・・・依頼主って訳。良くある話だろ?」


良くあるモンか。裏社会の話じゃないんだから。


偶々出くわしたとシンバは言うんだけど、俺にはそうは思えなかったんだ。

仮にもドアクダー要員が、鞄を盗まれるなんて間抜けな真似をする筈がないじゃないか。


俺が察するに、シンバを初めからアサシンに仕立てようと目論んだのだろう。

地龍を操れる異能を、どこかから調べ上げて雇う気で仕組んだ。


孤児園を救いたい一心のシンバを騙し、俺を殺させた後で組織から抜け出せないようにする気ではなかったのだろうか。


一挙両得に運ぶつもりだったのは、契約金を成功報酬にした事からも容易く窺い知れる。


「シンバを組織員に貶めようと企んだのは、雪華さんの件でも判断が付くな」


雪華さんが無理やり契約させられていたのを思い出したんだ。

奴等は、自分達の都合の良いように運びやがる癖がある。

無理強いでも従わせるのをシンバは知らなかったのだろう。


「良かったよ、未遂で終わらせられて。

 でなかったら今頃はドアクダーの一員にされていたかもしれない」


自分の身に起きたであろう悲劇を回避出来たのも知らないシンバが、俺に小首を捻って訊くんだ。


「初めから聞いていて分からない事があるんだけど。

 そのドアクダーとか言うのって、どんな会社なんだ?」


やはり知らなかったか・・・名前からして弩悪な組織だよ。


「ドアクダーは、全宇宙に跨る秘密結社らしい。

 犯罪を繰り返し、自分達の野心を果そうとしている集まりなんだ」


「え?!もしかして漫画やアニメなんかで良く居るパターンの奴等?」


その通り・・・なんだよなぁ。


「そう!そのドアクダーに接触されていたんだよシンバさんも」


「良かったですね、奴等に騙され続ける事にならなくて」


萌も雪華さんも、シンバが悪に染められなかったのを喜んだ。


「しかも初犯がゆー兄ぃ暗殺だなんて。

 余程シンバさんが放てる地龍の異能ちからを買っていたんだね」


何気なしに萌が言った時、シンバが首を振ったんだ。


「言い加えておくよ。

 もしも罪もない人を殺してしまったのなら、ボクの地龍は邪悪に染まる。

 もし異能(スタント)が邪悪になったのなら、ボクも邪な奴に堕ちただろう」


はっきりとそう言い加えたんだ。

使徒が邪気を孕めば、現実世界の異能使いも闇に堕ちるんだと。


「契約主が君を殺せと言ったから簡単に引き受けたと思うのかい?

 そんな訳がある筈がないだろ。

 アイツが君を殺せと言った理由はね、君が邪悪な異能使いだと聞いたからなんだ」


「え?!俺が・・・邪悪?」


邪悪と聞いた俺は、咄嗟にニャン子を観たんだ。

紅髪で深緑の瞳を輝かせる娘を。


「邪悪ではないと思うけどな・・・」


ぼそりと呟いた。

テーブルで残った晩御飯を食べているニャン子を睨んで。


「唯、みんなが食べるのを忘れているのを良いことに、盗み食いしてやがるだけだ」


「ニャ?!見つかったニャ~~~?!」


邪悪というより幼稚だ。


「こらぁッ!アリシア」


「悲ニャぁッ?!」


萌が激怒してアリシアに迫ると、食い逃げするアホニャン。



「ぷっ!確かに邪悪とは程遠いね」


「だろ?」


下僕なニャン子に微笑むシンバ。

対して俺は・・・恥ずかしいぞアリシア。


「良かったよ、斬り付けなくて。

 最初に蹴りを入れた時も感じたんだけど、君はどうみても悪人なんかじゃない。

 本当に悪人だったら、蹴りを入れた時に怒り狂って向かって来ただろうからさ」


「そうか?!悪人かどうかを確かめる為に蹴ったのか?」


答えた俺に、シンバがニヤリと笑い返した。


「って、言うよりね。

 ボクに蹴られるくらいなら、邪悪な異能使いではない筈だろ。

 だから、予め斬るって言ったんだよ」


それって、俺を試したのか?


「斬るって言われて異能を使ったのなら、考えが間違いだった証。

 何もしなかったのなら、ボクの判断が正しかった証明だったんだよ」


あ・・・じゃぁ、アリシアを変身させたのは早合点?!


泡を喰った俺に、シンバがアリシアを観ながら肩を竦めると。


「でもね、まさか外野から戦闘少女が現れるなんて。

 どうするべきか悩んじゃったよ?どちらとも言えなくなったからね」


「あはは・・・これはとんだ粗相を」


シンバは半ば迄、俺を斬る気は無かったみたいだ。

自分が騙されているのを、薄々感じ取っていたようだ。


「なんだよ、それだったら端からそう言ってくれれば良かったのに」


「確証が持てないんだから、言える筈もないだろ」


マッタク・・・困った子ちゃんだな。


「それに・・・ね。

 どこかで奴が見張っていたらヤバイと思ったのもある。

 初めから何もしないでおくのは、君にもボクにも良い話ではないと考えたんだよ」


むおッ?!そこまでは考えが及ばなかった。


「た、確かにそうかもしれない」


「でしょ?だから君達が結界に連れ込んでくれてほっとしたよ」


ってことは?


「もしもニャン子さんがやり合う気になったら、こっちから降参する気だったんだ」


地龍の鎧を纏いながらかよ?


「あ、もう一つ言い忘れてた。

 地龍の使徒はね、防御がメインなんだ。

 もしも闘う事になったら地上に居る奴にしか有効な攻撃手段がないんだよ。

 震王って意味はね、地震を起こす能力があるってだけの話なんだよ」


俺達に異能を開示して来たシンバがそこまで話すと、顔を俯かせてしまったんだ。


「ボクには地震を起こせる力がある・・・

 ボクが意図しない程の威力で地上を揺らす。

 その意味を知った時、ボクはなぜ孤児になってしまったのかが判ったんだ」


悲し気にオッドアイを瞑るシンバ。


彼女の身に何が起きたのか。

シンバは意図せず地震を起こした?


その結果は?


「赤ん坊だったボクが孤児になったのは、まだ地龍を制御出来ない頃の話。

 あの巨大地震で多くの人が災害に巻き込まれてしまったときなんだよ」

 

異能が暴走した結末が、シンバを孤児にしたのか。


俯いたシンバを観て、俺達は異能が齎す悲劇を知る羽目になったんだ。

自らの異能が暴走すれば、悲劇は自分だけに留まらないのを教えられたんだ。


「もしも・・・ユージニアスが邪悪に染まったら?

 王者の剣が地上に向けて放たれてしまったら・・・」


脳裏に破壊し尽くされた街の風景が過ったんだ。

廃墟の街、焼け野原の地上・・・


俺が手にしている異能は、一つ間違えば地上を地獄に替え得るのだと思い知らされたんだ。


震王シェイカー)を宿すシンバ。

彼女の悲劇は偶然か必然なのか?


明かされた事実に、ユージ達は声呑む。



次回 Emo~い その2

ああ、少女シンバはどれだけの悲しみを背負ったのだろう?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ