俺は早計だったのか?その3
ユージとアリシアは高校へと向かうようです。
変装したニャン子を連れて?
まぁ、小説と言う事で許されよ。
「ゆー兄は味の濃い方が好きなんだ」
造ったお弁当をバックに詰める萌さんが呟きます。
悩んだ末に造った弁当。
「これなら・・・きっと文句ないでしょユージ」
独りだけの時しか呼ばない義理兄の名。
親しみを込めて呼ぶ時なんて、独りの時しかなかったから。
「いい加減に気が付いてくれても良いんじゃない?」
母親が造っているなんて全部嘘。
昨日のおでんだって、本当はユージが前に食べたいと言ってたから。
「こんなに尽くしてるんだからさ、いい加減こっちへ振り向いてよね」
数学だって自分独りで出来るし、そもそも宿題なんて在りはしない。
「ホント・・・どうして義理兄妹になんてなっちゃったのかな?」
母親が、ユージの父親と再婚なんてしちゃうから。
「ホント・・・嫌になっちゃうね、ユージ」
鞄の中から取り出したスマホを観て、萌さんがため息を漏らしました。
「あ、いっけない。遅れちゃう!」
スマホの時計表示に気が付いた萌さんが急いで支度を終えた時。
「Oh~萌たん、学校行くね」
母親がやっと起きて来たのです。
ボサボサの髪、おまけに欠伸しながらぼりぼり髪を掻いて。
いくら起きたてとは言え娘の母なのに。
これでは萌さんと云わずとも嫌気がさしてしまいます。
「分かってるわよ!」
一瞥も与えずに、萌さんは玄関から飛び出すのでした。
ユージと萌、義理兄妹が通う高校。
乗山市の高台にある、私立 東雲高校。
高台に向かう通学路には男女の学生服姿がありました。
夏前ですから夏季軽装の生徒も居れば、冬着を纏う生徒も歩いてます。
私立東雲高校の制服は、男子がワイシャツ姿、女子がセーラー服に似たスカートを着用する上下。
男子も女子も、上は白色を基調にしています。
女子のスカートは光沢のある茶色。上は広めの襟が特徴的な開襟セーラー。
登校する生徒は高校生らしく溌溂として・・・いる者ばかりじゃありません。
「俺も昨日まではあんな感じだったな」
前を歩く男子生徒は学校に行くのがカッタルイのか、生欠伸を繰り返しています。
「アルジのユージは眠いニョか?」
隣で歩くアリシアが不思議そうに俺に訊いた。
「今日はそうじゃないけど。
昨日までは学校に行くのも怠かったんだ」
「うニャ?昨日まで風邪でも退いていたニョか?」
違いますってば。
「違うよアリシア。面倒臭いって思って過ごして来たんだ」
「なぜニャ?」
首を傾げてニャン子のアリシアが訊いて来る。
なぜって聞かれたら、俺だって答えようがないじゃないか。
「何故って言われても。なんだか面白くなかった・・・唯それだけ」
本当に退屈で、ただただ面白くも何ともなくて。
「面白くない?そんなことがあるのかニャ?」
「え?」
初めて聞いた気がする・・・否定して来る言葉を。
「学校と云ったら友達がいるんニャ?
学校に行けるなんて素晴らしいと思うニャ」
「素晴らしい?何故そう言い切れるんだ?」
ちょっとだけ腹が立った。
そういう大人は一杯居るし、何も考えない学者達が言う言葉に近いと思ったんだ。
「だって、友達と話が出来るんだニョ?
会って顔を突き合わせていろんなことを話せるンニャ?
どーでも良い話や気に入らない話、何もかも晒してもいいんだニャ。
そんな素敵な場所に行けるニャんて、良いことに違いないにゃ」
それのどこが素晴らしいんだよ?
喉迄出かかったツッコミを、アリシアの声が停めやがった。
「アタシ等には学校なんて無かったニャ。
皆個別の通信教育で学ばざるを得なくなってたニャ。
集まる事を禁じられ、友達さえも作る機会が無かったニャ」
学校が存在しない?そんな世界があるのか?
「アルジのユージは学校に行けるのニャ。
友達が居る場所へ行けるのニャ。
それはとっても素敵ニャと思うんニャ」
俺を見上げるアリシアの笑顔。
屈託のない・・・素直な笑顔。
でも、俺には判らない。
学校が素敵な場所とも思えない。
無理強いされるだけで何も面白くもない。
それに友達とか言う奴等だって、心底面白い奴等だとは思えないし。
「異星人のアリシアには判らないよ、俺達が面白くない理由が」
「そうニャ?アルジのユージがそう思うのならそうニャン」
小首を傾げるニャン子娘アリシア。
この星の。いいや日本の高校生は大概自分の措かれた境遇に不満があるんだ。
学業が出来る奴もそうではない奴も・・・みんなが感じている筈だから。
「ま。俺には高校生活が後1年もあるって事が辛いんだよ」
そうだよ、退屈でつまらなくて・・・嫌になっちまう。
そんな場所なんだよ、ここは。
校門をくぐった俺とアリシアは、職員室へと向かった。
外国から来た親類を、校内見学させるからと偽ることにしたんだ。
隠れていろなんて俺には言えないし、アリシアをほっておくことも出来ないだろ。
校内見学という事にしておけば、うろついたって文句は言われないだろうし、目立っても外国人にしておいたら納得される気がしたんだ。
ど~せ、目立つんなら堂々としておけば良いと踏んだんだが。
「じゃあ野良、お前が案内役を務めるんだな」
案の定嫌味な奴に引っ掛かる。
俺はこいつが大の苦手だ。
「その子の案内をお前だけでできるのか?」
アリシアがマスクと帽子を外さないのに苛立ってる奴。
おまけにアリシアの躰を嘗めまわすように観ている奴。
こいつにだけはアリシアを任せる気にはなれない。
「体育教師の俺が案内してやっても良いんだぞ」
だから・・・お前にだけは任せないって。
「いいえ、俺が案内しますからゴリ・・・丹鮴先生」
ごつごつの体躯で、ゴリラそっくりなおっさんに断ったんだ。
「なんだとぉ~人が折角案内役を買って出てやったのにぃ~ッ?」
だからさ・・・嫌なんだよ。
「アタシ・・・アルジのユージが良い・・・ニャ」
片言に聞こえる日本語で、アリシアがゴリに返した。
「ほら。従妹のアリシアだってそう言ってますから」
俺が拒否ルと、顔を赤らめたゴリがアリシアと俺を睨みやがった。
「まぁまぁ丹鮴教員、ここは生徒に任されては?」
助け舟を出してくれたのは、優男で英語教師の土安。
「そ、そうですか・・・そう仰られるなら」
流石のゴリも、学年主任には頭が低い。
「それじゃあ野良。
お前に一任するからな、面倒を起こさないように注意するんだな」
ゴリは渋々アリシアを解放したようだ。
俺じゃなくて、容姿の良い女の子を・・・だぜ。
職員室を出て、アリシアに見学許可証を手渡した俺が。
「観ただろアリシア。
これが日本の高校って奴さ、教師はご覧の通り私利私欲に溺れていやがる」
反吐が出るくらいの悪態に嫌気がさしているんだと言うつもりだったけど。
「あれがニャ?あんなのどこの世界にだってごちゃマンと居るニャ」
あっさり上手を取られちまった。
「あんなのに構っていたら保安官事務所には勤務できないニャ」
「そーなの?アリシアは見かけによらず世渡り上手なんだな」
褒めたつもりだったんだけど、
「いらないお世話ニャ!」
ぷんすか拗ねやがった。
「誰よ・・・あいつ」
弁当包みを持つ手が震える。
校舎の影からユージを見つけて立ち止まらざるを得なくなっているのは。
「アタシのゆー兄ぃに・・・ひっついてるの」
萌さんが二人で歩く男女を観て言いました。
「赤毛の女・・・しかもでっかい」
なにが・・・なんて言わずとも。
「それに学校まで来てコスプレ?
はんっ、お馬鹿にも程があるわ・・・でも、可愛いかも」
蔭から見詰める義理兄は、いつもの感じではなく。
「ゆー兄ィ・・・なんだか楽しそうな顔をしてるし・・・」
今は飛び出すのを控えて様子見に徹しようと。
尽しっ子は眼を三角に釣り上げながらアリシアとユージを観ていたのです。
片隅で見張る萌さん。
手にした弁当をどうする?
方や異星人を連れた(W)ユージ。
義理兄妹はすれ違うのでしょうか?
次回 俺は早計だったのか?その4
気がついたら義理妹は走っていたんです・・・緑の瞳を曇らせて。