嵐の夜 その3
呼ばれたのは有次ではない。
目覚めるのは俺ではない・・・奴なんだ!
風の異能を放てる妖狐が願った。
大切な人を邪なる者から護って欲しいのだと。
自分を投げ打って、一番に願うのは友を闇から護って欲しいのだと言ったんだ。
俺の中に居るもう一人へと。
ドアクダーの結界の中、守るべきはかけがえのない人だとランさんは言い切ったんだ。
ドクン・・・
俺の中で何かが目覚める。
誰かが俺を眠らせようとしやがる・・・入れ替わる為に。
「ゆー兄ぃ?!」
萌が動きを停める俺を呼んだ。
「ユージ!護ってあげて!」
いつもと違う萌の声。
「あなたなら、彼女の想いを聴き遂げてあげられるでしょう?!」
そうだな・・・きっと<俺>だったら護ってやる筈だよな。
意識を失う瞬間、萌じゃないと気付かされたんだ。
萌は俺を<あなた>なんて呼ばないから・・・さ。
ザゥッ!
項垂れた<俺>の髪が逆立った。
誰かに呼び出された・・・異能の<俺>が眼を開く。
目覚める前から分かっていた。
呼んでいた子が願っていたから。
俺が護るべき子は頼っているのだ・・・勇者剣士を。
「そなたの願い・・・確かに受け取ったぞ」
金色に染まった髪、蒼き瞳で彼女を見据えた。
俺の後ろに居て、俺を目覚めさせた娘を。
「ユージ・・・また現れてくれたのね」
<俺>をユージと呼べるのはあの子しかいない。
翠の瞳を向けて来る・・・<俺の宝>だけが呼べるのだ。
プラチナブロンドで翠の瞳を湛える娘・・・
「ああ、モエルが願うのならば。
俺の禁忌に触れる奴を赦しはしない。
・・・それに、この娘も願ったのだからな」
手傷を受けて座り込んでいる<旋風のラン>を顧みて、
「古の束縛から解放してやるのには早過ぎるが。
友を護ると約束していた通り、隠れずに立ち向かった。
気高き想いには応えてやらねばなるまい」
右手を突き出して答えとした。
「剣士としても、古き宿命の娘を時間の狭間より解き放たねばならん。
自ら進んで怨敵に立ち向かった気高き行いを、無にする訳にはいかぬ」
勇者剣士となった<俺>が妖狐の前へ進み出る。
「よくぞ友の為に立ち上がった。
今こそ、そなたの真心を受け取った。
護るに値する、真の想いと願いを見せて貰ったぞ」
<俺>から蒼き光が沸き起こる。
「我はエモルを守護する者。
エモルが願うのであれば、如何なる敵をも打ち砕く。
我が禁忌に触れる者に審判を与えてやろう」
突き出した右手に輝が集い、王者の剣を模り始めた。
「我が剣は審判を下す。
我が剣は闇を切り裂く。
我は正義を貫く刃なり!」
黄金の柄、王銀の鍔・・・蒼き刀身の<王者の剣>が現界した。
輝を纏う勇者剣士がそこに居た。
「我が審判を受けるが良い。
喩え姿を見せずとも、この剣は邪なる者を赦しはしない」
王者の剣を腰だめに構えて。
「旋風のランよ、よく見ておくが善い。
これが正義の審判。
我が剣技の前に、邪なる者が潰えるさまを目に焼き付けておけ」
背後に居るランに告げた。
「は、はい!」
あまりにも力強い声に、妖狐は起き上がりもせず眼を見張る。
「そなた等も、見ておくが良い」
京香やセッカ、それに萌の姿をしたもう一人にも促して来る。
「ユージ!この闇を打ち砕いて」
萌じゃ無い子が勇者剣士に頼んだ。
「それが守護者たる者の務めだと言うのであれば」
背中で答えた<俺>が剣へ異能を込める。
ドオオオオオオッ!
異能の奔流が剣に注ぎ込まれ。
ギュゥウウウッン!
王者の剣が巨大化していった。
全長は3メートルを遥かに超え、最早剣なのかも判らない破壊兵器と化した。
「王者の剣よ、審判を下せ!」
強大なる魔力と、超絶なる破壊波動を併せ持つ<王者の剣>。
その形は剣というには大き過ぎる。
異形の刃は、超絶なる破壊波動を秘めて・・・
「ケラウノス・・・絶対の神が放つ審判の雷だ!」
勇者剣士が振り抜いた。
ドゴオオオオォンッ
蒼き光が刃から放たれ、世界そのものを切り裂いた。
バリバリバリ!
ガガガガ~ンッ!
蒼き光が結界を引き裂いた。
いいや、そうではない。
結界を造った主である者をも、同時に切り裂いたのだ。
「ぎゃああああああ~?!」
潰え去る瞬間、ドアクダーが断末魔の叫びを振り撒いたのだが。
王者の剣に因って審判が下され、滅びを与えられたようだ。
ものの一撃。
たったの一振りで・・・
手強いドアクダーは掻き消されてしまった。
結界を我が物としたドアクダーは、自らも消滅して果ててしまった。
あまりにも強烈。
断じられた審判の威力は、まさに無敵かとも思える。
もしもこの力が現実世界で使われたのなら?
破壊波動に因って街なんて、ひとたまりもないだろう。
勇者剣士の異能は、まかり間違えば星をも滅ぼしかねない。
それ程の威力を持っているように感じられたのです・・・
「「これが<翠の瞳>の威力ってのかしら?」」
腕時計型の装置を通して観ていたのは。
「「ミシェル様程の方でも御し難いと仰られる程だものね」」
赤毛の保安官補助手アリシアだったのです。
「「これをドアクダーが手にしたら、確かに物騒な話よね」」
勇者剣士が手にする魔戒剣が、敵手に渡るとでも?
「「でもまだ奴等は気付いていない。
<翠の瞳>を掴んではいないから・・・大丈夫ですよね?」」
機動少女のアリシアが、装置を通して観ていたのは。
「「アルジのユージ様、お早くお気づきになられますように願っておりますわ」」
自らの願いを込めるかのように、<彼>へと溢すのでした。
それがどちらのユージなのかは・・・まだ内緒らしいです。
上空には星が瞬いていた。
結界が破れたって事は?
「あ・・・終わったのか?」
意識が回復した時、俺の周りには京香先輩の姿は見えなくなっていたんだ。
「京香先輩?!
おい雪華さん、萌ッ、先輩を知らないか?」
振り返って呼んだら、どうやら心配しなくても良いことに気が付いたんだ。
「そっか・・・そう言う事か」
京香先輩は<びっくりモンキー>の片隅で誰かと話しているんだ。
それが誰なのかは言わずもがな。
「もう、隠れていなくったって良いんだよな、嵐さん」
京香先輩は茶髪の嵐さんに寄り添いながら話し込んでいる。
きっと今迄の事を話しているんだろう。
4年もの歳月を時間の狭間で過ごして来たのだから・・・
「それじゃぁ萌、雪華さん。帰ろうか?」
さっきまで結界の中で闘っていた雪華さんを労う意味もあり、さっさと帰ろうと言ったんだが。
「野良君、大変よ。
萌ちゃんが・・・起きないのよ」
「え?!今度は萌が寝込んじゃったのかよ?」
そこで思い出したんだ。
機動戦を終えたら眠る奴の事を。
「そういえば今回、アホ猫を観なかったんだけどさ?」
機動ポッドを取りに帰らせたのは俺だけど。
何時まで経っても現れないんだけど?
「さぁ?どこかで道に迷ってるとか?」
雪華さんも、なぜ現れないのか不思議がっているよ。
闘いも済んでしまったし、ニャン子が必要な訳でもなくなったから。
「ま、その内現れるだろ」
帰ったらこっぴどく叱ってやろう。
俺は眼を廻して眠る萌をおんぶしてやると。
「雪華さん、京香先輩と嵐さんだけにしといてあげようよ」
「そうですね・・・やっぱり野良君は優しいです」
帰ろうと促した雪華さんに微笑まれちゃったよ。
「そうかな?気を利かしてあげるのが後輩の務めだからさ」
軽い萌を背中に背負って、見上げた夜空には。
「今日はまた、格別に綺麗だな」
「あら!綺麗だなんて・・・嬉しいです」
あ、いや。雪華さんがじゃなくて星が・・・とは、言えない。
機嫌を良くした雪華さんと伴に帰る。
背中に背負った萌は、どんな夢を見ているんだろう。
「くす・・・クスクス・・・すやぁ」
なんだか楽しそうなんだけど?
「楽しくないニャぁッ!」
ニャン子が吠えているのは家の玄関。
お判りでしょうか?
機動ポッドを取りに帰ったまま、戻らなかったニャン子。
「今から戻っても、絶対に怒られるニャ。
しかも手ぶらでニャんて・・・どうすれば良いニャ~~~!」
あらまぁ・・・
「こ、こうニャったら。
反応弾で玄関を吹き飛ばすニャぁッ!」
おいおい・・・ヤバいんじゃ?
「あニャ・・・反応弾を出そうにも機動ポッドがニャいニャァ~!」
・・・どうにもなりやがりませんよ。
「どこかから入れニャいか?」
天を仰ぐアリシアが自分の部屋があるベランダを見たとき。
「そうニャ~~~~!」
絶叫を張り上げたニャン子がいましたとさ。
闘いは既に終わっちゃってますが・・・ニャン子さん?
「ニャンと?!」
圧倒する力
圧倒的な破壊力。
彼の魔剣は破滅的な裁きを悪に与えたのでした。
戦いは勇者剣士に因って終わらされたのです・・・が?!
アリシアは一体何をやっていたのでしょうねぇ?
次回 平穏家庭戦線異状アリ?!その1
ああ、きっと彼女は願う事でしょう。いつの日にか想いを遂げる日が来てくれると。




