日常という幸せ その3
バイトを終えたら・・・
3人が待っていてくれたんだ。
やっとバイトを退けれた。
思わぬ客で損を引いてしまったけど、先輩の京香さんが癒してくれたよ。
「ほら、元気を出しなよトッポイボーヤ」
そう言って差し出してくれたのはブラックコーヒー。
俺が好んで飲む、店では出さない本格珈琲だ。
「ありがとうございます京香先輩」
受け取ってお礼を言えば、笑って応えてくれるんだ。
京香先輩は3つ上の大学生。
少し大人びている雰囲気が、接したことの無い憧れの女性に感じるんだ。
「有次君、義妹ちゃんって少し見ない間に明るくなったんじゃないの?」
「え、そうですか?何も変わらないと思いますけど」
この1週間、実家で過ごすようになった俺には判らなかったけど?
「いいや、全然明るくなったわよ!トッポイボーヤは鈍感だからなぁ」
先輩にまで鈍感って言われちまったけど、どういう訳なんだろう?
「萌ちゃんって、お兄ちゃんっ娘だからな。
君が家に居てくれるだけで喜んでいるんだろ?」
「そんなことはありませんよ。いっつも口喧嘩しているくらいですから」
正直、萌が明るくなったかは分からない。
でも、アリシアが現れてから確かに変わった気がする。
今迄みたいに俺との距離を取らなくなった、学校でも家でも・・・ね。
二人の居候が、萌を変えてくれた気もするんだ。
トラブルメーカーのアリシアに、控えめだけど自己主張をしてくる雪華さんに因って。
「口喧嘩するくらい身近に居られるのが、萌ちゃんは嬉しいんじゃないの?」
「はぁ・・・そういうモンですかね」
京香先輩は義兄妹の俺達に関心があったみたいなんだ。
俺が実家を出て独り暮らしを始めた訳も教えてあったし。
萌がちょくちょく<びっくりモンキー>まで迎えに来ていた事も知っていたから。
「君が惚けたって萌ちゃんは分かっているわよ。
本当はずっと一緒に暮らしていたい筈なんだから・・・あの萌は特にね」
惚けてなんていないけど、萌はそう思っているんだろうな。
義理の妹になんてならなかったのなら、萌はどうしていたんだろう?
もしも知り合いの娘のままだったのなら・・・今頃?
「トッポイボーヤ君。
萌ちゃんはきっと恋をしているのよ、傍に居られるだけで嬉しい人に」
「あの萌が・・・ですか?有り得ませんよ」
萌の顔が過った。
どうしても幼馴染から抜け出せない俺の印象通りの。
茶髪の萌の顔が笑いかけて来やがるんだ・・・緑の瞳を輝かせて。
「あ~あっ、これだから君はいつまで経ってもトッポイボーヤなんだよ」
ニヤリと笑う京香先輩が俺の肩をひっぱたいた。
仕事上がりの一杯をご馳走になって、着替えを終えた俺が表に出ると。
「ゆー兄ぃ、おっそ~い!」
スタッフ出入り口前に屯していた3人娘と鉢合わせした。
いや、鉢合わせじゃなくて・・・
「アルジのユージ!帰るニャ」
「お疲れさまでした」
待っていてくれたんだな、3人して・・・
「ああ、お待たせだ」
少しだけだけど、心が和んだよ。
3人娘の中で真っ先に声を掛けて来たのは萌。
ドアを開けた俺を、一番最初に気が付いたのも萌。
まぁ、スタッフ出口を知っていたのだから当然かもしれないけど。
ニャン子なアリシアと出会う前なら、萌はひっそりと隠れて待っていたのにな。
今は3人の中で一番目立つ位置で俺に話しかけて来る。
まるで自分こそが俺の正妻だと言わんばかりに。
「ゆー兄ぃ、帰ろ」
俺を観ている翠の瞳。
アメリア義母も緑に近い青色だったけど、萌の色はもっと深く清らかにも見える翠。
夜目にも鮮やかに輝く萌の眼に、俺は何度となく感じたんだ。
「「こんなにも綺麗な瞳を人間が持てるのだろうか?」」・・・ってね。
それ程までに人間離れした瞳をしているんだよ、萌って娘は。
瞳だけを観ても吸い寄せられそうになる、義妹にしておくのは勿体ない・・・
何度か感じ、何度も否定する事に徹した。
好きになってはいけないのだと。義理とは云えど妹なんだぞって。
それに、勇人の親爺にも約束したんだから<絶対守り抜く>って、萌のことを。
京香先輩に言われた事が引き金になって、萌を見詰めてしまったよ。
俺みたいな唐変木の傍に居るのが不思議な美少女の義妹を。
「なに?ゆー兄ぃ」
上目使いに訊ねられて、現実に戻った。
「アタシに見とれてたの?」
そうじゃないけど・・・そうなんだ。
「いや・・・別に」
これが惚けるって、俺の十八番だ。
「ふぅ~ん・・・ま、いいけど」
ちらりとアリシアと雪華さんを観た萌が、幾分か上機嫌で応えるんですが?
「今夜は思わずご馳走になったわ」
背伸びして満足げに言われるんですが・・・
「あのなぁ。どうして突然バイト先にまで押しかけて来たんだよ?」
俺は初めから気になっていた問題点を質したんだ。
「家で食べるって萌が言ってたんじゃないか?」
「う・・・そ、それは・・・」
萌の顔色がおかしくなったんだけど?何かあった様だな。
「萌たんの料理が大破したニャ」
「うわっ?!アリシアは黙って・・・」
・・・なんだか読めて来た。
「そうですねぇ・・・まさか餡子と味噌を間違うなんて」
「ぎゃぁっ?!雪華ぁッ!」
・・・なるほど。
「つまり・・・萌がやらかした・・・のが原因なんだな?」
「・・・そ、そうよ・・・文句がある訳?
味噌のパックと漉し餡のパックを見間違えたのよ!
黒味噌を買ったのが間違いだったのよ、そもそも!」
言い訳すんなよ萌。
別にそれで誰かが不幸になった訳じゃないだろ?
あ・・・俺がちょっと不幸になったけど。
萌を見てちょっとだけ笑えた。
失敗しても強気で言い張れる妹に、微笑ましくなったよ。
「あ・・・今、笑ったな!」
萌がいつも通りのローキックを繰り出して来るのをヒョイッと避けて。
「ああ、やっぱり萌なんだって思えてね」
「うわッ!絶対叩きのめすッ!」
ブンブン手を振り回し俺を追って来る萌。
京香先輩の言った通り、明るくなったのを感じたよ。
「この乱暴娘が!」
「五月蠅いッ!このお惚け兄ぃがぁッ!」
小走りで逃げる俺を追って来る萌に、明るい笑顔が見て取れたんだ。
「ウニャ・・・ほっこりだニャ」
お腹を摩るニャン子が言いました。
「確かに・・・ほっこりね」
走り回る兄妹を微笑んで観ている雪華さん。
「きっとアタシ達が護らニャきゃ・・・」
「そうですね、アリシアさん」
火と氷の魔法士二人が、主人の背中へ誓ったのでした。
それが契約主となった少年への想いでもあるのだからと。
星空を見上げる金髪の麗人がグラスを手に取ると。
「奴等は我々を待っているようだな」
背後に控える者へ告げるのです。
「そう考えるのも一手になりましょう」
麗人・・・ドアクダー幹部の<ナンバー11>に、答える者が。
「我々が手を拱くとでも思ったのでしょうか?」
嘲笑う様に言って除けたのです。
グラスに満たされた酒を一嘗めしたナンバー11が、幾分機嫌を損ねてしまいました。
「そうじゃなかろう。
我々の力も知らない愚か者は、自らの力を誇大に考えるものだ。
多寡が3駒を叩いたぐらいで調子にのるなど、身の程を弁えない奴等だというだけだ」
グラスに残った酒を一煽りして、ナンバー11が言い切りました。
「さすれば?
我々は如何に取り扱うのが宜しいか?」
配下の者が判断を委ねると、金髪を掻き揚げた麗人は言うのです。
「捕らえるのだ。
知り得た情報を駆使し、地図の娘を生け捕りにしろ。
邪魔立てする者は悉く排除してしまえ」
「御意・・・」
畏れ入った配下の者は、音のたてずにその場から消え去りました。
星空の元、最上階にある部屋に居るのはナンバー11のみ。
暫く星空を見上げていた金髪の麗人が、グラスを置くと机のボタンを押したのです。
ググゥン
壁が両側に開き隠し部屋が現れました。
その中に観えるのは・・・知り得ない機械達。
世界一の軍隊にだって装備されては居なさそうな最先端の機械が並べられています。
その中の一つにナンバー11が近寄ると。
「もしも・・・手に負えないのならば」
緑色に発光しているボタンに触れる麗人。
ボォウン!
と・・・猛烈な光に姿が掻き消されてしまいます。
光が消えた後には、麗人の姿は見えなくなっていました。
ですが・・・
「この私が直々に殲滅してやろう」
麗人の姿は確かに消えていました。
でしたが、機械を纏うモノの姿があったのです。
「機動女神にも劣らない・・・この戦鬼でな!」
屈強な機械を纏うナンバー11。
全身を覆う金属には、半端ない異能と戦闘力を感じ取れるのです。
全身が武器の塊・・・それが<戦鬼>
異星からの侵略者。
異星人でもあるドアクダーの攻撃は・・・これからのようです。
おおっと?!
なにやら曰くあり気な<ナンバー11>?!
やっと本気で潰しにかかるようですね?
戦いの行方はどうなるのでしょうか?
でも、まだまだユージには下僕や仲間が必要なようです?
次回 妖の少女 その1
うほっ?!次なる子は・・・時空の狭間からの来訪者?!




