思惑 その2
いざ!東雲高校へ。
3人は勇んで登校するのでしたが・・・
俺は込み上げて来る笑いを我慢するのに必死だった。
周り中の生徒からの視線を一手に引き付けている二人を見ながら。
普段通りの登校風景。
だけど、二人の目立つ事と言ったら・・・
「ニャァっ!アタシだってつい最近まで学生だったニャ!」
「だからって!どうしてゆー兄ぃのクラスに入るって言うのよ!」
ギャイギャイ吠えたてる二人に、みんなが注目しているのは致し方ない。
「アルジのユージから離れるのは危険ニャんだから!」
「それは、あなたの方でしょうが!ほったらかしにされたくないだけでしょ?!」
うん・・・萌に一理あるな。
二人は東雲高校の制服を着ている。
萌は自前の制服をアリシアに貸しているんだ。
スレンダータイプの萌の制服を着たアリシアは、上着の丈が短くなって観える。
だってさ・・・出てる処が押し上げているんだ。
胸のふくらみが丈を短くしているようだ・・・
背の高さは萌と同じ位なのに、へそ出しファッションみたいにしているんだ。
実際は上着の内側が覘いているだけだけどね。
タユンタユンがこれほど破壊力があったなんてW
観ている男子生徒は、見慣れない赤毛の少女を観ているというよりも、その揺れる胸に釘付けになっているみたい。
俺だって今朝改めて気が付いたんだよなぁ、アリシアって変身する前からナイスバディだったんだと。
そのアリシアと言い争っている萌は、辛辣な言葉をしている割に怒ってなんかいない。
ニャン子なアリシアと口論しているんだが、視線はアリシアには向けられていない。
俺は含み笑いを堪えつつ、萌に目で合図したよ。
「もう良いんじゃねぇか?」・・・ってね。
俺の意図を汲み取った萌が、小さく頷き返すと。
「それほどゆー兄ぃと同じクラスに行きたかったら、転入しちゃえばいいでしょうが!
外国籍のアリシアが転校しちゃえば文句は言わないわよ(棒)!」
・・・萌え君。棒読みを辞め給えって。
萌が大きな声でそう仄めかすのには訳があるんだ。
ほっといても目立つアリシアを殊更目立つように仕向ける。
周り中の生徒にアリシアの存在を知らせる・・・つまり。
「アタシが転入したら萌たんは認めるニャ?
だったら早速手続きするニャ、アルジのユージ!」
学校に忍び込むのにも限度がある。
だったらいっその事、生徒になってしまえば良いんじゃないかってね。
昨日の晩から考えていたんだ。
どうすればアリシアを独りにせずに済むかってね。
俺と萌が学校に行ってる間にアリシアがとんでもないことを仕出かさないかを案じたんだ。
それにも況して、ニャン子が家に籠っている事を拒みやがったから。
俺はアリシアに併せて学校を休学しても良いかなと思ったんだが、萌が強硬に反対しやがった。
「そんな事が勇人お父さんに知れたら、今度こそ独り暮らしを出来なくされちゃうよ?」
確かに休学するのなら、親のハンコが必要だろう。
親爺に知れるのは間違いない。
「学校は行かなきゃいけない・・・でも、アリシアをほっとく訳にはいかない。
だったら、アリシアを学校に連れて行くしかないわね」
萌の発案だったが、おいそれと行くような話じゃないよな?
「そうよねぇ~、転入するにしても異星人の転校生なんて聞いた事が無いから」
ある訳ないだろ萌。
「転入するって言っても仮の話だぜ?
本当に転入する必要なんて無いから・・・うやむやに出来ないかな?」
俺は正規の転校ではない方法を模索したんだが、簡単には思いつかない。
「もしもーし、アルジのユージと萌たん?
この星の学校に転入するニャかアタシが?」
「仮初めの話だよ。なんとか旨く誤魔化せないかなぁ?」
俺が腕を組んで考えていたら、ニャン子がしゃしゃり出やがった。
「簡単ニャ!アタシを余所の国から来た交換学生だと言えばどうニャ?」
「アホか!東雲に交換学生なんかが来る筈がないだろ!」
一発で否定してやったんだけど。
「待ってよ、ゆー兄ぃ。
それ・・・巧くいくかもしんないよ!」
はい?
「だぁかぁらぁ~。アリシアを交流学生だと言い張っちゃえば良いんだよ」
だからって・・・転入なんて出来っこないぞ?
俺が黙って聴いていたら。
「まだ分からないかなぁ?
最近流行りの異文化交流国際間協定って奴に則って、体験入学という形式を執れば良いんじゃない?」
おお?!そういえばニュースサイトで観た事があるな。
なんでも親が日本へ働きに来ている間の入学を認めるとか言ってたっけ。
「それなら簡易申請だけで学校に来ることが認められるんだって」
正式な入校では無いから単位を取得出来ないけど、日本式の学習体験が可能だって書いてあったな。
「そうか!その手があったか!」
俺は萌の発案に諸手を挙げた。
「どうせアリシアに日本の高校を卒業させる訳じゃないんだから。
正式な転入なんて必要ないじゃない!
アタシ達と一緒に居られれば、事が済む話なんだからさ!」
萌が俺にウィンクを投げかけて来る。
どうだと言わんばかりだが、この手は行けるぜ萌。
「決まりだな!
どうせアリシアは保安官が見つかれば学校に行かなくなるんだから」
頷いた俺がニャン子にそう言ったんだけど。
「そうニャ・・・そうニャね」
なぜだか元気なくアリシアが認めたんだ。
ちらりと俺の顔を見て、俯いてしまったんだ。
「と、言う事で。
明日からアリシアは東雲高校に行くの。
年齢からしてアタシのクラスが適当だと思うんだけど?」
萌がアリシアが高校1年生が妥当だと言うと。
「駄目ニャ!
アタシはアルジの傍に居なくてはニャらないニャ!」
いきなり声を大きくして萌に反論しやがった。
「だってニャ。
アタシはアルジの下僕ニャんだから・・・」
俺に認めろとでも言うのか、アリシアが萌の勧めを拒否しやがる。
「なんですってぇ~ッ?!
ゆー兄ぃの傍に居たいって言うの?」
途端に萌の眼が火を噴いたよ。
「これはノラ・ユージのと契約ニャから。
アタシは下僕で何時いかなる時も離れられニャいニョだ!」
おお?!アリシアが対抗してる?
「ふッ!なんというご都合主義!
そんなにゆー兄ぃの下僕が良い訳?呆れたニャン子ね」
顔を引き攣らせる萌が、アリシアを睨むんですが。
「ニャンと言われようが、これだけは譲れないニャ!
機動ポッドの契約を解除するには、どちらかが消滅しニャくちゃいけないニャから」
「くっ?!そこまで言い切られちゃぁ・・・断れないじゃないの!」
・・・そうだったのかニャン子よ。
俺かアリシアのどちらかが居なくならなきゃ消せないんだな、契約ってモノは。
「もしもアルジがドアクダーに消されたら、アタシは自由ニャ」
・・・おい!
「でも、知らない内に契約が解除されるのは嫌な話ニャ。
アタシが観ていない内にアルジの身にニャにかあったら・・・
自由にニャッたとしても、心に疵を受けるニャ。
だから・・・傍で見張ってるニャ」
・・・本当はどうなんだよアリシア?
自由になるのを望むのであれば、俺なんてどうなったって良いんじゃないのか?
「そこまで言うのなら認めてあげる。
もしもドアクダーが襲って来たって、アリシアがゆー兄ぃを護るのなら。
同じクラスに居ることを認めてあげるわ」
萌は機動少女の言葉を思い出しているのか、眉を顰めながらも了承したんだ。
そう・・・昨日の晩に交した約束。
二人はそれぞれに約束を迫ったんだ。
アリシアが言うには、俺から離れないと・・・
萌がアリシアに迫ったのは、俺に変なちょっかいを出さない事。
まぁ、どっちにしても俺には拒否権なんて無かったみたいだけど。
こうして俺達は芝居を打ったんだ。
東雲高校にアリシアを溶け込ませる為と、学生たちの賛同を得る為の。
ニャン子なアリシアを異星人だなんて思わせない為に。
だけど、誰がアリシアの本性が異星人だなんて気が付くんだ?
異星から来て銀河連邦の保安官を探しているだなんて、誰が本気にするんだよ?
俺達のやってる事って・・・無意味なんじゃないのか?
「ま・・・これで高校に来るのも退屈じゃぁ無くなったかな?」
俺は自分本位にそう思った。
今迄退屈過ぎた高校生活とも、これでおさらばになったと喜んでいたんだ。
でも、義理妹はどうだったんだろう?
俺の傍に居る萌は、先週までとは別人みたいに寄り添って来る。
「アリシアになんか・・・負けないんだから」
ぼそりと呟く萌の眼は・・・病んでいた。
で・・・事の張本人のアリシアと言うと?
「ニャはは!これが異文化交流学生とか言う奴ニャ!」
注目を浴びていたって全然気にしちゃいないんですが・・・
「アルジのユージと契約して良かったニャ~~~」
本気でのほほんとしているんだが?
さすが・・・糞猫!
こうしてアリシア(糞猫)もユージと同じ高校へ向かうのでした。
なにか問題ありそうですけど。
ここは黙って見守る事にしましょうW
アリシアはユージの目論見通りに修学出来るでしょうか?
巧くいくかは・・・次回に。
次回 思惑 その3
あれ?こんなことになってるなんて・・・意外だな?




