機動少女アリシア その3
ニャン子なアリシア。
ニャ語を使う猫娘。
異星から来た機動少女・・・
どんより・・・どんより・・・
陰鬱たる表情のニャン子が、椅子に座ってる。
垂れ下がった尻尾にも力を感じ取れない。
しょげかえった猫そのものに思えたよ。
「アリシアぁ~、そう落ち込まないでよ。
ゆー兄ぃも、悪気があって言ったんじゃない・・・と、思うよ?」
萌が晩御飯を造りながら宥めている。
「そうニャかぁ~?ニャンだか死の宣告を受けた気がするニャ」
萌に慰められたアリシアが、表情を和らげたけど。
「悪気があって言えたらマシかもな」
俺がドスンととどめを刺す。
「あああ~ッ?!やっぱりニャ!
アルジのユージはアタシを下僕にして喜んでるニャ!」
泣き顔で応えるアリシア。
揶揄うのは面白いが、下僕の意味が違うんだけどな。
「下僕って言ったけど、普段通りにしていたら良いんだよ。
ドアクダーとの闘いが発生したら、機動少女になって貰うだけだから」
普段通りって言ってもさ、アリシアとはまだ2日しか一緒に居やしてないんだけどね。
「そうニャん?
アルジのユージは下僕のアタシを扱使うニョではないニャか?」
落ち込んでいたのは下僕の印象故の様だな。
突然原住民に下僕と言われたショックと、これからを思ってふさぎ込んでいたのか。
「扱使う?それはどう言った風にだ?」
意地悪心が俺を支配する。
「そ、それは・・・掃除させられたり肩を揉まされたり・・・お風呂で背中を流させられたり・・・」
ほほぅ?まともじゃないか?
カタン・・・・
キッチンで物音がした。
「なんですってぇ~?!お風呂で・・・背中を洗うですってぇ~ッ?!」
振り返った萌の眼が鬼になってるんだが?
「も、モノの喩えニャ?!」
ビクついたのはアリシア。
萌の気迫は尋常じゃなかったから・・・さ。
「掃除はアタシがやってるの!肩を揉むのは気が引けるから。
お風呂なんて一緒に入らせてくれる訳が無いでしょう!」
おい・・・萌。
「風邪をひいたとか、怪我をしたとか。
特別な事でもなかったら、ゆー兄ぃの傍に居られる訳がないのに!」
おお~~い、萌?
「この頑丈なゆー兄ぃが、寝込むなんて考えられないから!
アタシを差し置いて、アリシアが家政婦モドキになるなんて認めないからね!」
・・・萌、アリシアが引いてるぞ?
「そうニャ?!それなら萌たんがアルジのユージに尽くせば良いニャ。
アタシの代わりに下僕になったらどうニャ?」
「あ、アタシがゆー兄ぃの下僕にぃ?!」
二人共、不毛な話はそれぐらいにしたら?
呆れてモノも言えなくなっちまうぜ?
「下僕ってさ。
もしアタシがゆー兄ぃの下僕になったら・・・何がして欲しい?」
ちょっと待て萌。なんだか良からぬ事を考えていないか?
「アリシアに出来ることだったら、アタシだってやってみるから。
喩え背中流しだろうと、肩もみだろうと・・・やってやろうじゃないの!」
・・・して欲しくありません。
不毛だ・・・不毛すぎるぜ萌。
「あのなぁ、さっきから黙って聞いていたら。
お前達の言う下僕ってのは、俺に何をさせようとしてるんだよ?」
呆れかえった俺が、二人に断わりを入れたんだが。
「決まってるでしょ?エッチなゆー兄ぃの事だから・・・」
「アルジのユージはきっとハーレムを築きたがってるニャ」
言うに事欠き・・・それかよ?!
「馬鹿を言うなよ!どうして俺が二人にそんな事をさせるんだ?」
「ゆー兄ぃだから・・・」
うん。俺って信用されてないのね。
確かに青春真っ盛りな年頃だけど、分別はあると思ってるんだぜ?
「いいか、この際言っておくぞ二人に。
俺は二人に対してどうこうして欲しいとは言わない。
唯、危険な奴等から護って欲しいだけなんだ」
「危険な奴・・・それってゆー兄ぃの事じゃないの?」
・・・萌。いっぺん性根を叩き直してやろうか?
「そうニャ?!それを聞いて安心したニャ!」
ほっとしたのか、アリシアが仰け反るように椅子に凭れたんだ。
カチリ
何か、ボタンを押してしまったような音がしたけど、アリシアの円環から?
そうしたら、ニャン子が身震いしやがった。
「アルジのユージは下僕に対して何を望むの・・・にゃ?」
ふむ?なんだか違和感が。
急にアリシアらしくない言いそぶりを見せやがった。
それにニャンコ耳を聳てて、アリシアは聞き漏らすまいとしている。
「決まってるだろ?
ドアクダーから俺達・・・原住民みんなを護って貰いたいだけだ。
機動少女アリシアの魔法力を行使して」
「そうニャ?それだけニャか?」
ふっと顔を逸らしたアリシアを観た俺は、何か不思議な感慨を覚えたんだ。
このニャン子なアリシアは、どこかが違うのではないかって思えたんだ。
「それだけって、他に何か頼まれたい事があるの?」
萌も、アリシアの変調を感じたのか?
「それだけ・・・ウニャ。それだけで今は良いニャ」
やっぱりだ。
このアリシアはニャン子を装っているが、きっと・・・
「今はって言ったよなアリシア。
それじゃぁ後には何か望むのかよ?」
気が付いた俺が、試しに引っ掛けようとしたんだ。
このアリシアが俺の想像通りの娘だとしたら?
「そうニャね・・・もし希望が叶うのなら。
姫を連れ戻したいニャ、アタシ達の世界へ・・・あ?!」
ポツリと溢しやがった。
聞き漏らす筈もない程、はっきりとね。
「そうか・・・それが機動少女がこの星に来た理由だったのか?
保安官とやらを探すのを口実に、姫さんを探し出して連れ帰る手筈だったんだろ?」
「ニャ?!ニャぜそれを?!」
語るに堕ちたなアリシア。
機動少女アリシアは姿をニャン子に窶し、ワザと惚けた風に見せかけていた。
本当の魔法士アリシアは類まれな魔法力を有していた。
ドアクダーを一瞬で倒せるくらい高位な異能を宿しているのに惚けていたがった。
それは俺達原住民にバレてしまうのを回避する為。
端から機動少女として降りて来たのなら、
ドアクダーだって総力戦に出たかもしれない。
事情を知らない俺達だって、協力などはしなかったかもしれない。
惚けたニャン子アリシアだったから、俺は気を許した・・・のだから。
そう考えると、機動少女が姑息な手を使ったとも思える。
魔法を隠し、俺達を欺いて来たとも思えた。
だけど、俺は疑いきれなかったよ。
あの機動少女が、俺達を利用しているだけなんて思えなかったんだ。
「なぁニャン子ではないアリシア。
本当の事を全部話してはみないか?
地球に来た本当の訳と、望みと言った理由を教えてくれないか?」
姫を連れ帰る・・・そう言った意味合いを。
この星にアリシアが求める姫さんが居るというのなら、どうやって連れ帰るっていうんだ?
「そう・・・バレていたのなら仕方ないわ。
確かにアタシは機動少女アリシアよ。
ニャン子じゃぁないから・・・」
そう言ったニャン子姿のアリシアが、黄色いリボンを解くと。
ふぁさッ!
赤髪が流れて・・・靡いて。
そして顔がニャン子ではなくなった。
「アタシはニャン子星の赤毛族、真紅のアリシア。
我が王の依頼を受けて罷り越しました」
とうとう現実世界に姿を晒したアリシアという魔法士。
服装はニャン子が着ていた物のままだが、声も顔も変わっていたんだ。
おまけに・・・体型迄も。
「わわッ?!機動少女だよね?」
萌が驚くのも頷けた。
俺だっていきなり変身したニャン子に戸惑うしかなかったんだから。
しかも・・・だ。
俺だけじゃぁ無く、萌も話し合えているんだ。
召喚者の俺じゃ無い萌も・・・なんだぜ?
「そう。この機動ポットを作動させたら元に戻れるの」
腰に着けた円環は、機動少女へと戻る為に着けられていたのか。
じゃぁ着けていなかったら?
「これが作動しなければ、アタシはニャン子のままなのよ?」
ほほぅ?便利なようで不便そうだな。
「そうなんだ?アタシは初めて会話する気がするのアナタとは」
萌が機動少女に声を掛けた時。
「そう・・・でしょうか。
アタシはあなたの事を存じ上げていますのに」
アリシアがそう言ったのを、俺は心の中へと仕舞い込む。
この魔法士アリシアが何かを伝えたがっている気がしたからだ。
「アタシを?ああ、この前の晩に会ったからね」
土安との闘いの最中に観た事があったんだ萌も。
でも、あの時はテレパシーで会話していたんだ俺だけが。
萌はその時話し合ってなんて居ない筈。
だから初めてと言ったぐらいだからな。
「・・・存じ上げているの意味が違うのよ。
アタシの会ったのは昨日が初めてよ・・・アナタにはね」
遠い言い回しだけど、俺は分かった気がした。
機動少女の欲している姫が・・・誰なのかという事に。
「そうだよね~、アリシアに会ったのも昨日が初めてだもんね」
萌は屈託のない笑顔で機動少女に応えている。
彼女が求める物が何なのかを知らずに。
俺は機動少女アリシアが、大切なモノを奪うのではないかと惧れを抱いてしまったんだ。
そう・・・俺から萌を奪い去るのではないかってね。
本当のアリシアって?
ニャン子が本当のアリシアなのか?
機動少女なアリシアが本物なのか?
やっと落ち着いて話し合えるときが来たのかな?
次回 本当のアリシア その1
君という娘はどこまでが本当なんだ?包み隠さず話してごらんよ?




