昼下がりの怪異 その1
萌と一緒に寝ていたらしい。
アリシアの声が呼んでいるような気がするんだが?
いつの間にか眠っていたらしい。
眠っている筈の俺の傍には萌が居る筈なんだけど。
「ユージ・・・アルジのユージ・・・」
そう呼ぶのはアリシアだろう。
なんだよ、折角寝たって言うのに起すのか?
声に促されて瞼を開けると明るさを感じた。
てっきりもう朝になっていたのかと錯覚してしまったぜ。
「う・・・ん?!」
目を開けて光を感じて・・・辺りを観て驚いた。
傍に居る筈の萌が居ない。
と、言うよりも・・・
「ここは?何処なんだ?」
目の前は光と靄で見通しのきかない世界が広がっていたんだ。
「ユージ・・・アルジのユージ」
そこから聞こえて来るのはやはりアリシアの声だった。
ニャン子じゃない、機動少女の声が呼んでいるんだ。
「アリシアか、俺を呼んでるのは?」
答えたつもりだけど、声にはならない。
あの時と同じように脳から直接話しかけているような違和感があった。
「そうアリシアよ、ユージ」
不思議な感覚だ、話してるというのに音を感じられないのは。
まぁ、本当の俺は今頃寝てるんだから・・・と、言う事は?
「俺って寝てるんだろ?」
機動少女のアリシアに問いかける。
これは夢や幻の類なのかってね。
「半分は夢。半分は現実。
ニャン子なアリシアも、アルジのユージも寝てるわ」
だったら・・・夢じゃないのかよ?
「ここは次元の狭間。
機動システムで造られた戦闘空間の中。
アリシアのポッドによって作り出された異次元空間」
・・・は?
「理解し難いみたいね・・・じゃぁ簡単に言うわ。
ユージの異能を引き出せる結界の中ってこと」
・・・益々判りませんが、それ?
俺が黙って聞いていると、理解したと勘違いしたアリシアが話を進めやがった。
「ドアクダーを倒したと安心しないで。
奴等は次なる手を打って来るわよ、必ず」
どうして分かるんだ?
言葉にしなくても、アリシアには通じているのか。
「機動ポットに積載されてある戦闘妖精が知らせて来たの。
大切なモノを奪いに来るだろうって・・・ね」
戦闘妖精?!
「そう、ニャン子なアタシも言ってたでしょう?
この機動ポットには分不相応な妖精が積載されたってね」
そう言えば、聞いたような。
「女神クラスの戦闘妖精。
アタシには不釣り合いなほどの高貴な妖精・・・女神様にだけ従う妖精。
どうして載せられたかは分からないけど、その戦闘妖精が言うのよ。
まだ、何も解決していないのだって・・・ね」
そ、そりゃぁ大変なこって。
でも、解決していないのはニャン子なアリシアの方だろ?
保安官とか言う奴に会わなきゃならないのはアリシアの方だった筈だぜ?
「そうね、確かにそれもあるわ。
だけど、ユージにも解決しなければならない件があるでしょ?」
俺に・・・か?
「そう・・・あなたは誓いを交わした。
それを護らねばならない筈でしょ・・・約束したのなら」
アリシアは俺の誓いを知っているのか?
だけど、あれは親爺が一方的に迫ったからだぜ?
「勘違いしてるわアルジのユージ。
あなたはもっと大切な誓いを交わした人が居る筈よ?
守らねばならない約束を交わしたんじゃなくって?」
・・・誰と?誰と俺が交したって言うんだ?
「そう・・・忘れているのじゃぁ無くて、秘められてしまったのね」
曰く付きなアリシアの言い回しに、俺はイラっとしてしまう。
だって、知っているのなら教えてくれたら良いじゃないか。
「残念だけど、この場で教えるのは禁忌に触れるかも知れないから。
もしもユージが邪悪な呪いでも受けているのなら、
教えてしまう事で発動してしまうかもしれないの。
万が一、禁呪を受けていたら取り返しのつかない事態を引き起こす恐れがある」
おいおい?!なんだよそれって?
「まぁ、焦らず時間をかけて思い出してみて。
もしかしたらドアクダーと闘う事になったら思い出せるかもしれないわよ」
はぁッ?!俺があんな化け物と闘うってのか?
シザーハンズみたいな怪物と闘えってのかよ?
「あんなの・・・単なる動力仕掛けの駒に過ぎないわ。
本当のドアクダーの怪人は、もっと恐るべき能力を誇っているわよ?」
・・・ヤダ。絶対死ぬから闘いたくありません。
「ふふふっ!この星の人間なら、確かに勝てっこないわね。
でもね、アルジのユージには闘えるだけの異能が・・・あ?!」
なに?俺にそんな力があるとでも言うのかよ?
「あ・・・あ、あはははは~。
いやあの、アタシを呼び出したら勝てるかもって・・・」
・・・なんだか誤魔化したな、言い難い事があったんだろ?
「や、やだなぁ~。アタシったらそそっかしいから。
ユージの中にナイトの血縁が濃く流れてるなんて言えないから~」
・・・ナイト?なんのナイトだよ?
「ぴゃぁっ?!ソ・ソンナコトイイマシタカ?」
片言だよアリシア。
で?ナイトって言うのは何の事なんだ?
「・・・黙秘権を行使します」
下僕に黙秘権はないッ!
「・・・・ツー、ツー、ツー」
電話かよ。
俺をこんな結界に連れ込んでおきながら、謎を増やしてどうすんだよ。
「ごほんッ!言いたかったのはねユージ。
まだドアクダーは存在して、ニャン子なアリシアを狙って来る。
それを未然に防いで、保安官に連絡をつけて欲しいのよ」
うむ、それなら分かる・・・が。
「あ、それ以上は深く追求しちゃ駄目。
今は、目前の敵に集中して・・・欲しいなぁ~」
・・・いつ話してくれるんだ、ナイトの血縁って言う話を?
「そ、それは・・・解決してからね。
保安官を探し出した後でって・・・良い?」
仕方ないだろ、アリシアが話さないって言うんなら。
「ほっ・・・・」
なんだか、こっちのアリシアもドジっ子だったかと思うよ。
「それじゃぁアルジのユージ。
ニャン子なアタシを宜しくね、迷惑かけちゃうかも・・・だけど」
へいへい、分かりやしたよアリシア。
頭に聞こえていたアリシアの声が聞こえなくなると同時に、光が消えて行った。
そう・・・夢から覚めるとは逆に、眠りについたんだ。
・・・って。
なんだか息苦しいけど?
はッ?!
重い・・・腹の上に何か載ってる気がする。
「す~ぴぃ~ すやぁ~」
・・・萌が俺を枕にしてやがった。
さては、こいつが悪夢の元凶か?
目を覚ました俺が、萌を観てそう感じたけど。
「幸せそうに寝やがって。
どかそうかと思ったけど、しばらくこのままにしておいてやるか」
微笑みながらむにゃむにゃ眠る萌を観て思ったんだ。
本当に義理妹じゃなかったら・・・ってね。
「起きる・・・ニャァ!」
・・・
「二人共起きるニャぁッ!」
・・・うるさいなぁ・・・
「もうコンナ時間ニャぞ!起きるニャァ!」
・・・ヘンテコな目覚まし音声だな。
・・・・・・
・・・・・・・・・・すやぁ~
「起きるニャ起きるニャ起きるにゃあああああああああッ!」
「どわぁっ!ド五月蠅いッ!」
萌を腹の上に載せたまま寝てしまっていた俺に、ニャン子が捲し立てる。
「煩いと思うニャら、さっさと起きるニャ!」
「あ・・・おはようニャン子なアリシア」
萌も眠い目を擦りながら眼を開けた。
「ボケてる暇は無いニャ!もうこんな時間ニャぞ?!」
アリシアが時計を指して喚いてる・・・けど?
「あ・・・まだ6時じゃないか?」
デジタル時計は16時を指している・・・・え?!
「夕方の4時だってぇ?!」
「ほぇええええぇッ?!」
俺の叫びに萌も素っ頓狂な声を張り上げやがった。
「そうニャ!太陽も傾いているニャぞ?!
アタシはずっと呼んでいたニャぞ!」
馬鹿な・・・半日も寝ていたなんて?
デジタル時計は16時を指し、日付は土曜を指している。
「・・・土曜。良かった・・・今日は休みの日だった」
萌が心底ほっとして座り込みやがった。
学校を無断で休む事にはならず、友達にもバレなかったと安堵の表情を浮かべたんだが。
鞄から出ていたスマホを慌てて掴むと、安堵が恐怖に変わる。
「うわわぁッ?!どして?なして?
こんな話になっちゃってるのぉ~ッ?!」
SMSを観た萌が真っ青になりやがる。
「なんだよ萌?友達がなんか呟いたのか?」
俺が訊いたら、コクンコクンと頷いて。
「あの・・・あのね、ゆ~兄ぃ~。
アタシとゆー兄がね・・・禁断の行為をしてたんだって・・・」
・・・・は?
「良く分からないが?」
本気でそう言ったら、萌が逆上しやがった。
「だぁ~かぁ~らぁ~!兄ぃと・・・出来てるって」
「・・・ほほぅ?それは美味しいのか?」
・・・・
・・・・・
・・・・・・・
「どうしてこんな呟きが流れてるのよぉ~」
「誰だよ張本人は?!」
一体誰が俺達を貶めようと企んでいるのか?
ドアクダーとの決着もまだなのに、また面倒なことになりそうな気配が?!
また・・・話がややこしくなりそうですな。
本当に出来てるんならイザ知らず。
義理妹には手も出していないんだぜ?
疑われるのは心外ってもんだ。
・・・だって、萌に殺されかねないじゃないか?
犯人の意図しているのは?
こんな噂を拡散して、何か得になるのか?
次回 昼下がりの怪異 その2
その時ユージは言ってしまうのだった。本当の機動少女から聞いた通りに・・・




