これが機動少女の威力なのか? その3
さぁ!
機動戦闘が始まるのか?
ああ。
それは・・・無理じゃないの?
夜の帳が落ちた・・・空中に浮かんでいるアリシア。
赤髪を靡かせているケモ耳尻尾ありな少女から聞こえたのは、自分に宿る魔法の力を知らせたのか。
「闘うに見せて逃げる気ニャのか?でも、アタシからは逃げれないニャぞ?!」
シザーハンズなドアクダーの背に向けて、空中に浮かんでいるニャン子なアリシアが言ったんだ。
「減らず口が叩けるのなら、私を倒してみるが良い」
逃げてる癖に、土安だった悪人が宙を見返して吠えやがった。
売り文句に買い文句って奴だろうな。
「私はお前から逃げた訳ではない。
狭い空間で闘う不利を悟っただけなのだ!」
振り返ったシザーハンズな土安が、両手を鋏に代えて立ち止りやがる。
それは正に闘う姿勢。
夜空に浮かんだアリシアと対峙しているのは、犯罪集団の構成員っていう処か。
「残念だったな保安官補助手。
私は捕まる気も逃げる気もさらさらないのだよ。
お前を倒してしまえば、何もかも闇に葬れるんだからな」
吠えるシザーハンズは萌を人質に獲る計画をうやむやにしやがった。
人質を獲らない気なのか?
いいや、アリシアを倒しておいて更に人質を獲る気かも知れない。
なにせ何を考えてるのか、皆目分からない奴だからな。
言われるままにしているアリシアが、ぼそぼそ何かを呟いている。
なにやら腰に着けてる金色円環のボタンを弄っているみたいだけど?
「保安官補ミシェル様から言い遣っているニャ。
アタシ専用の機動システムを使う場合、力の使い方に注意しなさいってニャ」
ぼそぼそ独り言をつぶやいているアリシア。
「もしも起動させたら、相手をフッ飛ばさずには治まらないってニャ」
金の円環に着いている紅いボタンに指をかけて躊躇しているみたいだ。
「アルジのユージに迷惑をかけてしまうかもしれないニャ」
アパートに被害が及ぶ恐れがあるのか?
「でも、ほってはおけニャいし・・・」
闘う気満々なシザーハンズドアクダーを見下ろして考えているようだ。
指先のボタンを押すのに躊躇いがアリシアを押し留めていた・・・それは何故なのか?
「アタシ・・・機動力を使うの・・・初めてなんニャよ」
・・・え?!
「上長の皆さんは凄い戦闘力を誇られているけど。
ついこの間助手になったばかりのアタシには、どんな機動戦力が備わっているニョか?
やってみないと分からないニャよ」
・・・な ん だ と ?!
さっきは逃がさないとかやっつけるとか息巻いていたんですよ?
それなのに・・・分からないと?
「多分・・・目の前に居るドアクダーよりは強力だと思うニャが」
タブン?!
「どんな姿で、どれ程の威力があるのか・・・分からニャいニョ」
・・・なんともはや。
困った事に、アリシアは自信がないみたいです。
ぶつぶつ呟くアリシアに業を煮やしたのか、それとも自分を買い被ったのか。
鋏を打ち鳴らすドアクダーがニヤリと嗤って。
「そっちから来ないのなら、野良君に犠牲になって貰うとしましょうか。
人質は義理妹さんに決めていますからね」
言ってはいけない戯言をほざきやがった。
「初めから俺を殺す気だったんだな?」
「人質に獲っても後で殺す気なんでしょーが!」
シザーハンズに向かって義理兄妹が言い返す。
だけど、アリシアには決定打になったんだ。
機動力を行使してしまう・・・本当のボタンに。
ドアクダーは自ら墓穴を掘る事になった。
「ニャにぃッ!そんなことは断じて許さニャい!」
声が届いた瞬間、アリシアが叫んだんだ。
ニャン子の指が、躊躇を辞めてソレを押し込んでいたんだ。
ブゥンっ!
紅いボタンが押し込まれ、何かが動き出した。
そう・・・俺達もアリシアだって知らない<<ソレ>>が。
「観てるニャ、アルジのユージ!
これが時空監察局保安部員が授かった機動戦闘力。
これがアタシの機動力・・・機動の威力ニャ!」
初めて機動の魔法を使うアリシア。
自分だってどうなるのか分からないというのに、ドアクダーに因ってボタンを押しちゃったんだ。
見上げる俺と萌の眼に、アリシアが両手を突き出したのが映ったんだ。
一瞬、何が起きてるのか理解不能になる。
金色の輪っかが発光し、アリシアの姿を視界から消し去る。
光が眩くて、俺はアリシアを見続けられなくなっちまった。
萌だってきっとそうだっただろう・・・だけどもこいつには観えていたのか。
「嘘だろぉッ?!」
驚愕の叫びが、地上から聞こえた。
その声はドアクダーだと思えたんだけど。
「ぎゃぁっ!」
光が消える前に、断末魔の叫びに変わった。
一体何が?!
金色の光が薄まって、やっと俺は視野を取り戻したんだが。
「成敗・・・完遂」
誰かの声が聞こえてきた。
さっきまでのアリシアではない、違う女性の声が。
我に返った俺と萌が、声の主を探す・・・必要もない。
目の前に佇んでいるのは、一体誰?
紅く長い髪。
燃えるような髪が靡ていたんだ。
アリシアとは別人。
悪いけどさっきまでのニャン子なんかじゃない。
空中に浮かぶその姿は、さっきまでとは全く違う。
身に就けている衣装も、全く別モノだったんだ。
「アリシア?もしかしてアリシアなの?」
萌も気が付いたみたいで、揺蕩う女性に訊いたんだ。
俺は女性の下に居るシザーハンズだったドアクダーが、金属の塊になっているのを観た。
もう、そいつは何も出来やしないだろう。
その場から一歩たりとも・・・いいや、身動きさえも出来やしないだろう。
だって・・・本当に物体と化しているんだ、塊になっちまってんだから。
観るのも出来なかったが、女性は瞬間でドアクダーをこんな状態にしてしまったんだ。
萌の声に女性が振り向く。
長い髪が揺れて、顔を半ば隠していたんだけど、その髪が流れていくと。
紅い瞳には金色が揺蕩う。
紅く燃えるような唇は薄く微笑んでいるみたい。
とてもニャン子なアリシアには観えず、凛々しい顔は女神のように麗しい。
唯、その女性がシザーハンズを葬ったのは間違いが無さそうだ。
なぜなら・・・その手に握られていたのは。
「なんだよその剣は?」
俺が剣と言ったのは間違いかも知れない。
剣なら刃がある筈なんだ。
だけど手に持っているのは武器だとは思うけど、刀でもなさそうに観える。
「これは魔導の剣。機動少女のみが持てる魔砲の刃」
女性が答える・・・俺の頭の中へ直接。
「魔・・・魔導?!」
魔導と聴いて、俺は咄嗟にアリシアが魔法使いだったのを思い出した。
それじゃぁ、やっぱりこの人は?!
「アルジのユージ。アタシだよ、アリシアだから」
赤髪はアリシアと同じ。
長くなった髪だけど、色は同じだった。
ケモ耳は何かの装置に変わったのか、白い耳状の突起物になっている。
顔立ちは女の子には違いないけど、ずっと麗しく端正な貌となってる。
「アリシアなの?マジで別人だよそれ?」
萌には声が届いていないのか、疑いの声で訊いている。
「ああアリシアだって言ってるぜ萌」
俺は頭の中に届いた名乗りを教えてやる。
「ひょぇえええぇ~ッ?!」
驚き過ぎ・・・でもないか。信じられない変化だからな。
「観る暇もなかったわ、怪人をぶっ飛ばすのを」
怪人か・・・だったらアリシアは?
「まるでスーパーヒーローみたい!変身しちゃうんだから」
そうなるかもな、アリシアは正義のヒーローって事だな。
萌の声に同感し、悪人をやっつけたアリシアを見上げる。
紅い服と金の円環は姿を消し、いまは赤と紫の機動少女姿となっていた。
身体のラインが目につく。
まるでどこかのアニメから飛び出して来たような、魔導のレオタード姿。
レオタードっぽいけど、はっきり言えば肌の露出が半端ない。
足には濃い紫のストッキングブーツ。
それにはガードの目的以外にも思える金属のパーツが着いている。
おへそを出しているレオタードは、胸部で左右に別れて肩へと伸び上がり、肩上に着いたガードと繋がっている。
確かアニメやゲームに、こんなキャラが居た気もするんだが。
実際に目の前に現れたら、自分の方が異世界に紛れ込んだ気になる。
しかもアリシアで、ニャン子だった少女だと言うんだから。
「どう?アルジのユージ、一発で倒しちゃったよ?」
頭の中でアリシアだった子が教えたんだ。
「観てくれた?アタシがぶっ飛ばすのを」
・・・いや、眩し過ぎて。と、言うか一瞬過ぎるし!
「早過ぎて観えなかった」
正直に答える俺。
「あはは・・・そうなんだ。
アルジのユージには観て貰えなかったんだ・・・しょうがないね」
麗しい声で頭へ語り掛けるアリシアだった機動少女。
「ニャン子なアタシに教えて貰いたかったんだけどな」
薄く笑うような声。そこにはなぜか不思議な悲しみが含まれている気がした。
何故かは分らなかったけど・・・
「ドアクダーを倒したから・・・戻るね」
そしてもう一つ気が付いた。
ニャン子なアリシアとは別人の少女が、普通の喋り方をしている事に。
ニャ語を話さない・・・アリシアに。
夜空に浮かんだ機動少女。
昨日出会えたニャン子ではない、全く違う少女。
これが俺との邂逅。
星空の元、俺と機動少女アリシアが出逢えた本当の日になったんだ。
一瞬で決まった戦闘?
戦闘とは言えないでしょう。
あっさり過ぎる結末は、機動少女の威力とも言えるでしょうけど?
機動少女アリシアとは?
いったいどんな異能を秘めているのでしょうか?
いつかは分かる日が来るでしょうか?
次回 俺が特異点だっただと?!その1
俺はニャン子の主人だったのか?・・・って、勝手に決めるなよ?!




