気まぐれな天使のテーゼ その3
引き続きましての第2問。
さて、あなたは嵐に勝てるかな?
迷解答にご注意ください
この問いに正解出来なければ、ダレットは敗北してしまうのです。
3問中2問の正解を答えないといけないのに、既に1問目が答えられずにタイムアウトとなっていましたから。
残る2問を正解しなければならない。
少なくとも、この問いの正解を導き出さなかったら、その場で敗北と成るのです。
「なんとかして正解を言わなきゃならないのよねぇ」
ですが、焦ってる割には面白そうに顔を緩ませているのがダレットの余裕なのでしょう。
そもそも、こんな問答に付き合っている暇なんて無いというのに、どうして嵐の作戦にのっかったのでしょう?
「上を目指す者は、知識欲も大きいものなのよ。
物よりも知識を欲しがる、そしてソレを如何に活用するかで自分を磨く。
もしもこの娘が闘いを求めて来たのなら、瞬殺していたのだけど」
問答勝負を求めて来た嵐の企ては、見事にダレットの気を惹いたようです。
幾ら異能の娘とは言え、アリシアにも勝る機動の鎧を羽織れる相手に戦闘で勝てる見込みは薄かったのです。
ダレットが言った通り、瞬殺されたかもしれません。
ですが、ドアクダー幹部で男装の麗人なら、知識欲には勝てないだろうと踏んだ嵐が一枚上手だったみたい。
時計の針は、刻々と過ぎ行く時間を指し示していました。
第2問を投げてから5分が過ぎました。
「どうかな?答えは導き出せたかしら」
嵐が男装のダレットへ手を差し出しました。
「う・・・ううむ。
人為らざる者って、モノなの?人とは違うモノなのよね?」
「問題を聞いてなかったってオチは通じないからね」
あっさりヒントを拒否られるダレットに、嵐が言うのです。
「人の形で人ではないモノはなぁ~んだって、訊いてるの」
答えられまいと余裕をみせて、再び設問を知らせるのでした。
余裕をみせる嵐がニヤニヤ嗤っているのを観ていたダレットが、不意に訊いて来たのです。
「人の形ねぇ・・・それってマネキンとか言うんじゃないわよね?」
「・・・ピクピク」
問われた嵐の顔から哂い顔が消えます。
最初の答えとして用意していたのが<案山子>だったのですから、マネキンと訊かれて不味いと思ったのでしょう。
嵐の表情を見て取ったダレットが追い打ちをかけます。
「まさか、人形とかロボットとかの類じゃぁ無いでしょうねぇ?」
「ぎくッ?!」
このまま言い続けられては、いつかは案山子に辿り着く・・・
嵐は設問を誤ったと臍を噛みましたが。
「ふぁ、ふぁいなるアンサー?」
瞬時に気力を持ち直して回答を求めました。
ダレットは相手の顔色から答えがそう遠くないものだと判断を下します。
「ちょっと待って。
答えは一つなのよね?物理的物体なのよね?」
最終回答を前に、念を押すダレット。
「物体には違いないとだけ答えておきます」
「じゃぁ、神や悪魔なんかではない訳ね?」
深読みしたダレットが最期に訊きますと。
「ぎくぅッ?!」
予備に用意しておいた答えを言い当てられて、嵐が仰け反ってしまいました。
慌てる嵐を見て取ったダレットが、自信満々で答えるのです。
「神でも悪魔でもなく、人の形を採る物と言えば・・・」
「ふぁっ、ふぁいなるあんさ~?」
動揺する嵐が、最終回答を求めました。
「正解は・・・案山子でしょ!」
「うッ?!どうして・・・案山子だと思ったのか答えなさい」
人形でもロボットでもなく、案山子だと言い切ったのは何故なのかと訊いたのです。
ふっと息を吐いたダレットが言うには・・・
「人の形をしてるモノは他にも多いけど、人の代わりになって役立つのは案山子だけ。
人形と呼ばれるモノの中には役立つ物や宗教的な物もあるけど、人の心に訴えかけるモノであって実益は無い。ロボットやマネキンは人の代わりというより、人を超えた能力を備えたモノ。
案山子は人として人の代わりに立っているモノ。
人の形で人ではないモノって言えるのは、案山子だけの筈」
「ぐぅ?!」
解答としてはこれ以上に無い理屈。
人為らざるモノならば、人形もロボットも当て嵌まるのだが。
人の形をとっていて、人ではないモノと設問されたからには<案山子>が正解である。
ダレットが言い切った説明の通り、田や畑に立っている案山子は人として存在している。
代役をするのではなく、案山子自身が人になる為に建てられているのだから。
「人であり人ではないモノ。
どうかしら、正解じゃないの?」
ダレットが嵐へ答え合わせを求めるのです。
「見事な回答だったわ。
でも、不正解よ!」
「・・・えッ?!どうして?!」
嵐は正解だとは言いませんでした。
本当は正解でしたけど、敢えて不正解だと言ったのです。
完全に読み切ったダレットでしたが、嵐から返って来たのは不正解の一言。
「どうしてよ?!
なぜ案山子ではないというの?」
納得がいかないダレットが、
「じゃぁ正解は?納得させてみなさいよ」
正解とどうしてなのかを答えるように求めて来ました。
「宜しい。それじゃぁ答えましょう!
正解は・・・洋梨よ!」
「よ?ヨウナシ?」
洋梨プリーズ・・・これだ
唖然と嵐を観るダレット。
「説明ぷりーず」
で、解説を求めるのです。
「分らないかなぁ?
人の形で人ではない・・・つまり人でなし。
人でなしには用はないでしょ?
その結果が、答えとなったのよ!」
「だからって、洋梨だなんて・・・」
まさに引っ掛け問題。
ダレットに正解を言い当てられた嵐の迷解答だったのです。
・・・と、いうよりは気まぐれだったのかも。
ダレットは愚痴りますが、嵐の答えも一理あったのです。
敢えて洋梨と答えを動かしたのは、ダレットを指してもいたからです。
人の形で人為らざるモノでもあり、この場に居て貰いたくない存在だと告げてもいるのでした。
「洋梨・・・用は無し・・・用のない者」
つまり、早く帰れって言っているようなもの。
2問を答えられず負けてしまったのだから、嵐の求めに応えなければいけないのです。
「あはははは、なるほどね。
私を留め置くだけではなく、勝利して帰らせようと試みたのね」
ダレットは大笑いして納得しました。
目の前に居る嵐が、本当に願っているのは諦めて帰ってくれることだと分かったからです。
初めはどれだけ時間を稼げるかでしたが、ダレットが真剣に応じてくれたことに謝意を表してもいたのだと判ったから。
「ホント、あなたには舌を巻かされたわ。
原住民の中にも、これ程の知恵者が居ただなんて」
ダレットは嵐を褒め称えるのですが。
「でもね。
悪知恵ならば負けていないわよ?
どうして真っ直ぐに地図の巫女の元へ行かなったのか勘繰らなかったのかしら」
「え?!」
立ち上がるダレットの蒼い瞳が嵐を見据えました。
「地図の巫女は勇者剣士達に護られているわよね?
正面から突っ込んだって素直に渡しては貰えないわよね?
だったら・・・人質を獲るってのも悪い話ではないのよ。
このダレットにとっては・・・ね?」
素直に帰るのではなく、初めから嵐を人質にしようと考えていたらしいのです。
「あなたの仲間はどうするかしらね?
私がわざわざ巫女を誘拐に行かなくても、そっちから来てくれた方が良いじゃない。
あなたという人質を助けようと、巫女と共に来てくれれば話が速いってものでしょ?」
そう来るのか?流石は大悪人ダレット。
自分独りで野良家に踏み込めば、黒の3連鬼と同様になるかもしれなかったのですから。
「コッチのテリトリーで闘えば、勇者剣士達に勝ち目は無いって話よ」
邀撃する地の利って奴ですか。
「だからね・・・私の虜になって頂戴ね」
男装の麗人が嵐へ教えた時には、少女の瞳は閉じられてしまっていたのでした。
「あらあら。他愛もないわね、疾風の嵐ちゃん」
既に正体を見切っていたダレットの手にはスタンガンが握られていたのです。
衝撃で声もあげることなく失神してしまった嵐を、周りを囲んでいた親爺達が担ぎ上げるのでした。
「おい、お前等。
その娘に手を出すんじゃないわよ。
カタが全部ついたら、この娘ともう一度問答を交わすのだからね」
ニヤリと哂うダレット。
そして取り巻き達。
何もかもがダレットによる芝居だったのです。
自らが悪知恵の働く者だと言い切っていた通り。
萌とユージを手に入れる為の謀だったのでした。
「明日は、きっと手に入れられる。
そしてこの星から逃げ出してしまえば、全てが思い通りになるのよ!」
ドアクダー大幹部ダレットは、取り巻き達と貨客船<アイン>号へと帰って行くのでした。
「遅い・・・嵐の奴はいつまで待たせる気なんだ」
知らせに来た京香は、嵐がいつ来るのかと野良家の前で待っていたのですが。
ピコピコリン♪
携帯が着信したのです。
「お?嵐か」
着信先は嵐のスマホ。
「何処に居るんだよ嵐」
京香が質すと即座に。
「預かってる。この端末の持ち主をな」
誰なのか分からない声が誘拐したと宣言したのです。
「なッ?!」
慌てる京香に訊き質す暇も与えず。
「明日の朝8時。横須賀港の<アイン>号まで来い。
分かっているだろうが、地図の巫女が来なければ持ち主は保証しない」
そこで回線が途絶えてしまいました。
一方的な宣告だけで、こちらの言い分など無視したのです。
焦ってリダイアルした京香の耳には、嵐との回線が開けられない事を知らせる音だけが返って来たのでした。
「しまった!
奴等に捕らえられてしまったのか嵐?!」
口惜しさよりも、歯痒さよりも。
今はユージ達に知らせるのが優先だと、京香先輩は飛び込んで行ったのです。
「トッポイボーヤ!知らせたい事があるんだ!」
野良家の玄関先で叫ぶ京香。
その声は非常事態を宣告してもいたのです・・・・
損な?!
ダレットは嵐の上を行く知恵者だった?
いいえ、単に悪賢いだけですよ。
いよいよ風雲急を告げる中、
彼女は決断してしまうのです。
歴史は繰り返されるのか?
悲劇は回避できないというのでしょうか?
次回 選択肢 その1
あなたは最期に何を言って別れてしまうというのか?




