空を見上げていたらニャン子が降って来たんだが? その1
今日も今日とて。
変哲も無い日常に飽き飽きしていたんだ。
退屈で刺激の無い日々を生きているのが嫌になる。
変化の乏しい毎日の中で、俺はシフトを終えて店を後にする。
トボトボ歩いて、疲れた体を無理やり家路に就かせる。
明日も学校があるから帰って寝なきゃならない、うぜぇ話だぜ。
俺は後1年、高校に通わなきゃならないのが面倒臭い訳じゃない。
毎日の復習やら予習やらがウザイんだ。
大学に行くか就職するのか、はたまたニートになるのか。
俺には全てが面白く感じられなかったんだ。
どーでも良いじゃんか、俺の将来なんて。
取り敢えずだ。
今はバイトと学校で、手一杯なんだからさ。
後の事なんて考えるのも面倒臭いって訳さ。
ぶらぶら帰る俺に、追い縋って来る奴が呼びやがった。
「居た居た!ゆー兄ぃ~みぃーっけ!」
あざとく声を掛けやがるのは。
「バイト終わったんでしょ?今から帰りだよね!」
駆けて来た勢いのまま俺にローキックをかけて来やがる。
ひょいッ!
もう慣れた。
こいつのやる事は大概いつもこうだ。
「にゃぁ?!」
空振りに終わった蹴りを悔しがりやがるのは。
「あのなぁ萌。いつもながら蹴りを噛ますのはやめろよなぁ」
俺の義理の妹である萌。
再婚した義理母の娘で、一つ下の16歳で凶悪娘だ。
「良いじゃん別に!」
「良くないわ!」
ニヤニヤ笑う萌には勝てない。
俺になついているのか、馬鹿にしてやがるのかは知らないけどね。
「ほら!お母さんが持ってけってさ」
袋に入っているのは義理母が造った手料理か何かだろう。
毎度の事だが俺には有難迷惑な話なんだ、これが。
「萌・・・また宿題やれってんだろ?」
「・・・バレてる」
そういうことだ。
こいつはことある毎に、俺を使いやがるんだぜ?自分の為にさ。
「お~ほっほっほっ!ゆー兄ぃが飢えているかもって。
そー言ったらおでんを持って行けって言われたんだよ。
おでんと交換で、数学の宿題を片付けてくれたらウィンウィン!」
「どこがウィンウィンなんだよ!」
吠えちゃいますよ俺だって。
こんな義理妹の萌だけど、ちっとも憎めないのは何故なんだろう。
ニヤニヤ笑いブリブリしてやがる萌を観て、俺は今日何度目かのため息を吐いた。
「しょうがない奴だなぁ、アパートに戻ったら温め直してくれよ?」
「おっけ。これで商談は成立だね!」
商談かよ・・・呆れた奴だ。
バイトからの帰り道、俺と萌は並んで歩いた。
袋を持った俺の横で、義理の妹である萌を観る。
俺とは違って整った顔形。
街灯の燈に良く反射する黒髪を、ボブに纏めて緑の髪留で左側を結われている。
濃いグリーンに反射する瞳の色なんかは、日本人離れしていて母親譲りって処か。
薄く色付いた唇は少女らしさを残していて、まるで3D少女の様だ。
これで彼氏が居ないなんて、我が義理妹ながら不思議だぜ。
ま、凶悪な奴だからだろうけどな。
頭半分ほど背の低い萌は、義理の兄である俺を都合のいい存在としか観てはいないだろう。
なにせ、おでんで宿題を任せられる便利極まる野郎だからな。
「ゆー兄ぃ、どうだったおでん?」
アパートで一人暮らしの俺には、大層な御馳走だよ。
「ああ、もう少し塩味が欲しい処・・・」
味にうるさい訳じゃない。
このおでんが、義理の母が造ったってのが気に入らんのだ。
「そう?・・・そっか」
まるで自分が造ったとでも言うかのように、萌の表情が陰ったけど気にしちゃいけない。
「じゃぁ、今度は塩加減に注意して・・・って言っとく」
平らげたおでん容器を片付けて、萌が帰り支度を始める。
「数学が分からないのなら、学校で教えてやるから」
俺はアパートにまで押しかけて来る萌に言ってやった。
「宿題くらい自分でやれよ、俺にさせずにさ」
「い、良いじゃん。交換条件なんだから」
いつも通り繰り返し俺が言うと、萌は決まって拒否りやがる。
「それにぃ、ゆー兄ぃの自堕落な生活を観に来るのも仕事なんだから」
仕事かよ・・・
「たまには・・・家に戻って来れば良いじゃん?」
いつも通りだな、萌は。
「じゃないと・・・家にあるゆー兄ぃの持ち物ぜぇ~んぶ、アタシのモノだからね!」
あの。そりゃないだろ?
「わぁーったよ。たまに帰るから、盗るんじゃねぇぞ?」
「しぃ~らない!」
ツン状態の萌。
本当は俺が帰らないのを知っていて、こうして俺の部屋に来るんだから。
実家に居辛いってのを、萌は分かってる筈だしな。
実家まで歩いて10分ほどの距離。
萌を独りで帰すのは自尊心が許さない。
玄関までとは言わないが、家の見える処までは送る事にしていたんだ。
「そんじゃぁ~な、萌」
「ばいなら~」
お道化て手を挙げる義理妹に答えるのも面倒だ。
玄関へ走る萌を後ろに、俺は元来た方へと足を運んだ・・・のさ。
まさか、その後。
驚天動地の展開が待っているなんて思いもしない普通の一日の終わり。
萌を送り、アパートに帰り寝るだけ・・・・の予定だった。
アパートまで後数メートルになって、俺は鍵をポケットから取り出した。
と、その時。
「にゃぁあああああ~」
どこかで野良猫が騒いでるな・・・って。
「悲にゃああああああぁッ?!」
ウザイ・・・なんで鳴いてやがるんだ?
「にゃぁあああああああああああああああ~」
段々鳴き声が近寄って来るような?
「ニャ・・・ニャニャニャァ~~」
ふと。
俺は嫌な予感がしたよ。
声が近寄って来るのが地上からではない事に気が付いて。
「まさか?!アパートの上から?」
ボケた訳じゃないぜ?
「それにしては鳴き続けているような?」
段々近付くんだ。
僅か数メートルでしかない建物から落ちて来るような鳴き方じゃないぜ?
「ニャニャニャぁああああ~ッ!」
助けを呼んでいる・・・ニャン子が?
バッと振り仰いだ。
星空を。
俺は・・・その時。
初めて。
自分の不幸を身に染みて感じたよ。
「嘘・・・だろ?」
星空から落っこちて来たのは・・・ニャン子。
ではなくて!
「ニャニャニャにゃぁあぁ~ッ!!」
ー やっぱり、ニャン子だったか・・・
鳴き声は間違いなくニャン子。
でも、俺の眼に映っているのは・・・
目を疑った俺は、混乱した頭でボケを噛ましたW
ニャ語耐性を身に付けてくださいW
はじめまして!
さば・ノーブと申します。
この作品にはニャ語と呼ばれる独特な会話法が使われます。
読んでいてウザイとか思わないでくださいね。
さぁ、これから始まるのは高校男子ユージと<女神>になりたい少女のお話。
どうなりますやら。
2021年夏
ちはや れいめい様から表題を頂きました。
謹んでお礼を申しあげます。
mypage.syosetu.com/487329 「ちはやれいめい」様