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後日談

──あれから何年か経ちました。


私には、未だに人間不信の名残りがあります。



高校時代の同窓会には行けなくなりました。

テツロウやミキヒサと遭遇してしまう事が嫌だからです。


あの事件のあった年の翌年、同窓会が行われたそうです。

私はもちろん参加しませんでした。

テツロウは来ていなかったそうですが、参加した女友達から、ミキヒサの話を聞きました。

女友達は口々に


「ミキヒサくんは変わった」


と、言っていました。



同窓会当日。

女友達が繁華街を歩いていると、偶然ミキヒサと遭遇したそうです。

その時ミキヒサはスーツを身に纏い、道行く女性を次から次へとナンパしていたそうです。

女友達が声をかけると、軽妙なトーンで


「今ナンパ中だから」


と、彼は言っていたそうです。


──ミキヒサは高校時代、とても地味な男でした。

彼女ができた試しもないし、それどころか、女の子とろくに口もきけませんでした。

そんな彼が、ナンパをしていた。

同窓会でも、女の子とばかり話していたそうです。

同じクラスにいた頃、全く喋りかけたりしてこなかったミキヒサに喋りかけられ、女友達は面食らったと言っていました。


マルチ商法を経て、何か変化があったのかもしれません。

どうやら、高校卒業からずっと続けてきた仕事も辞めてしまったそうです。


ミキヒサは変わった。

彼は、女の子と上手く話せない事やヒゲが濃い事にコンプレックスを持っていた。

しかし、変わる事によってコンプレックスを乗り越えたのかもしれません。


コンプレックスを乗り越える事は立派な事ですが、私はそれを純粋に喜べません。


私達にあんな酷い仕打ちをしたのだから。

それによって、私がどれだけ苦しんだか……。


ヒトシは私とは違い、そこまでテツロウとミキヒサを憎んではいないような様子でした。

私が彼らをそこまで憎む理由は、友達を裏切った事の他にも理由があります。

友達がマルチ商法にハマる事は、よくある事です。

実際、昔からそういったケースが多くあります。

しかし私の場合、“あのタイミングだったから”こそ許せないのです。


もし、私が上京せずに地元に居たとしましょう。

その時に訳も分からず拉致されて、マルチ商法のセミナーに参加させられたとする。

それならば、私は悔しい思いをしたかもしれないけれど、「よくある事だ」と片付けられたかもしれません。

慣れない街、慣れない生活、不安、期待、失望……。

東京では色々な事がありました。

あの時、私は精神的にまいっていた。

そんな時に友達を裏切ったのだから、私は彼らを絶対に許せないのです。


それだけではありません。

テツロウとミキヒサは、私の心に深い傷痕を残しました。


私はあれ以来、ヒトシと会えなくなりました。


喫茶店でヒトシからマルチ商法の話を聞いた後、一・二度だけ、彼と会いました。


しかし、ヒトシは過去にニュー○キンのセミナーに参加していた。

そして、商品の良さを力説していた。

その顔が怖かった。


もしかしたら、ヒトシもいつかはマルチ商法をやり始めるのではないか、という被害妄想が、私の頭の中で膨らんでいったのです。


私は徐々にヒトシから距離を置き、電話にも出ない、メールも返さないようになりました。


※※※※※※※※※※※※


少し前の事です。

ヒトシの消息が途絶えた、と聞きました。


過去に私達と同じクラスだった友達が結婚する事となり、ヒトシの携帯電話に連絡をしたそうです。

しかし、その番号は現在使用されていなかった。

(ヒトシは高校時代から、よく携帯電話の使用料金の支払いが滞り、彼の電話は止まる事が多かったのです)

その友達は、他のクラスメイト達に彼の連絡先を聞いたそうですが、ヒトシの現在の連絡先を知る者は誰一人としていなかったそうです。


そんな中、最近になって、私は彼の行方を掴みました。

彼は現在、私の実家の近所にある洋食店で働いているそうです。


その話を聞いたのは、つい最近になってからでした。

その洋食店を経営する夫婦が、私の実家の近所に住んでいるのです。

私が犬の散歩をしている時に、たまたまその店の奥さんと会いました。

そして雑談していると、奥さんは言ったのです。


「そういえば、ヒトシくんって知ってるでしょう?」

「え?」

「あきおくんの高校の同級生だったんだってねぇ?」

「はい、そうですけど……」

「もうウチの店で長いこと働いてくれてるのよ」


奥さんの話によると、ヒトシは二年近くその店で働いているそうです。

それも、今は少し離れた街に住んでいて、遠くからわざわざ働きに来てくれていると言っていました。

ヒトシは家庭が複雑なので、住む場所を転々としてきましたが……


『彼は何故、そんなに遠く離れた街から、その店に働きに来ているのだろうか?』


色々と聞きたい事はあります。

しかし、それでも私は、未だに彼に会う事に抵抗があります。

それだけ傷は深いのです……。


※※※※※※※※※※※※


こんな事もありました。


私が地元に帰って来て、日払いのアルバイトをしていた頃の話です。


とある仕事先で働く事になったのですが、その仕事先は交通の便が悪い場所にありました。

そこで、その日、同じ仕事先で働く日雇い派遣労働者の人が、車で現場まで送ってくれる事になったのです。

車を出してくれたのは、私より年下の男の子でした。

私は彼に現場まで送ってもらい、派遣先で働きました。


そして仕事が終わり、帰宅する時です。

帰りも彼は、派遣会社の事務所まで送ってくれる事になっていました。


車内で私達は、色んな話をしました。

前はどんな仕事をしていたか、という話になり、彼はパティシエをやっていたと言っていました。

辞めてしまった理由は、どうやら職場内でいじめがあったそうなのです。

夜道を走る車の中で、彼は暗いトーンで語っていました。

彼もいじめの標的にされたそうです。


そんな彼は今現在、日払いのアルバイトの他に、もう一つ副業をしていると言ったのです。

私がその副業がどんな仕事なのかを尋ねると、彼は言いました。


「詳しい話、聞きたいですか?」


彼は、その副業の話を長々と始めました。

詳しい話は忘れてしまいましたが、それはマルチ商法でした。

パンフレットも持っており、ニュー○キンとは別の福祉関係(?)のマルチ商法でした。


そして彼は、遠い目をしながら言うのです。


「職場内でいじめとか、そういうのは良くない」

「みんなが働きやすい環境を、このビジネスは提案している」


そんなような事を言っていました。

その姿が「誰にでも幸せを掴む権利がある」と言っていたテツロウと被り、私は急に怖くなりました。


彼に派遣会社の事務所まで送ってもらい、私は一目散に車から降りたくなりました。

しかし彼は、私を自宅まで送って行くと言うのです。

私は彼が怖くなって、やや強引に車から降り、そのまま走って逃げました。


このように、私より若い世代にまでマルチ商法は蔓延しているのです。


そして、この彼もそうですが、マルチ商法の餌食となるのは、心に隙間のある人ばかりです。


※※※※※※※※※※※※


私は高校時代にクラスメイトだった友達の中でも、限られた友達としか会わなくなりました。

その限られた友達の中に、クミ(仮名)という女友達がいます。

彼女にはゲイであるとカミングアウトしており、とても仲の良い友人の一人です。


彼女の彼氏は、本作を書いている今、現在進行形でマルチ商法をやっています。

それも、ニュー◯キンです。

クミがその彼氏と付き合い初めてから何ヶ月か経ってから、その事実が発覚しました。


私は、クミまでマルチ商法に巻き込まれるのではないかと心配して「出来れば別れたほうが良いよ」と、伝えました。

しかし、付き合い始めて間もない頃だったので、彼女は別れませんでした。

そして、今でもその付き合いは続いています。


クミは私からニュー◯キンの話を聞いているし、テツロウとミキヒサの話も知っています。

だから絶対にニュー◯キンには手を出さないと言っていますが、それでも私にとってニュー◯キンは、いわばかたきのようなものです。

だから気持ちの良いものではありません……。


実はクミは高校時代、同じクラスメイトのシュウジと付き合っていました。

何の因果か、彼氏が二人ともニュー◯キンの餌食となるなんて……。


今もクミは現在の彼氏と付き合っていますが、最近「別れたい」とボヤいていました。

あまり上手くいっていないようです。

……私は内心、ホッとしています。


※※※※※※※※※※※※


他にもマルチ商法にまつわる、こんな話を聞きました。


私の母の同僚に、あるマルチ商法にのめり込んでしまった女性がいたそうです。

その女性は同僚達を勧誘するだけでは飽き足らず、顧客達にまで勧誘行為を働いたそうです。

やがて顧客達からクレームが来るようになり、それは社内で問題化しました。

そして彼女は、会社を解雇されてしまったそうです。


※※※※※※※※※※※※


マルチ商法の魔の手は、私の親族をも蝕みました。


私の母方の親戚に、ある一家がいました。

その一家は、母の兄と妻、その長男と妻、その子供で暮らしていました。

その一家の長男(私からすると、いとこにあたります)が、あるマルチ商法にのめり込んでしまったのです。


なんでも『魔法の水』と呼ばれる商品があるらしく、それがアトピー性皮膚炎に効くとか何とかいう、非常に胡散臭いものでした。

しかし長男は商品を捌けず、大量に在庫を抱えてしまう羽目に……。


結局、長男がマルチ商法によって作った借金や、前々から経営不振だった伯父の事業の悪化により、その一家は破産してしまいました。

そして、夜逃げしてしまったのです。

今現在も、その一家の消息は母でさえ知らないそうです。


私はあまりその一家と親しくはなかったのですが、まだ彼らが失踪する前に一度だけ、長男夫婦の子供を見に行きました。

その子は、産まれて間もない女の子でした。

あの子は今、何処にいるのでしょう?

元気に育っているでしょうか?


マルチ商法に手を出した愚かな長男の事は別として、何の罪もないあの子の事を思うと、とても心が痛いです……。


このように、マルチ商法は様々なものを破壊してゆくのです。

友達を、家族を、恋人を、金を、仕事を、自分を……すべてを。


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