もう誰も信じない
私が東京から離れる決断を下すまでに、両親が何度か電話をかけてきていました。
私が引きこもっている話をすると、父はこう言いました。
「もう戻って来たらどうだ?」
それでもまだ、その時の私は決断を鈍っていました。
引きこもってはいても、憧れの地に住んでいたかったのです。
東京はお金があれば楽しい暮らしが出来ますが、お金がなければそうはいかないものです。
それをまだ、私は理解し切れていませんでした。
実家に戻るとしても、引っ越すお金すら無いと言う私に、父はこう言っていました。
「レンタカーを借りて、お父さんが東京まで車で向かえに行くから、それで引越しすればいい」
そう言ってくれた時の父は、いつもの頼りない父とは違い、温かくて頼りになる父だと感じました。
なんだかんだ言って、私の事を心配してくれているのだと……。
それでも私は、決断を鈍ったのです。
そして、いざ私が実家に戻ると決断を下した後の事です。
私は電話で、実家に戻る事を父に伝えました。
「悪いんだけど、レンタカーで迎えに来てくれる?」
すると父は、思いもしない言葉を口走ったのです。
「ん? お父さんは行かんぞ」
なんと、来ると言っていたはずの父が、来ないと言うのです。
突如として突き放された私は、困惑しました。
「どうして!? 迎えに来てくれるって言ってたじゃん!!」
「……お、お母さんに頼みなさい」
「じゃあ、お母さんに代わってよ!!」
母に電話が変わり、私は迎えに来てくれるように頼みました。
「私は無理だわぁ」
すると母も、私の頼みを断ったのです。
そして受話器は、父と母と姉との間でたらい回しになりました。
しばらくして母は、こう言いました。
「お父さんねぇ、東京の道は知らないし、危ないから行かないって」
……私は、父にまで裏切られたのです。
声の震えからして、明らかに父は東京にビビッていました。
それから家族と話し合った結果、引越し業者に頼み、一人で帰って来るように言われました。
その引越しに掛かる費用は、祖母から振り込んで貰いました。
結局、誰一人として私を助けてくれる家族はいませんでした。
ピンチの時こそ、助け合うのが家族だというのに……。
家族というのは、古い幻想でしょうか?
血が繋がっているだけで、本当は他人と変わらないのでしょうか?
家族だからといって、信頼するのは馬鹿ですか?
……私には分かりません。
この時の私は、酷い孤独感に襲われました。
それから私は、溜まっていた家賃を支払うべく、ヤケクソな気分で日払いのアルバイトをして稼ぎました。
実家に戻るという事で、私の中の何かが吹っ切れたのです。
頑張って働いて、滞っていた家賃を払いました。
ディズニーランドにも行きました。
新宿歌舞伎町にある豪華なカラオケにも行きました。
そうして私は一人、東京を後にし、里へと帰ったのです。
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新幹線を使い、帰郷した私。
新幹線の改札を降りた所で、家族が迎えてくれました。
父も母も姉も「大変だったねぇ」といった労いの言葉など一切かけず、一様に半笑いでした。
その顔を見て、私は家族を殴りたくなりました。




