はじめに……
はじめに……
この作品を書こうと思ったきっかけは、マルチ商法の被害にあった人々の悲痛な声を、インターネット上で偶然見かけたからです。
それまで私は、過去の事はもう水に流してしまおうと思っていました。
正直、思い出したくもないし、トラウマにもなっています。
だから野良犬にでも噛まれたと思って、早く忘れたほうが良いのだと……。
しかし私が書く事によって、これ以上、被害者を増やさないのならば……
思い止まってくれる人が一人でもいれば……
そう考え、一つのノンフィクション小説として綴る決意をしました。
マルチ商法は、友達を失います。
家族、恋人、金、仕事も。
それだけではなく“自分”までをも見失います。
マルチ商法は、決して大人の世界だけの話ではありません。
マルチ商法という魔の手は、若者達の間にも手を伸ばし、蔓延しています。
小説家になろうユーザーの中には中高生もいると聞きます。
学校の授業でマルチ商法の事を習うと思いますが、あまり勉強に熱心ではない人は、すぐに忘れてしまうかもしれません。
しかし、若いうちから知っておいて欲しい。
マルチ商法がこんなにも胡散臭くて、忌々しくて、恐ろしいものだという事を。
そして、本作を読んで危機感を持ってくれるだけでも、意味があるものになると思います。
──人間やめますか?
──マルチ商法やめますか?
まず、マルチ商法とは……
『ねずみ講』とあわせて学校の授業で習った人も多いと思いますが、マルチ商法というのは、連鎖販売取引の事です。
平たく言えば、人から人に商品を紹介、販売してゆくものです。
イメージしてみましょう。
例えば、AAAという会社があって、健康食品を作っているとします。
その健康食品(商品)を会員のAさんが、友達のBさん紹介する。
その際、Aさんは言葉巧みにBさんに商品の説明をします。
「この健康食品はこんなに凄いんだよ!」
「芸能人の○○も食べてるって!」
「長年アトピーに苦しんできた子供が、この商品を食べたら治ったんだって!」
さらに、こんな“おいしい話”を持ちかけます。
「Bも会員になって商品を売れば、凄く儲かるんだよ!」
「Bが勧誘活動をして会員を増やしていけば、その勧誘した会員達が商品を売った分の○%が、Bの利益になるんだよ!」
「誰でも楽して稼げるし、普通に働く事が馬鹿らしく思えてくるよ!」
商品を売れば売るほど儲かる。
会員を増やせば増やすほど利益になる。
その言葉に夢ふくらませるBさん。
しかし、そんな“おいしい話”がそうそうある訳がないのです。
例えばBさんが、Aさんの勧誘に乗って会員になったとしましょう。
Bさんは「よしっ! たくさん儲けてやるぞ!」と意気込み、大量に商品を仕入れました。
しかし、仕入れた商品が思うように売れなくて在庫を抱えてしまったり、損をしてしまうのです。
さらに会員になる際、入会金を取る場合があったり、商品を一式買い揃えなければならなかったりする等、中を覗いてみれば、非常に悪徳なものが多いのです。
結局儲かったのは、Bさんを勧誘して商品を買わせ、会員を増やしたAさんのほうで、勧誘されたBさんのほうは騙されたような形になってしまいます。
Bさんは少しでも損失を埋めようと、騙す相手を見つけるために奔走します。
BさんがCさんを騙し……
今度はCさんがDさんを騙し……
DさんはEさんを騙し……
と、騙し合いが増殖し、続いてゆくのです。
結局、会員を増やしたAさんが一番儲かる計算になります。
しかし、Aさんも他の誰かに騙されていたので、今までの損失を埋めるだけで、純粋な利益は1円にもなりませんでした。
儲けになるのは、元締めや、最初に会員になった人など、極少数の人達だけです。
マルチ商法というものは、こういった例が多いのです。
ちなみに、マルチ商法自体は一概に犯罪にはあたりませんが、極めて悪徳です。
(中には犯罪にあたるものもあります)
勧誘の際、悪印象を与えないために『マルチ商法』とは言わず『ネットワーク・ビジネス』と言い換える人もいますが……
「儲かるよ」
と言われようが
「楽して稼げるよ」
と言われようが、決して悪魔のささやきに耳を傾けてはなりません。
それでは、私の身の回りで起きた出来事をふまえて、マルチ商法の恐ろしさを綴ってゆきましょう……。
なお、仮名や伏字を使ってはいますが、これは全てノンフィクション(実話)です。