【同期生】
「貴様とアカデミーで競い合ったこの僕を忘れたというのか!?」
「えーと。……ああ、アカデミーで飛び級の僕に一度も勝てなかった万年二位のクリストファーくんだっけ?」
「クリスロッド・クラウだ! 覚えてるじゃないか!」
「ああ、そうそう、クリスロンドくん」
「貴様、わざとだな!」
「んで、なんだよクリスウッドくん」
今にも頭頂から湯気が吹き出しそうなクリスくん。昔もよくこうして絡まれては、揶揄って遊んでたっけ。
「この、名誉をかけて決闘だ!」
「落ち着けクリス。全く、お前も見てないで止めないかアディル」
そう言ってクリスの首根っこを掴んだのは、背中に大きな剣を背負ったがっしりとした体格のおじさんだ。
「ガキ同士の喧嘩に首突っ込んでもしょうがないっすよ、オーレンさん」
オーレン・ブラッドルフ。ゲーティアとして現在は中央区担当のベテランである。彼が一緒にいるということは、今はクリスくんが彼のバディなのだろう。
僕とアディルもそうだが、大抵は新人とベテランとが組まされるものなのだ。
オーレンさんは短く刈りそろえたブラウンの髪をガシガシと掻きながら、
「相変わらずだなぁ、お前も。……いや、済まなかったねイオくん。こいつが絡んじゃって」
「いえいえ、オーレンさんが悪いわけではありませんし。お気になさらず」
「そうかい。君らが中央にきてるってことは、咒力の補充か何かかね」
「ですです。今はアディルの補充待ちでして。オーレンさんたちは警邏の前に食事ですか?」
警邏の仕事は、朝、昼、晩と三交代制になっている。今二人で昼食を摂るということは、食事のあと仕事に向かうのだろう。
「ああ。昼番の前に、腹に何かいれておかないとな」
オーレンさんがにかっと笑ったところで、「お待たせしましたー」っとウェイトレスさんが両手にトレーを持って現れる。
片方にはコーヒーとカフェオレが。もう片方には、僕のパニーニとサラダ、そしてどろっとしたマグマのような赤いソースがかけられたホットドッグのような何かが。
テーブルの上に置かれると、なにやら危険な香り(刺激臭的な意味で)がした。
それを見て、クリスくんは眉根を寄せて口元を手で覆い隠す。
「本当に、相変わらずだな。えーっと、俺たちのももう運ばれてくるだろうから……」
オーレンさんはそう言うと、クリスを連れて自分たちの席へと戻った。