【ランチ・タイム】
工房を出て右手にしばらく進んだ先の四つ角に、ヒュッテという名の喫茶店はあった。
バイクは工房に置いてあるので、当然その間は徒歩である。
「行くぞ」
「ほーい」
喫茶店の中はわりと広く、案内に促されるまま窓際の席へとつく。
テーブルに置かれたメニューをみると、分厚いハムとチーズのパニーニの写真が一際目を引いた。どうやらこの店で一番人気の商品らしい。
──よし、これにしよう。
まずはその店のオススメから。
こうした初めてくる店で、僕が料理を選ぶ基準は至極単純だった。
「決めた? 注文していい?」
「ちょっと待て、早いぞお前。むっ、……よし、いいぞ」
アディルの許可を得て、僕はウェイトレスさんを呼ぶ。
二人分の水をトレーにのせ、パタパタと駆けつけてくれるポニーテールのお姉さん。
彼女は水をテーブルに置くと、伝票片手にペンをとり、僕らの注文を待つ姿勢をとった。
「えーっとね、僕はこの一番人気のやつ、サラダセットで。あとカフェオレ。アディルは?」
「俺はこのチリドックのデスソース三倍がけを二つ。あとコーヒーをホットで」
「はい、えーと、砂糖とミルクはいかがなさいますか?」
「なしで」
「かしこまりましたー」
ウェイトレスさんはそういって注文を復唱すると、厨房の方へと消えて行く。
「相変わらず辛党なんだね。味覚壊れてんじゃないの?」
「うるせー、黙ってろドチビ」
「……ち、チビじゃねーし! アディルやレティ姉さんがデカイだけだし。身長一六一あっしー!」
「嘘こけ。お前一五八だったろ」
「何で知ってん……いやいやいや、伸びてるから! 成長期舐めんなよ!」
お姉さんの運んできた水を氷ごと口に入れる。ガリガリ氷を噛み砕きながら、僕は頬杖をついて窓の外へと目をやった。
「五月蝿いのがいると思ったら、お前かチビガキ」
「あん?」
背後からの声に、目を三角にして振り返ると、そこにいたのは──
「……………………誰?」
「なっ!?」
サラサラの青い髪に三白眼の男が、白い顔を一瞬で朱に染め、口をパクパクとさせている。
ふむ、鯉が餌を待つのに似ているな。
黒い制服と佩剣からして、僕らと同じゲーティアの所属だということはわかった。