【付咒師】
咒力と呼ばれるエネルギーがある。詳しいことは未だ解明されていないが、死んだ人間の魂だとか、呪いだとか、残留思念の塊だとか言われている。
要するに、『滅びた世界の人間だったものたちの残滓』だ。
自らの身体を媒介に、それを指先で紋様に変換し対象に描くのが付咒師と呼ばれる者たちである。
呪いを自らの身に宿して術を成す。滅ぶ前の世界では、巫術師や呪術師と呼ばれていたらしい。
刻剣はその力の際たるもので、特殊な製法で造られた剣に幾重にも咒力を宿すことで、最強の対御使い専用武器としてうまれたのだった。
ちなみに、剣へと付咒する際に悲鳴のような甲高い音が漏れ出ることから、彼らは調律師と呼ばれたりもする。
「よし、と。フラウロスの方はこれでいいだろう。『純粋咒力型』の刻剣は、咒力を通しやすいからスムーズにすむ」
短剣を僕に放って寄越すと、次にアディルの刻剣──遠い昔、東にあった弧状列島にてうまれた刀という形の剣らしい──セーレの鞘を抜く。
「なるほど。大分消えてるね。これはちょいと時間がかかるな」
「どれくらいかかる?」
「一時間……二時間はかからないと思うがね」
「わかった。なら、一時間半後にまたくる。予定通り飯でも食ってくるさ」
「それなら、四つ角の『ヒュッテ』ってカフェに行ってこないか? 帰りに私用のサンドウィッチとコーヒーを買ってきてくれるとありがたい。もちろん弟の奢りでな」
「……別にいいが、中の具材はどうする? 適当でいいのか?」
「それなら大丈夫。お前たちがくる少し前に注文しておいたから。私の名前を出せばいい」
しれっと答えるレティに、アディルが半眼で、
「最初から奢らせる気だったな? ……まあいいさ。それじゃあ、宜しく頼むぞ」
「任せておけ」
黒革のソファから立ち上がるアディル。そのまま部屋の外へと向かう彼の後を追いかけて僕も立ち上がると、ふいにレティが呼び止めた。
「あー、愛想のないやつだが、弟を宜しく頼むよ」
照れたようにそういったレティに、僕は親指を立てる。
「任せてといて」
「ああ、ちなみにフラウロスの礼は、同じ店のシフォンケーキでいいからね」
「…………」
僕は黙って立てた親指を下へと向けた。