【アルマデル】
バベル中央区。ここにはレメゲトンの本部が置かれ、あらゆる機関の中枢となっている。昔の言葉で言えば、首都といったところだろうか。
とはいえ、街の造り自体は他の区とたいした違いはなく。
違うところといえば、中央に聳え立つひたすら高い塔くらいなものだろう。
バベルタワー。レメゲトンの本部でもあるこの塔の頂点に、僕らゲーティアを含めた組織の長であるスレイマン総統閣下がいるのである。
そして、僕らの向かう工房は、この塔の中に──なかった。
本部直轄といえど、刻剣の開発には危険がつきもので、そんな危険な施設を他の主要機関が置かれる塔本部に置くわけにはいかなかったのだ。
塔から離れたコンクリートの巨大な施設。飾り気のない、無骨なその施設こそが、刻剣開発局──アルマデルなのである。
「たーのもー」
施設内部に入ると、まるで無人施設であるかのように人がいない。一応、要所に警備の人間は見えるけれども。
「えーっと、これ勝手に入ってちゃっていいんかね?」
「──おう、きたな」
そういって奥から歩いてきたのは、白衣を纏った赤い髪の女性だった。
アディルがくる前に連絡を入れておいたらしい。
目の前に立つと、女性にしては背が高く、僕はちょっとだけ(本当にちょっとだけ)見上げることになる。
「よう、金髪サルに陰険メガネ。久しぶりだな」
会って早々アディルに勝るとも劣らないこの毒舌ぶりよ。
この人が、刻剣開発局に所属する付咒師のひとり、主任付咒師のレティシャ・イースフールズである。
名前でわかるように、アディルの血を分けたお姉さんだったりする。
顔といい毒舌といい、双子かといいたくなるほど良く似ている姉弟だ。
ちなみに、前に年齢を聞いたらボコられたことがある。
「今日はえらく人がいないっすね」
「ああ、元々人がいない上、ちょうど昼飯時だからな。お前らはもう飯は食ったのか?」
「いや、俺たちもこれからだ。刻剣を預けてから、食う予定だった」
アディルが腰に下げた刻剣を叩く。
「そうかい。取り敢えず奥に行こうか。お茶の一杯くらい飲んでいってもいいだろう」