【旅は道連れ】
「さーてと、どこでご飯にしようかな」
「やっぱり早めに抜け出しやがったな、このペテン師」
「げっ、アディルパイセン……」
イースト支部から出ると、サイドカー付きオートバイに跨るアディルの姿を見つける。いや、逆か。見つけられた。
「なんのことでせうか? オリエンス管理官が体調を崩されて早めに終わっただけですよ?」
「んじゃ、今から確認してこようか?」
「やめて!」
思わず叫んでしまう僕。そんなことをしたら、さらに一時間講習を受けるだけに留まらず、謀ったとして追加で罰則を受けることになっちゃうじゃん。
なんて恐ろしいことを考えるんだ。この干支が一回り上のパイセンは。
「まあいいや、乗れ。中央区まで行くぞ」
「ええー、休みまでパイセンと一緒になんて……」
「確認しに行くぞ?」
「ハイ、乗せて頂きます」
僕は素早くサイドカーに足をかける。
僕が乗り込むのを確認すると、アディルは咥えていたタバコを懐中時計のような携帯灰皿で消し、バイクを走らせたのだった。
「──んで、なんで中央区?」
途中トイレによったコンビニで、アディルから渡された缶コーヒーを飲みながらそう訊いてみた。
この人工島バベルは東西南北と中央の五つの区で分かれている。ゲーティアに所属する人間は、それぞれの地区へと赴任すると、二人一組の三交代制で仕事を行うのだ。ひとつの区には八人が配属され、休みは持ち回りとなっている。
休みといえども何かあったときのために待機というのが暗黙のルールと化しているため、滅多に他の区へ行くことはないのだ。
他の区へ行くということは、それなりに理由があるということだろう。
「だいぶ咒紋が消えてきたからな。補充しに一度工房へ行かねーとってな。お前の方はどうなんだ?」
「うーん、僕の方はもうしばらく保つと思うけど」
「『純粋咒力型』は咒力の変換効率がいいからな。あとお前はサボりすぎだ。まあでも、バラバラに行くよりは二人まとめて行った方がいいだろ」
「確かに、それもそうだね」
刻剣に刻まれた紋様のことを、咒紋と呼ぶ。咒紋とは、咒力と呼ばれるエネルギーを紋様にしたもので、これがあるおかげで僕らは『御使い』と戦うことができるのだ。
具体的には咒力による身体能力と剣自体の強化、そして刻剣固有の咒力を使った特殊能力である。
咒紋は咒力を使うことで消費され、ときおり補充してやらなくてはならない。
これがなくなった刻剣はただの鋼の塊に成り下がってしまい、咒力以外では傷ひとつつけることのできない『御使い』を前にしては、ただただ死を待つばかりとなってしまう。
一家に一台充電器(充咒力器か?)でもあればいいんだろうけど、そんな便利なものはなく。中央区のレメゲトン本部直轄である、刻剣開発局──通称工房まで行かないといけないというわけだ。
「工房かぁ。あの近くって、何か美味しいご飯屋さんってあったっけ?」
そんなことを独りごちると、再びサイドカーが発進した。