【簡単なお仕事です】
それは、御伽噺で語られる半人半馬のような姿をした異様な何かだった。
両の腕は大剣のように鋭く尖っており、真っ赤な継ぎ目のない中世の鎧のような外見をしている。
神が人類を滅ぼすべく送り込んだ四種の『御使い』のうちの一種であり、その姿形からそれはレッドライダーと呼ばれていた。
「アディル!」
レッドライダーは振り上げたその腕を、眼下のアディルへと叩きつける。
ぐしゃり──と潰れる音を聞いたような気がした。
「くっ──、アディルパイセン、惜しい人を……」
「勝手に殺してんじゃねぇよマヌケ」
見れば僕のとなりで平然とタバコを咥えるアディルの姿が。
その手には、いつ抜いたのか反りのついた片刃の剣が握られている。
剣には文字のような紋様が刻まれており、それが僅かに消えるのが見てとれた。
「あっ、無事だったんですね……」
「なんで見るからにガッカリしてるんだこのクズ」
レッドライダーが振り下ろした腕を上げると、そこには当然アディルの姿はない。
「赤一体か。イオ、見回りサボったんだ。あいつの相手はお前がしろ」
なんかここにきてようやく名前を呼ばれたような。
「ハイハイ、了解です。それが僕たちのお仕事ですしね」
腰に下げた短剣を抜く。
短剣にはアディルの剣と同じように、黒い文字のような紋様が刻まれており、禍々しい気配を発していた。
刻剣。刻紋剣とも呼ばれるこれこそが、対御使い用の武器であり、僕ら対御使い戦闘員、警邏隊ゲーティアに所属するものの証でもあった。
「それじゃあ行こうか、フラウロス」
刻剣の名前を呼ぶ。
それに呼応するように、短剣の剣身が青白い炎を纏った。
炎といっても本物の火炎ではなく、咒力と呼ばれるものが可視化した姿だ。
『鬼火』とも『愚者の火』とも呼ばれる現象である。
僕は口元に笑みを浮かべると、フラウロスを構えレッドライダーに向かって猛然とダッシュした。
「──ああ、警邏サボった罰として、お前明日の休みは座学講習な」
「ええっ!?」
思わず転けそうになった僕に、アディルは先ほどのお返しとばかりににやりと底意地の悪い笑みを浮かべるのだった。