2話『カレー味のウ○コとウ○コ味のカレー』
俺は今、カレー味のウ○コと戦っている。
制限時間内に完食できるかどうかという類の話ではなく、言葉の通り肉弾戦の最中だ。
このセカイにやって来て最初の選択をしてから数時間。空腹の俺は、まず食料を求めて広大な大地をさ迷いつづけた。ひたすら歩いて歩きまくった。すると目の前に天秤が現れた。
左右の皿には、茶色の液体が入っていて、それぞれにカレー味のウ○コとウ○コ味のカレーと記されている。ライスがないのは残念だが、空腹時に、なんともタイミングのいい二択だった。
それに簡単だ。カレー味のウ○コは、どんなに美味でもウ○コに違いない。おまけにどこの誰のウ○コかもわからない。一方、ウ○○味のカレーは、味は○ン○でもカレーだ。食料だ。
俺は迷うことなく○○コ味のカレーを食べる決断をした。
するとカレー味のウン○が人型になって襲いかかって来たのだ。
そして今に至る。
カレー味とはいえ○ンコである以上、直接触れずに倒したいところだ。というわけで武器は運良く地面に落ちていた長い枝。しかしもう何回も叩いているのだが、物理攻撃がまったく通用しない。序盤で戦う敵にしては強すぎやしないだろうか?
「ちっ、臭いは完全にウ○コなんだよな」
攻撃するたびに飛び散る汁を交わしていると、ヒットアンドアウェイがうまくなっていった。これがロープレなどでいうスキルを習得するということなのだろうか。
呼吸を整える。
「くせぇ……」
荒野を照らす光は強さを増していく。相手の身体をすり抜けるだけだった枝に少しずつ手応えを感じ始めた。熱で水分が飛び徐々に固体化していっているのだろう。
「ああ、なるほど、とにかく時間経過を待つパターンか」
そうとわかれば奴が堅くなるのを待つのみだ。
ウ○コの動きが鈍くなりひび割れがちらほらと見えてきたところで、もうラッシュをかける。もう汁が飛んでくる心配もない。何も気にせずボッコボコにした。そして砕け散ったそいつを土に埋めた。
カ○ー味のウンコを倒した。
「いい肥料になれよ」
悪臭が去り、たっぷりと美味しい空気を吸う。脳に酸素が送られ気持ちが良い。そこで、ふと自分の放った言葉に引っかかる。
――待てよ。肥料か!
もしかしたら間違った選択をしてしまったかもしれない。ウ○コであれば後々この大地で野菜を育てる展開になった際に貴重な栄養源となったかもしれない。ただただ空腹を満たすことだけを考え即決してしまったことを後悔した。だが、そもそも植物が今後、選択肢に現れるかなんてわからない。
「ライブラー、ちょっと聞きたいんだけどぉー」
「なんだい? 見事な闘いっぷりだったじゃないか」
神の声にはまるで緊張感がない。ウ○コと戦闘する方の身にもなっていただきたいものだが、まぁいい。オレは空に向かって問いかける。
「このセカイには崩壊前に野菜などの植物はあったのか?」
「うーん、植物自体はあったけど、細かい種類までは把握してないな。前任の神の時代のことは僕にも詳しくはわからない。僕が知っているのは、ほんの少しの歴史と、滅んだ理由くらいなもんさ」
今まで想像していた神様という存在のイメージが崩れていく。
「なんだよ。神様ってのは引退するものなのかい?」
「君のいたセカイでは一人の神が永遠に働くのかい? 僕の知る範囲では神にも寿命があって活動限界がある。長くてもせいぜい百万年ってとこかな。だから引退もする。僕も百万年ってとこ。ああ、でも今は君に神の任を半分与えているから、活動限界時間も半分なのかも。神の寿命は任に対して与えられるから」
「じゃあ、オレには寿命が五十万年与えられたってこと?」
「いや、それによって君に新たな寿命が与えられることはない。関わってくるのは神である僕の寿命だけだ。でも命に関する選択があれば長寿を得られるかもしれないね。過去、この世界に存在していたモノは復活する可能性があるんだからさ」
少しライブラの言葉の意味を考えた。
「前任の神の命かい?」
「想像に過ぎないけどね。そんなことより、ここに植物があったかどうかについてだけど、確かに僕は事実は知らない。でも、一つヒントをあげるとすれば、今、君が手にしている、それだよ――」
ハッとした。そういえば、なぜ枝が落ちていたのか。
「これは過去の名残? だとすると、この地には木が生えていたことになる。この付近を探索すれば植物に関する選択が現れるかもしれないってことか?」
「ははは、この世界の造り方がわかってきたんじゃないか?」
「かもしれないな。やはり我慢してウ○コを食べる選択をすべきだったか」
とはいえ、どれだけ悔やんだところで未来はまったく予測できない。それにウ○コは食べられるかもわからない。まずは確実に食べられる食料を確保することが先決だ。
「そう。選択するときは、先を読むんだ。賭け事だって、ただ運に任せるのと知恵を絞るのとでは結果に大きな違いが出る。もちろん失敗し後悔することもあるけどね」
「これからは気をつけないとな。って、よく偉そうにいえたな」
咳払いが聞こえる。
「ほら、早くしないと冷めちゃうぞ」
「おっと、そうだった」
具も米もないカレーが皿の上で輝いている。この一杯がこのセカイのはじまりだ。スプーンもないので手ですくって口に運んだ。
とても懐かしく感じる。この味だけは忘れない。
ウ○コ味のカレーは、前の世界で母さんが作ってくれたカレーの味そのものだった。
俺は新しいセカイのはじまりの場所で、母さんが料理下手だったことを知った。
いや、あるいは俺の舌がイカれているか、実はウ○コがうまいかだろう。
(新世界創設開始から7時間半。世界にウ○コ味のカレー誕生)