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夢見の良い枕  作者: 劇鼠らてこ
後章
57/59

55話 『濤幕』

かなーり短いです


「ユリア……」


 ペイティの聴覚は正確にその場所を突き止めていた。

 フランツの庭園からさらに奥へ行った場所……このアイガム王国学園の学園長室。

 本来この学園のトップが座るべき場所に、そいつはいた。


「……」


「……揃いも揃って……ゾロゾロと……!」


 佇み、無言のままこちらを見据える侍女――ユリアと。

 染めたようなピンク髪を揺らしながら、親の仇と塵芥の虫けらを同時に見ているかのような表情の女。


「……ジェシカ・ライカップ」


「あら、フランツ様。 ご機嫌麗しゅう。 所で、横にいる女に何かされたりしませんでしたか? その女、凶暴で凶悪で……フランツ様に不快な思いしかさせないと思うのですが」


 取り繕う気が無いのか、その歪んだ顔のままにフランツに話しかけるジェシカ。

 既にそんな戯言を信じる人間は、この場には――。


「……てめぇ(・・・)


 1人を除いて、


「フランツから離れろ……そいつは、ジェシカの好きな奴なんだよ……!」


 いない。


「ゆ、ユリア?」

「気安く呼ぶんじゃねえ! お前が今までジェシカにしてきたこと、誰が許してもアタシは許さねえからな!」


 本気の怒気を……否、殺気がエリザに向けられる。

 あまりの剣幕で怒り狂う親友に、エリザはたじろいだ。


「……ユリア。 いくら君でも、エリザに殺意を向けるのは――許さない」

「ミカルス……! なんでソイツを庇う? 妹のジェシカより、エリザの方が大事って事か? お前までエリザにほだされたか!」

「……なるほど、なるほど」


 そのちんぷんかんぷんな物言いに、発言したサマエラを含めて全員が気付いた。

 恐らく現在のユリアにとって、公爵令嬢で親友で自身の主である存在がジェシカ・ライカップになっている、ということだろう。


「残念だけど、僕の妹はエリザだけだ。 天と地がひっくり返ろうとも、そこにいる小汚い売女じゃあない」

「ミカルス、言葉汚すぎない? でもまぁ、気持ちはわかるけどねぇ……。 私の幼馴染の娘はアナタみたいな醜さは持ち合わせていなかったもの」

「揃いも揃って騙されやがって……!」


 ユリアが硬く拳を握りしめる。

 その拳は、血が滲んでいた。


「ジェシカ、下がってろ! こいつら、全員纏めてアタシが目ぇ覚まさせてやる!!」

「ええ、お願いするわ。 私は元凶……エリザを叩くから」


 そう言ってエリザ達に歩み寄ろうとするジェシカだった。

 が。


「ぐぇっ!?」

「下がってろって言ったろ! お前が手を出すまでもねぇ、ここはアタシ一人で片付ける!」

「あは~、侍女長の思考回路をよく理解していないからそうなるんですよね~」


 ユリアに首根を掴まれて放り投げられたジェシカ。 放り投げられたと言っても乱暴にではないが、その仕草は”誰かが拾ってくれる”という確信あってのもの。

 その拾ってくれる人間は、全員エリザのそばにいるのだが。


「あだっ……な、何をするのよ!!」

「わかってくれ、ジェシカ。 流石にアタシでもあの全員をお前を守りながら相手にする、ってのはキツイ。 エリザ・ローレイエルは変な魔法も使うんだろ? 1人で行くのは危険だ!」

「……熱血、めんどくさいわね……」


 その言葉が聞こえていたのか聞こえていないのか。

 ただ、エリザ達に向かって凄まじい速度で踏込を行ってきた彼女の瞳には、一筋の涙が浮かんでいた。










「なぁ、夢見枕って……『最初に魂の欠片を吹き込んだ持ち主がそこの空間の主となり、次に使用する物の魂を蝕んで虜にする』っていうマジックアイテム……なんだよな?」

「何よ急に。 そうだけど?」

「……ならジェシカは、どこでコレを手に入れたんだ? 最初の持ち主にならなきゃ、ジェシカが虜にされていそうなもんだが……」

「そりゃラン婆から直接……って、ことになるけど……男爵家の1人娘なんかがどうしてラン婆と接触できたのかしらね。 というか、万一遭遇できたとしてラン婆が夢見枕を売るとも思えないけど……」


 疑問だったんだ。

 夢見枕(オレ)に関して言うのなら、この規格外チート魔女……ロザリアの存在があるからこそエリザ嬢の手元に渡ったのはわかるが、ジェシカ・ライカップのソレは何処で手に入れたのだろう。


「疑問と言えば、あんたも大概だけどねぇ。 結局アンタってなんでここにいるワケ?」

「俺が知るかよ……俺が一番知りたいわ」


 過ぎた事にしていたけれど、まぁそれが最も知りたい疑問でもある。

 なんでオレ、ここにいるんだろう。


 何か意味があって呼び寄せられたのか、偶然死んだ魂が枕に宿っただけか。


 明かされる日が来るのだろうか。


「ラン婆に聞けばいいんじゃない? なんだかんだ言って天才だし」

「えー……それはつまりランキュニアーの婆さんが俺を使うって事だよな」

「……嫌そうな顔ね。 顔わからないけど。 前も言ったけど、ラン婆は周りにばれないように年取った風を装っているだけで、あのローブを取ればすっごい美人になるのよ? パツキンチャンネーよ?」

「古」


 蹴り飛ばされた。

 どうあっても干渉できない以上、現実世界がどれだけ緊迫していても――俺達にできる事は、考える事だけである。


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