53話 『黄昏の王子様と虚勢の魔術師』
お伽噺です
『いや、本当に……情けない所を見せてしまった。 特にエリィ、君には辛い思いをさせてしまったかもしれない……本当にすまない』
『い、いえ……それだけお兄様の心の中で、サマエラさんの占める割合が大きかった、といだけの事ですし……むしろ、お兄様はそろそろ妹離れをするべきだと思っていましたし……』
『いや、それはし無いよ』
『えぇ……』
外の世界で目覚めたミカルスがエリザ嬢に頭を下げると言う珍しい光景を見つつ、少し身体を温めてエリザ嬢に先行きを促す。
暖かくなった俺に気付いたエリザ嬢。 ちなみに目覚めた直後くらいにはミカルスとサマエラの腕から俺を取り戻していた。
『そ、そうですの! ユリアやディニテ様達を探しませんと!』
『……それなら、サマエラに聴けばいいんじゃないかな。 サマエラ、僕らと闘っていた君なら団長達の行方を知っているだろう?』
『え……闘っていた?』
ミカルスに隠す気は一切ないらしい。
サマエラは少しだけ困ったような溜息を吐き、何故かミルト嬢とフレイを見た。
『エルフの血がざわついていたのはそう言う事でしたか……なるほど、文学の才女にしては隙が無さ過ぎると、違和感を覚えていたのです』
『……先程エリザ様と殿下が場を離れた時……翡翠と白色をした大蛇が出てきました。 私はジェシカ・ライカップの捜索の為逃がされたのですが……』
『それは過去に『黄昏の王子様』と呼ばれたトライアンフ・ギルト・ウィザードによって封印された魔王かな?』
『ギルト・ウィザードって……虚勢の魔術師ですの?』
『うん。 学園で習うペテン師のお伽噺……実はこれの主人公が黄昏の王子様本人なんだ。 僕達王族にはそう伝わっているよ』
また新しい名前が出てきた。
こういうのは知ってそうな奴に聴くべきだ。
現実でも似たような話してるし。
「つーわけで、誰。 トライアンフ・ギルト・ウィザードって」
「フランツの言った通り黄昏の王子様の本名よ。 ペテン師ギルト・ウィザード。 黄昏の王子様と同じくお伽噺の一つでね、虚勢だけで栄光を築く、みたいな話よ」
「もちっと詳しく」
「面倒ねぇ……。 ンッン゛! 昔々、あるところに大層見栄っ張りな青年がおりました……」
面倒と言いつつもノリノリで話し始めるロザリア。
こいつなんだかんだいってノリ良いんだよな。
「青年は出来ない事を出来ると言い張る嘘つきで、村のみんなからは相手にされていませんでした」
「青年は常々言っていました「俺は王子様にだってなれる。 俺は魔王だって倒せるんだ!」と」
「村人のほとんどは青年を相手にしませんでしたが、ただ一人……青年の幼馴染だけが、純粋に青年の話を聞いてくれたのです。 青年の幼馴染は青年の見栄をすごい、かっこいいと褒めたたえ、家族や村人に諭されてもやめませんでした」
「そんなある日、青年は決意します。 本当に魔王を倒し、王子になってやると」
「それは、幼馴染までもが嘘つきだと言われたことが切っ掛けでした」
昔語りみたいな口調だが、やけにリアリティがあるというか……見てきたように喋るな。
「青年は心配する幼馴染に、いつも通りの見栄を張ります。 「大丈夫だ! 俺は剣も強ければ弓も上手い! それに、隠していたがエルフの魔法も使えるんだぞ!」と」
「それを聞いた幼馴染は安心し、沢山の食糧とお守りを持たせてから青年を送り出しました」
「村を出た青年はまず、行き倒れていた騎士に出会います」
どうしてこういう物語では騎士が行き倒れるのだろうか。
食料多目にもっとけよ。
「その騎士に食料を分け与えた青年は、騎士にこう言います。 「俺は世界一の剣豪とも肩を並べられるほど強い。 お前、俺の元で修業しないか? そうすればちょっと食わないくらいで動けなくなったりしなくなるぞ!」と」
「騎士を仲間にした青年は――」
「ちょ、待て! それ信じたのか!? 騎士ちょろすぎだろ!」
思わず突っ込みをいれてしまった。
なんじゃそりゃ。
「お伽噺だって言ってるでしょ。 桃太郎みたいなもんよ」
……納得してしまったぞ。
「続けるわ。 騎士を仲間にした青年は、次に森で食人植物に食べられかけていた弓使いに出会います」
「食人植物を騎士が斬り伏せ、青年は弓使いに食べ物を与えながらこう言います。 「俺は世界一の弓の名手と同じくらい弓が上手い。 お前、俺の元で修業しないか? そうすればあんな植物一矢で仕留める事が出来るぞ!」と」
「弓使いを仲間にした青年は、次に街へ向かいます」
大体パターンが読めてきた。
ギルト・ウィザード……金メッキの魔術師ね。
「街では1人の若商人が呻いていました。 もうすぐ魔物がこの街に押し寄せてくるのに、どうして誰も信じてくれないんだ、と。 青年は若商人になんらかのシンパシーを感じたのか、こう言います。 「俺は信じてやる! だから、俺達に武器をくれ。 そうすれば魔物の千や二千、簡単に蹴散らしてやるぞ!」と」
「若商人の信頼を得た青年は、その街最高の鍛冶師によって創られた武器と防具を騎士と弓使いへ配り、「俺はそんなものなくても強い。 だが、そうだな。 お前達、どれほど強くなったのか俺に見せて見ろ! 何、無理だったら全部俺が片付けてやるよ!」と言ったのです」
「世界一の剣豪に、最高の武具。 世界一の弓の名手に、最高の弓。 負けるはずも無く、魔物の群れをしのぐことに成功しました」
「え、騎士と弓使いマジでそんな成長したのか?」
「元々世界一の剣豪と世界一の弓の名手だったのよ。 どっちも自分がミスして窮地に陥っていた事と、性格が謙虚だった、ってだけでね」
なんつー豪運だよギルト・ウィザードって……。
「この事に感激した若商人は青年と専属契約を結びます。 「僕はアンチュイ・シオン。 僕の直感は囁いています……あなたはいずれ世界に名を轟かせ、魔王すらも討ち得る人物となるでしょう!」と言われた青年は有頂天になり、更に見栄を張って行きます」
アンチュイ・シオンって……セシリア母ちゃんのご先祖様か。
なるほど、確かに直感だけで根拠が無い。 魔物の群れ云々も、来るってわかっただけで証拠が無いから信用されなかった、って事か……。
「青年は行く先々で見栄を張り、仲間や協力者を増やし」
「ついには、アドラシコーズ霊峰に住まう魔王の元まで辿り着いたのです」
あ、面倒になって端折ったみたいな顔してる。
っていうかアドラシコーズ霊峰ってランキュニアーの婆さんが住んでるとこだよな……エリザ嬢が寝るとログハウスになる場所。
「仲間達……世界一の剣豪、世界一の弓の名手、最強最高の美少女魔法使い、暑苦しい拳闘士……それらが束になっても、魔王に傷をつける事は出来ませんでした」
「待て、最強最高の美少女魔法使いって」
「勿論私」
だからリアリティがあったのか……っていうか、コイツさっき話を端折ったのは自分の経験を話したくないからだな……。
「死屍累々……既にその場に立っているのは青年だけ。 悠然と青年を見下ろす魔王。 見栄だけで生きてきた青年にはどうすることもできません」
「しかし、青年はどこまでも見栄っ張りでした。 「魔王! お前など、一撃で十分だ! ……だが、俺は優しいからな、お前にもチャンスをくれてやる! 両者同時に攻撃を放つんだ……俺の攻撃に打ち勝つ事ができるか?」と」
「他の奴らがどうかは知りませんが、少なくとも最強最高の美少女魔法使いは青年が大の見栄っ張りだと気付いていました」
「だから、最悪を……それなりに楽しかったこの旅はここで終わりかと、青年が死んでしまうのだと想像していたのです」
それなりに楽しかった。
そういうロザリアの瞳は、いつものこいつらしくない……本当に楽しそうな輝きがあった。
「魔王はその案に乗り、青年との一騎打ちが始まりました。 しかし、青年は剣も弓も魔法も拳も使えません」
「奇しくも、魔王も青年も体当たりを選択し――そして」
「魔王の巨体が青年に触れた瞬間。 魔王は青年がつけていたペンダントに吸い込まれる様にして、消えてしまいました」
「そのペンダントは、青年の幼馴染が渡してくれたお守りだったのです」
……いやいや。
「まぁ、ペンダントに吸い込まれる下りはあの時意識があった私とギルトしか知らないけどね。 他の仲間達は青年を讃え、ボロボロになりながらも王都へ帰還します。 そして青年と魔法使いはペンダントを王都の地下に封印しました。 その後、青年は冒険の話を聞かれる度に、自身がどれだけすごいのか。 どれほど優れているのかを誇張して話し、いつしか黄昏の王子様と呼ばれるまでに至っていました、と」
「仲間達からは勝利の・ギルト・ウィザードって呼ばれてたわ」
「そして、青年は村へ帰ります」
「手のひらを返したように青年を大歓迎する村人たちには目もくれず、青年が直行したのは勿論幼馴染の所でした」
「青年は幼馴染の前で膝を突き、こう言います。 「ランキュニアー。 俺は君が好きだ。 俺の話を信じてくれた君がいたからこそ、俺は王子様になれたんだ。 君が何者なのかは聞かない。 君の容姿が何故変わらないのかも聞かない。 けれど、俺は君と言う存在が好きなんだ。 結婚してほしい」と」
「それは、見栄を張り続けた青年の、嘘偽り無い本心でした」
「こうして2人は結ばれ、幸せになりましたとさ。 めでたしめでたし」
「ちなみにギルトのプロポーズはお伽噺には乗ってないわ。 あの場で話を聞いていた私達だけが知ってることだし」
まさかの名前が出てきた。
そういう繋がりが……って。
「ランキュニアーの婆さん既婚者だったのか……」
「あの皺くちゃな顔だってマジックアイテムの幻影だしね。 本来はめちゃくちゃ綺麗よ、ラン婆は。 一生老いる事の無いハイエルフ、って奴」
「ちなみにギルトはイケメンなのか?」
「もち」
ケッ。
「お守りはラン婆のマジックアイテムだったってワケよ。 アンチュイ・シオンが直感だけで生きてきたのなら、ギルト・ウィザードは豪運だけで生きてきた奴ね。 ま、それ以外にもなんかカリスマはあったけど」
「持ってる奴はやっぱ持ってんだな……」
と、現実でも似たような話が終わったようだ。
『それで……その魔王が、サマエラさん……ですの?』
『はい。 初めまして、エリザ・ローレイエル様。 私はサマエラ=サターナー。 過去、魔王と呼ばれ……現在は小娘に使役される使い魔の一匹です』
『サマエラさん。 宰相との関係は?』
『私の手先、です。 フランツ殿下』
「そうじゃん、サマエラってジェシカ・ライカップの使い魔になってるんじゃ……」
「馬鹿ねぇ。 ジェシカ・ライカップ如きにサターナーが使役できるなら、アイツは魔王なんて呼ばれてないし私でも勝ててたわよ」
『そうか……敵対の意思は?』
『ふふ……ありませんよ。 なるほど、なるほど……今代の王族も良き瞳をしていますね』
『……癪だけど、今のフランツ……殿下なら、エリザを渡せる……ううん』
『別にお兄様の許可はいらないですの。 それより、ユリアやディニテ様を……』
『あぁ、すみません。 確かに戦ってはいましたが、行方は知らないのです。 小娘が魔法をかけるために連れて行きましたから……』
『小娘といえばそこの侍女。 聴覚に何か引っかからないんですか』
『うっさいですねぇおばさんが……。 心音は聞こえますけど……んん……? 園舎の中……さっきまで殿下の庭園にいたのに、移動してる……?』
『……振っておいてなんですけど引きますね』
『フレイ、現状あなたは役に立てないのだからとやかく言ってはいけません』
『それはミルトお嬢様も同じでは?』
『……ふーんだ』
『にゃ』
『おや、お久しぶりですね。 あなたの使役も解いてあげたいのですが……それをすると、あなたは』
『にゃぁ』
『……そうですね。 今はまだ、ですね』
意味深な会話をする使い魔2人。
解説のロザリアさん。
「今は言えないわ。 可哀想だし」
解説してくれなかった。
『とりあえず移動している場所、とやらに向かおう。 サマエラがいれば団長もユリアも抑え込める』
『あら、ミカルス。 私は手加減は苦手ですよ?』
『……僕とフレイさんがいれば大丈夫だ』
サマエラって戦う時そのまま戦うのだろうか。
それとも大蛇に?
「少なくとも園舎の中では元の姿にならないでしょ。 大きすぎるし」
「だよなぁ」
『ではペイティ、案内お願いしますの!』
『はい、任せてください』




