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夢見の良い枕  作者: 劇鼠らてこ
前章
19/59

19話 『黒縁眼鏡の存在』

 昔の話だ。


 エリザ嬢が、まだクソ王子(フランツ)に恋していた頃の話。 

 そして、俺がエリザ嬢に出会った日の話でもある。


 エリザ嬢と出会う前……正確に言うと、エリザ嬢が(オレ)で眠る前に2人、俺に触れた奴がいた。 1人は言わずもがなユリアだ。 ベッドメイクの時だな。

 そして、もう1人がロザリアという女。 本名を、ロザリア・クロス=クロイツ=クロワ=クローチェ=クロチフィッソというソイツは、エリザ嬢の数少ない友達だったらしい。


 入園祝いにと、エリザ嬢に(オレ)を預け、自らは遠い異郷の地へ行ってしまったのだと。 懐かしむようなトーンで、夢の中のエリザ嬢は語ってくれた。

 一応俺も、顔だけは覚えている。 あと体格も。


 この世界の文化レベルは、時計などがあることからそれなりだとは思うのだが、それにしたってそぐわない(・・・・・)黒縁の眼鏡をかけた、黒髪三つ編みの女だった。


 触れた事はない――そもそも俺自ら触れた物などない――が、見た感じあれは、プラスチック(・・・・・・)だった。 当時は、文化レベルなんて気にする余裕が無かったというべきか、現代の欧州の皇室の枕にでも生まれ変わったんじゃないかと思っていたのか気にしていなかったんだが、今思えば(・・・・)アレは異質だ。


 エリザ嬢の夢に出てくる人間は、基本的にエリザ嬢と家族にユリア、フランツとロザリアだけだった。 最近はミルト嬢やスクアイラも出るけどな。 あとクソビッチも。

 エリザ嬢とミカルス、セシリアは知ってのとおり金髪。 アトゥーは赤褐色でユリアは茶髪。 フランツは赤味のある金髪で、ミルト嬢は銀。 スクアイラの奴はフランツより茶色に近い赤だ。 ジェシカ(クソビッチ)は染めた様なピンクだな。


 他にもユリアの夢、ペイティの夢も見たが、出てくる人々で黒髪なのは2人だけだった。


 1人はロザリア。 烏の濡れ羽色とでもいうべきか、光沢のある黒だったと覚えている。


 そして、もう1人は――。


 



 ぐぇ。




「あぁ……、はぁ……! やっぱり踏み心地最高ですねぇ……」


 油断してた!

 

 水に浸けられていたから考える時間が出来たと思ってたけど、もう脱水の時間か!

 ぐぇ、ちょ、ま、ぐぇぇ!



「ふみ、ふみ……あはぁ……膝がきもちーです……」



 考えが纏まらない! ちょ、もう乾いたから! 今水ッ気飛ばしたから!

 気付けよ!


「んへへへ……今日はー、侍女長からお許しを貰ってお昼寝ですー! いいでしょー?」


 だ、誰に話しかけてんだ? 俺?


「……そっけないですねー。 ま、いいです。 布団とシーツはお願いしますー」


 何と話してんの!? 死角に他の侍女がいるのか!?


「んにゅう……ふわふわ……」




 直接本人に聞けばいいか……。


















「…………あぁ、枕さん、でしたっけ」


 真っ暗な世界。 基本的にエリザがいなければ、あのログハウスは形成されない。

 その暗闇の世界に、これまたいつも通りテーブルとイス、ティーセットが置いてあった。


 意識を浮かび上がらせたペイティは、即座に構え――なにかしらの武術だろうか――を取り、数秒枕を見つめた後にソレを解く。 音を頼りにしているペイティにとって、反響の無い世界とは未知そのものなのだ。 どうしても警戒してしまうらしい。


「よぉ、ペイティ。 今日はユリアの許可が出たんだって?」

「あらー? なんで知ってるんですかー?」


 先程の事を聞こうと焦るあまり、少し失言する枕。 しかし、気を取り直して言い訳を繕う。


現実世界の枕(オレのからだ)に触れてたからな。 さっきお前さんが呟いてたのを聞いたんだよ」

「へぇ……。 そんな機能があるんですねー」


 もっともらしい言い訳。 ペイティは然程興味が無いのか、それで納得した。


「んーと、そうそう。 侍女長が良い夢見て来いって言ってくれてー。

 ……これって枕さんの事なんですかねぇ」

「あー、いんや、朝見た限り俺を覚えている様子は無かった。 だけど(オレ)で寝れば有益な情報が得られるとは踏んでるんだろ。 情報交換と行こうぜ、ペイティ」


 この調子で行けば推理だけで(オレ)の存在に辿り着けるかもしれないと、少し希望が見えてきた枕。 セクハラはできなくなるが。 二律背面の枕。


「情報交換ですかー? んー、でもー、私枕さんに聞きたいこととか無いですけどー?」

「俺があるんだよ」


 さぁ飲め飲め、と紅茶を淹れる枕。 どのようにしてティーポットを持っているのかわからないが、いつもの事である。


「まず1つ。 さっき(オレ)で眠る前、誰に向かって話してたんだ?」

「え、他の侍女ですけどー? 部屋の中にいたじゃないですかー」

「返事無かったじゃないか」

「枕さんに触れてないからじゃないですかー? 私には聞こえてましたよー?」


 言い訳で説明されれば枕は違うと言えない。 小声だったのだろう、ペイティだけにしか拾えないほどに。 流石はユリアの抱える斥候。

 とりあえず納得する枕。


「……そうだ、さっきのこと(・・・・・・)思い出せるか(・・・・・・)?」

「むー、信用ないですねー。 ちゃんときこえてたのにー」


 口ではぶつぶつ言っているが、スクリーンはしっかり反応する。 

 浮かび上がる、ローレイエル家のベランダ。











『副長。 1階部分清掃終了しました』

『副長。 10時丁度、正門前、なお異常なしです』

『副長―、焼き菓子ありますよーぃ』


 ……誰もいないのに声が……。

 みんなお屋敷の中に居ますよー? 清掃してたのはルルーでー、正門の警備兵見てるのはシュレイアでー、焼き菓子作ってくれてたのはコック長ですー。

 ちなみに副長って?

 勿論私ですよー?


『副長、布団とシーツやっておきますけど……いいんですか? 侍女長に知られたら、また怒られません?』

『んへへへ……今日はー、侍女長からお許しを貰ってお昼寝ですー! いいでしょー?』

『あー、そうですね。 よかったですね』

『……そっけないですねー。 ま、いいです。 布団とシーツはお願いしますー』

『侍女長に実は普段から口調崩れてることチクってやろうかしら……』










「この時こういう会話してたのか。 全然聞こえなかったが……」

「枕さんに触れてないからーですよー。 まぁ、他人(ヒト)より良く聞こえる自信はー、ありますけどー」


 スクリーンは消え、真っ暗な世界に戻る。

 既に2人とも3杯目の紅茶に手を付けている。 ちなみに、当たり前の事ではあるが、味を感じられるのみで本当に飲んでいるわけではない。 膀胱に溜まったりしない。


「もしかして、公爵家の中なら全部聞こえるのか?」

「はいー。 だからこそ、群青と白の猫なんか来てないと思うんですけどねー。 いたら聞こえますしー」

「……お前に気取られない可能性は?」

「んー、足音消している人でも気付けますけどー、何も音を発してない場合とかー、音が消されている(・・・・・・・・)は無理ですねー」


 まるで、音を消す方法を知っているような口ぶりのペイティ。 現代技術でも、音を消すというのはそれなりに装置が必要だった。 ならば――。


「音を消す、ってのは……魔法か?」

「ですよー。 王族とかの密談に使われるやつですねー」


 思わぬ所で魔法に関する情報源。 ユリアやエリザがペイティの事を思い出さなかった辺り、2人も知らぬ事なのだろう。


「この国で、使える奴がいるのか?」

「王族抱えのが1人とー、スラムに隠れ住んでるのが1人いますねー。 昔はもう1人いましたけどー、他国へ行っちゃいましたー」


 3人。 枕の異世界感からすればかなり少ない。 だがそれよりも、気になるワードが2つ。


「スラムゥ? なんでそんなトコに……」

「王族控えってのもいいことばっかじゃないんですよー。 お金は凄いらしいですけどー、王城前を通るとたまに怨嗟みたいな愚痴が聞こえてきますー」


 ブラックなんだな、と枕。 

 あと、夜枷の時にも駆り出されるらしいですー、となんでもなさ気にペイティは言う。


「スラムに住んでる方はー、面倒くさがりの性悪婆ですねー。 音消す魔法はこの婆に聞きましたー。 なんでも元王族抱えで、嫌になって逃げたとかー」

「いや、それお前……もしかして追われる身?」

「ですねー。 ちなみに現王族抱えの方が婆の弟子らしいですよー」


 弟子に押し付けて逃げたのか。 と枕。

 まぁそういうことですねー。 身もふたもないペイティ。


「他国いったって奴は?」

「エリザ様の友人ですねー。 大陸全土でも最年少ですよー」

「ロザリア・クロス=クロイツ=クロワ=クローチェ=クロチフィッソか」

「あら、知ってたんですかー? よく名前全部覚えてますねー。 私も覚えてはいますけど、たいていの人が忘れちゃうんですよねー」


 ロザリア・クロス=クロイツ=クロワ=クローチェ=クロチフィッソなんて名前を覚える気持になれないのはよくわかる。 枕の機能なのか、物事を忘れないが故に覚えていられるだけだからだ。 人の名前を忘れると言うのは中々に失礼だが仕方ない。

 枕の機能ってなんだよ、と思わないでもない枕だった。


「そのロザリアさんもー、ある程度の魔法を使えたはずですー。 スラムの性悪婆と仲が良かったですからー」

「なぁ、ロザリアってのはどんな奴なんだ? 俺が覚えてるのは、黒髪三つ編み眼鏡なんだが」

「え? ……あぁ、そうでしたねー。 枕さんをエリザ様に渡してきたのはあの子でしたー。 忘れてましたー」


 ユリアも、そういえばと言っていた。

 枕も、今思えば、と思い出した。

 記憶が薄れているのだろうか。


「そのロザリアって奴、記憶に関する魔法とか使えないのか?」

「記憶ですかー? ……うーん、わからないですー。 そもそもどんな魔法が使える、とか、人に言うものじゃないと思いますよー。 信用にもかかわりますしー」


 自分は記憶を操れます。 でも、仲良くしてください、なんて言ってくる奴を信用できるわけがない。 なるほど、と納得する枕。


「ロザリアさんはー、うーん……簡単に言うとエリザ様マニアですねー」

「へ?」


 マニア、という言葉がこの国にあるのか。 

 ではなく。 


「なんだ、それ」

「侍女長とは違う方向ですけどー、エリザ様が好きで好きで仕方ない人ですねー。 枕さんを渡した時も、これをロザリア(わたし)だと思って、なんて言ってましたしー」


 ガチ……だと……! 

 がち、ってなんですかー?


「なんか思い出せる記憶とかあるか?」

「色々ありますよー。 印象深い人ですからー」


 むむむ、と頭を捻るペイティ。

 スクリーンが浮かび上がる。


大分遅くなりました

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