12話 『ぐりぐりふみふみ』
繋ぎ回だから過去史上最高峰の短さ。
之より短いのはあらすじだけ。
ふよん。
「……ぐぇっ」
ぐいっ。
「あぅっ」
ぐりぐり。
「おふぅ」
ずんっ!
「げっほ!? なんですかー!? 苦しいですー!!」
「おはようペイティ。よく眠れたかしら?」
お日様の元、柔らかい枕で極上の睡眠を貪っていたというのに、途中からお腹に違和感を覚えて目が覚めた。最後のは違和感ってより嗚咽感だったけれど。
目を開けてみると、これまた極上の笑顔を浮かべたユリアの顔。
「あー、ユリアー。おはようございますー」
「ふふふ、プライベートならまだしも、公爵家の中で呼び捨てにするなんて……あなたはそんなに偉くなったのかしら?」
ぐぃっ! と嗚咽感が来る。何事かとお腹の方を見てみれば、スラリと伸びる長い脚。自分の脚もそれなりに自信があるのだが、その引き締まった脚も綺麗だと思えた。
さらにその脚を辿って行くと、自分の物より幾分か短い侍女服。更に上にはにっこり笑顔のユリア。
ペイティは危機を察した。
「あ、すみませんー! じゃなくて、すみません、侍女長! その、足を退けて頂けませんでしょうか」
「ふふふふ、私はあなたに、大切なエリザ様のベッドメイクと! さらに公爵家の敵であるかもしれない! 猫を捉えておけと! そう命じたと思ったのですが……、違いましたか、ね!」
! の所で一回一回強く踏まれている。このままでは色々なものが出てしまいそうだ。口から。
「そ、そう猫! 群青と白の猫! 覚えてますよ、群青と白の猫!」
猫、と言われればコレだろう。見た覚えはないが、心が覚えている。覚えておかなければいけないと言っている。
その言葉を口にすると、ユリアはペイティの腹の上から脚を退かしてくれた。
そしてそのまま何やら考え込んでいる。
その隙にペイティは素早く身の着を整え、立ち上がった。
助かったかな? そう思ったけど。
「ペイティ。あなた、その猫を見たの? 見たのに、取り逃がしたの?」
それは勘違いだった。
むしろ、さっきより危ないかもしれない。
敵を許すな、敵を逃がすなと口を酸っぱくして言われていた抗争時代を思い出す。
口調こそ違うが、やはり侍女長は頭だと。
「い、いえ、見ては無いです。見てないです!」
「ふふふ、でもねペイティ。私はあなたに、猫を見つけたら捕まえておいてって言ったの。それなのに、どうしてあなたがあの猫の色……群青と白の猫だなんて知っているのかしら? 見ていないのに、おかしいと思わない?」
それは自分が一番思っている事だ。
どこでそのワードを知ったのか。眠る前、自分はそんなものを見ただろうか。
どれだけ記憶を探っても、洗濯を終えて枕を干して――そのまま眠ったことしか覚えていない。
それはそれで不味いのだけれど。
その話は一旦置いて於いて。
だから、このワードを知る機会があるとすれば、それは――。
「ゆ、夢です! 夢の中で、群青と白の猫という言葉を覚えておこうって思って……それで、それで……」
それで、なんだろう。
自分は侍女長に夢の内容を話して何がしたいんだろう。
そもそも今日見た夢は、ユリアとの出会いの日の夢だったわけで。
それを言ったところで、何の意味があるのかペイティにはわからなかった。
だが。
「夢? ……そうか。夢か。
…………もういいですよ。通常の業務に戻ってください。昼寝していたことは不問にしてあげます」
ユリアは何かに気付いたようだった。
ペイティの中でユリアに対する好感度が更に上がる。もともとカウントストップしていたソレの上限が取り払われる勢いだ。
「はい! 以後気を付けます!」
気持ちよく眠れたし、ユリアはやっぱりすごいし。
踏まれた事なんて完全に忘れて、気分よくペイティは仕事に向かった。
「アタシがインフォルマの夢なんてモンを見て、群青と白の猫っつー単語を得たのも夢。ペイティが群青と白の猫っつー単語を得たのも、夢。そしてその共通点は……この枕、だな。なんかあるのか? この枕……。
もう一度寝てみりゃ、わかるかもしれねぇな……」
ペイティが完全に離れた気配を読み取り、口調を戻すユリア。天日干しにしていた枕は既にエリザのベッドの上にある。
大丈夫。これは調査のためだし、セシリア様には無期限で許可をとってあるし。
少し時間が遅いからエリザが帰って来てしまうかもしれないけれど……その時は、ベッドに引き込めばいい。
そんな思考でユリアは眠りに就いた。
やけに脚の表現が多いって?
他意はない。