第十話『歓迎、そして一歩踏み間違える青春』10
長かったような短かったような準備を終え、披露会当日。
姫野たちの仕事ぶりがあってか、予想以上に人が来ている。
上野先生曰く、ここまで人が文化祭以外で来るのは初めてらしい。ここまでは順調のようだ。
とはいえ、ここから俺たちの出番はない。最初は撮影を任されていたが、人が足りていたらしく今日は見守るだけだ。
まあ、あそこまでサポートしたのだから大丈夫であろう。
俺はそう思いながら、俺と霧島と高城が用意した椅子に腰を掛ける。
「ふぅ~……」
「うん? 珍しい、懸が疲れた顔してる」
俺が座っていると、きちんとした制服姿をした優姫がいた。
さすが、外では真面目なだけあってとても良い人に見える。まあ、そんな事しなくても良い人には見えるけどな。
ちなみに俺はどうでもいい人に見られる。
良い人の違いって分かんないよね。
「ちょっと。懸、返事してよ」
俺がいつも通り、ネガティブな事を考えていると優姫が少し怒り気味に声を掛けてきた。
「何で、いるんだよ」
「そりゃあ、この披露会が見たいからだよ」
「それは分かってる。そうじゃなくて、お前の頭だったらここの高校よりも優秀な高校に行けるだろう。なのになぜ、ここに来たんだ?」
ここも頭は良い方だ。
とはいえ、優姫は俺なんかより頭も運動神経も良い。
ついでにモテるまでもある。
俺はあまりここは合わないんじゃないかと思う。
そういう心配で言ったわけだが、はたして優姫は理解してくれるだろうか。
「確かに、私だったらもっと上の高校に行けるかもね」
どうやら、俺の意図は理解しているようだ。
だが、それには続きがあるかのように、でもと続ける。
「ここの高校を見た時、他の高校とは違う何かを感じたの。学力だけじゃない、何かがここにあるって」
「それは一種の一目惚れって奴か?」
「まあ、そんな感じかな」
なるほど。じゃあ、しょうがないな。
ここまでの意思があるのなら、もう言う事はない。
「それに懸がいるから」
「急に変な事を言うな」
たまにこういう事を言うものだから、困る。
ごめんごめんと言いながら、俺の隣に座って来た。
結局、座るのかよ。
「いきなり、女子を言葉攻めにするなんて変態ね」
「おい、どこをどう見てそうなるんだ」
一言目から相変わらずとげのある言葉を発してくる姫野が来た。
その後ろから遅れて花澤がやってくる。
「顔ね」
「偏見だ」
「あなたに偏見もなにもないわ」
こいつ、好き放題言いやがって。
後、その勝ち誇ったような顔止めろ。
「まあまあ、せっかくの披露会ですから喧嘩は止めましょう」
花澤は少し呆れながら、俺たちを宥める。
こういうのは花澤の癖なのだろうか。
「まず、俺は悪くない。それに喧嘩出来る程の友達なんかいない」
いるもんだったら、紹介したいくらいだ。
喧嘩って本当に何だよ。
「凄い悲しい事を言われたような気がしたんですけど……」
おい、そんな憐れむような目で見るな。
結構来るから、それ。
「まあ、いいわ。それよりこのあなたにべたべたな女子は?」
べたべた、言うな。
俺は決してそういう関係ではないぞ。
「ああ、こいつは俺の従妹だ」
俺はお茶を飲んでいる優姫を差しながら、紹介をした。
お茶を飲んでいる姿勢も美しく感じるのはまあ、気のせいだろう。
何だよ、こいつ可愛い過ぎ。
「従妹?」
全然似てないんだけどという顔をしている。
花澤も少し疑問に思っているようだ。
詳しく紹介するしかないか。
「こいつは杉――――」
「杉山優姫、中学三年生です」
俺が紹介をしようとすると、それを邪魔するかのように自分でお辞儀をしながら紹介をした。
だったら最初から自分で言え。
「えらい、律儀ね。私は姫野叶」
「姫野さんですね。いつも、懸がお世話になってます」
「大丈夫よ。そんなに関わっていないから」
「おい、勝手に俺を傷つけるな」
それを無視するかのごとく、優姫は花澤に目をやる。
「私は花澤彩華です」
「花澤さん……はっ!! 花澤さん!!」
どうしたんだ、急に。
何かに気付いたのか、優姫は花澤を強く見つめている。
「あの……私に何か?」
「はっ!! すいません!!」
自分がしていることの異様さに気付いたのか、すぐに顔を遠ざける。
全く、従妹とはいえあまりこういう事はしないでほしい。
「皆様、お待たせしました」
「いよいよ始まるみたいね」
優姫の紹介をしている間にどうやら披露会開始時間が来たようだ。
姫野も花澤も席に着く。
俺は少し深呼吸をした。
さて、桃の本番はここからだ。頑張れよ。
俺は司会が上がって来るのをただ見ていた。




