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第十話『歓迎、そして一歩踏み間違える青春』2

 俺は異様な暑さに耐えながら、心と職員室まで辿り着いた。

 もう、本当に暑い。家に帰りたい。

 「そうだ、心」

 俺は職員室をノックしようと思ったが、一つ大事な事を言い忘れていた。

 心はどうしたのと言わんばかりのポカンとした顔をしている。いつもの姫野とは思えないな。

 「今からは姫野叶のフリをしろ」

 「どうして?」

 「姫野が変人だと思われるだろうが。それを阻止するために頼む」

 俺としては別にどちらでも構わないがな。

 俺がそう説明すると、理解したのか敬礼のポーズを取った。どこの兵隊さんだよ。

 「じゃあ、頼むぞ」

 「うん、お兄ちゃん」

 「早速分かってないじゃないか。しっかりしてくれよ」

 この様子だと心配だ。俺が姫野と兄妹と思われるのも困るしな。

 俺は強く注意した。

 「分かったわ、杉山君」

 まあ、よしとするか。

 ようやく入れる。俺はコンコンとノックをした。

 「失礼します。一年三組の杉山懸です。上野先生はいらっしゃいますか?」

 高校に入学してから、初めて職員室の中を覗いた。

 あまり、中学校の時と造りは変わっていなかった。逆に変わってたらおかしいか。

 「杉山君~!! どうしたの?」

 奥の方から上野先生が、歩いて来た。

 こうして見ると、上野先生はこの職員室の中でずば抜けて美人だと思った。

 「あの、部活の件でちょっと」

 「ああ!! そういえば、私も部活で伝えてたい事がありました」

 俺が部活について話そうとすると、先生も部活の事に関して思い出したようだ。

 まあ、俺は扇風機があるかどうか聞きたいだけだが。

 「ちょうど、姫野さんもいることだし。ちょっと待っててね」

 「えっ。ちょっと」

 俺の引き留めも虚しく、先生はスマホを手にしてどこかに行ってしまった。

 あの、扇風機の事だけなんですけど……。

 「お兄ちゃんらしいね」

 「バカにしてるのか。後、今はお兄ちゃん止めろ」

 また、戻ってるじゃないか。

 俺が一々言わなくてはいけないようだ。

 「冗談よ。ただ、さすがだと思っただけよ」

 「バカにしてるじゃないか。思いっきり」

 フリをするようになったと思ったら、これか。

 まあ、姫野が言いそうな事だから何とも言えない。

 俺たちがそんなくだらん会話をしていたら、すぐに上野先生は戻って来た。

 「俺たちに何をやらすつもりですか?」

 「それはもちろん依頼ですよ!!」

 ですよね。何となくは予想していたが、まさか本当にそうだとはな。

 はぁ~……。嫌だな、帰りたいな。

 「それで、その依頼主はいつ来るんですか?」

 「先ほど、電話で呼び出したからすぐに来ると思いますよ」

 「ここ、いや私はあまり待てないんですが」

 おい、それは心自身の思いだろうが。

 途中まで心だったし。

 先生も少し驚いてるぞ。

 「姫野さんもそんな事言うんですね。まあ、でも本当にすぐですから」

 「なら、いいですけど」

 一瞬ばれたかと思い、焦ったがどうやらばれてないようだ。

 俺がほっとしていると、コンコンと忙しそうな音が聞こえた。

 「すいません!! 遅れ~ました!!」

 そこにいたのは新聞部と腕章を付けた元気な女子と同じく腕章を付けた真面目そうな男子だ。

 というかどなたですか。全く見覚えがないんだが。

 「紹介しますね、一年三組桃さんと一年五組高城さんです」

 「桃です!! お願いします」

 「やあ、久しぶり杉山君」

 ああ、高城か。そういえば、会っていたな。

 どうやら、あの時の事はもう気にしてないみたいだな。

 それに引き換え、桃については全く知らなかった。

 「どうも、杉山だ」

 「姫野よ」

 俺たちも軽く挨拶した。

 「それで、新聞部の方が何の用だ?」

 「それはですね……これです!!」

 そう言い、差しだしてきたのは部活披露会について紙だった。

 ぶっちゃけ何の為に披露するのか分からん。

 「それをどうするんだ?」

 俺はもう何をお願いされるか、薄々気づいていたが一応聞いた。

 今日は帰れないな。

 「もちろん青春部に手伝ってほしいのです!!」

 「ああ、そういう事だと思った」

 「では、早速」

 桃は俺をどこかに連れて行こうとした。

 おい、勘弁してくれよ。

 「おい、まだやるとは言ってないぞ」

 「いいじゃないですか。どうせ、杉山君暇なんですから」

 「暇だからこそです。それに俺はただ」

 「さあ、行きましょう」

 ここでも拒否権はなしか。

 どうして俺はこうなるんだ。

 「まあ、頑張ろう。ねぇ、お兄ちゃん」

 俺にそっと呟き、心は手伝う事を決めたようだ。

 いや、そこは拒否ってくれよ。

 「よ~しじゃあ、行きましょう!!」

 「おい、本当に……」

 俺の言葉は聞き入れもらえず、移動を始める。

 あの、扇風機……。駄目……ですか……。

 

 

 


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