第十話『歓迎、そして一歩踏み間違える青春』1
六月も終わりが近づき、いよいよ夏らしい暑さ、うっとうしさを感じる今日この頃。
相変わらず青春の一欠けらもない部活動を行っている青春部。だが、姫野たちはこういうのが良いらしい。
俺も別にこのままで構わないのだが、それは家ですればいい。早く、家に帰りたい。
しかし、姫野は俺の帰りを許してくれない。依頼を待ちなさいと言うばかりだ。
水野の時から来てないぞ、依頼。もう本当に帰りたい。
なぜ、俺がこんなに願望いっぱいになっているのは理由は一つだ。
暑いからだ。青春を送れない俺は夏が嫌いだ。夏休みがある意外利点がない。
この暑さで俺は本当におかしくなりそうだ。
「なぁ、ここって扇風機ないのか?」
俺はこの暑さに耐えきれず、姫野に聞いた。
花澤や霧島は用事あるらしく、今日は部活に来ていない。
姫野はため息を吐いた後、こう答えた。
「知らないわ」
いや、それ答えじゃないからね。
中学生時代の女子と同じ反応するな。あれ、結構傷付くから。
気になった質問をすると、いつも知らないと返ってきた。
あいつら、それしか会話出来ない人なのかと思ってしまったぞ。
「いや、お前部長だろ。何で知らないんだよ」
本当に知らないのは困る。
今時扇風機ないとか、どんだけ使ってなかったんだよ、ここ。
どんな田舎でも扇風機あるぞ。
「別に部長だからって全て知ってるわけではないわ。上野先生に聞けばいいじゃない」
「それは面倒くさい。気分が乗らない」
いや、そんなに睨まなくても。
こんな暑い時にあまり動きたくない。
それは分かってほしい。
「俺、帰って」
「それは駄目よ」
何でだよ。早く帰ってエアコンの効いた部屋で涼みたい。
それの何が悪いのだ。
「あなた、暇じゃない」
「暇だから帰りたいんだよ」
暇こそ正義だ。
大人になって働くことになったら、暇など存在しなくなる。
今しかないのだ。それなのに姫野は潰すつもりでいる。
「分かったわ。そんなに言うのなら仕方がない。私が聞いてくるから」
「珍しいな。俺の代わりに聞いて来てくれるのか」
「勘違いしないで。私だってこの暑さは異常だと思っただけよ」
そう言い、姫野は立ち上がった。
凄くシャンプーのいいにおいがした。さすが、姫野だな。
身だしなみに気を遣っているんだな。
「じゃあ、ここにいなさいよ」
「分かってる」
そう告げると部室から出ようとする。
すると、次の瞬間。
「きゃ」
小さい声が聞こえた。
姫野は滑るはずのない所で足を滑らせ、転倒した。
転倒でどうやら、頭を打ってしまったようだ。
頭を打ってしまったから、つまりこうなる。
「う~ん。あ、お兄ちゃん!!」
心だ。どうやら、人格が心になってしまったようだ。
そうだ、最近そういう出来事がなかったものだから姫野が多重人格者である事を忘れていた。
心は主に精神が幼い。だから、先ほどの姫野とは全く違う雰囲気を醸し出している。
「よっ。久しぶり」
俺は軽い挨拶をすると、心の元に近づいた。
「うん!! 久しぶり、お兄たん❤」
「お兄たんはやめろ。で、どうして心が出てきたんだ?」
精神が幼女化した姫野にお兄たんとか言われると俺が本当に壊れてしまうので、一つ質問をした。
まあ、気になっていたしな。別に変態じゃないからな。
「分かんない」
「いや、分かんないじゃ困るから」
「う~ん……。じゃあ、何となく」
駄目だ、理由が全然分からん。
考えるだけ無駄か。今まで訳の分からないものだらけだったし今更気にする必要ないか。
「ねえねえ、ここ暑くない? 心、アイスが食べたい」
「子供か。いや、子供だな」
自分で突っ込んでいて混乱してきた。
仕方がない事情を話すか。
「今、上野先生に扇風機がないかって聞きに行こうとしていたんだ、姫野叶が」
「なるほど。ってお兄ちゃんパシろうとしていたの!?」
そんな嫌そうな顔をするなよ。
「姫野が自分で言いだしただけだ。別にパシってないし、それに俺はそこまで悪い奴じゃない。いや、そもそも悪い奴じゃない」
「それは違うでしょ」
即否定ですか。
俺としては別に悪い事をしてるつもりはないのだが。
なぜだろうか。
「まあ、それならいいけど。じゃあ、一緒に行こう」
「いや、話を聞いてた? 姫野が行くって言ったんだぞ」
「心も姫野であるけど、姫野叶ではないよ」
そこで、テヘ☆とかやるなよ。
俺が死んじゃうから。
それは置いておくとして結局俺行くことになるのか。
嫌だ。今日は行きたくない。
「だからって俺は行かん」
「お願い、お兄たん❤」
くっ。この可愛い顔で行きたくなってしまう。
だが、今日は行かん。絶対に行かない。
「俺はぜった」
『行け!!』
「行く、一緒に」
「やった!!」
やっぱり俺に拒否権はないのか。
俺の青春、やはり大変だ。
もう、本当に家に帰りたい。




