第二話『多重なあいつの多重な事情』1
呪いとはいったい何なんだろうか?呪いは誰かが決めたものなのかそれとも決められたものなのか。しかしそれは自分が呪いと思えばそれも呪いなのではないだろうか?なら俺はこの状況を呪いだと判断する。
「おい!! なんで俺の家の前にお前がいるんだよ!!」
俺の前には昨日までは(昨日からだが)ストレートだった姫野が髪型をポニーテールにして立っている。イメチェンってすぐするもんなんだな。
「優しいおばさんが杉山の家を教えてくれたのよ」
「俺の近くにそんな人……いたなあ」
森近おばさんか。昔よくお世話になった。色々と面倒を見てもらった。別にぼっちだからってお世話になっていたわけではないからな。
ほら、みかんを取らされたり投げつけられたり。いや、悲しい。はっきり言って嫌いだった。
いや、人として当然の事だ。ってそうじゃない!!
「いやいや、ここらへん区域までどうやったら来れるんだ?」
「GPSよ。あなたの携帯の」
いやぁ便利だね、最近は。
逆探知とか本当に便利ですよね。よく家が嫌で家出した時探すのに便利……って俺が悪いの!?
「ええ!! なんで姫野が持ってんだよ? 今、その事に気づいたよ」
俺のお迎えが来たのか。俺はまだ生きるぞ。いや女子の天国だったら行きたい。
「昨日私のことをバカにしてた人は誰だったかしら?」
昨日の帰りに言ったこと気にしてるのか。意外と根に持つタイプだ。怖い。
ほんといらん知識が入ってくるな。
「ああ、すまん。俺はうっかりです」
ここは潔く謝る。俺はうっかりではないからな。
「杉山、昨日の入学式で落としたのを気づいてなかったのね。返し忘れたから、今返しに来たのよ」
「それはご苦労様です。ありがとう」
「今までも朝おしかけた男子も機嫌がよくなかったけどこんなにツッコミをかましてくる人は初めてだわ」
怖えよ。いったい男子と何があったんだよ。何処の晩御飯?
「姫野は何かテレビ番組キャスターか。別に驚いただけだ。いつもこんな感じだ」
まさか女子が俺の家に来るなんて夢のまた夢だと思ってたからな。
「じゃあ、はいこれ」
俺は携帯を受け取った。
「さて、前置きはこれくらいにして……」
前置き、長げえよ。今は俺のせいだが。
「昨日私、ブレスレットを壊しちゃったでしょ。その件で……」
「ああ、あのうっかりだな。」
「腹に頭突きくらわすわよ」
「姫野ってやっぱり可愛いんだな」
「おりゃあ!!」
「グホォ」
何かのアニメかよ。俺は姫野に頭突きをお見舞いされた。結構痛い。HP半分ぐらい減ったんじゃないか。
「まあ、いいわ。続きはまた今度ね」
「良くないじゃないか。またお見舞いされるのかよ」
俺を瀕死状態にするつもりか。勘弁してくれよ。
「杉山に可愛いなんて言われたくないから」
ああ、そうですか。なら、俺をイケメンって言わなくていいよ。ってそもそも言われてないな。顔はそんなに悪くないと思うが。
「はぁ~。とりあえずあのブレスレットがない以上しばらくは杉山なんかと一緒にいる必要があるわ」
なんかが余計だ。普通に過ごしていれば普通に可愛いのにな。
「分かった。それで具体的には?」
「私が何かにぶつかったり、衝撃を受けたりしないようにしてほしいの」
昔のアナログテレビみたいだな。まあ叩いても良くならなかったな。
「つまり姫野を守れってことか?」
「そういうことよ。もう一つの発動条件は衝撃が加わることだから」
多重人格のことか。そして全ての人格と付き合わなければならない。
「じゃあそういうことで。また学校でね」
まあ今早朝の5時だしな。チャイムがしたもんだから寝ぐせがついたまま飛び出してきたもんだからまだ眠い。
「ああ、後でな」
俺が帰ろうとした途端、
「きゃあ!!」
姫野は転んだ。いわゆるデジャブだな。二度あることは三度あるっていうし、また同じことが起きるだろう。
「お~い!! 大丈夫か!!」
俺は姫野のところまで駆け寄った。だが俺の知っている姫野ではなかった。
「ふう。やっと人格交代出来た。それはそうと君は誰?」
突然背伸びをした姫野(ほかの人格だが)が俺に尋ねてきている。
「なに言ってるんだ? 俺は杉山懸だぞ。なあ姫野?」
「そっかほかの姫野の友達なんだね。僕は姫野桜。体は同じでも人格は違うよ」
某探偵かよ。何だよそれ。
「なんじゃあそりゃあ!!!」
突如僕っ子へと変貌した姫野に俺は驚くしかなかった。キャラ変わり過ぎだろう。