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第九話『依頼と苦労』3

 依頼を受けてから、一時間少しが経った。俺の仕事はまだ半分も終わっていない。

 というか終わらない。何故なら、仕事が増えていくからだ。

 「どう、終わった? これもよろしくね」

 そうこんな具合に。終わってないぞ、全然。俺の状況を見てから、言ってくださいね。

 ここでも俺の拒否権はない。どこにもないけどな。言論の自由、何処行ったんだよ。

 姫野たちも色々と忙しそうだ。何やら話し合っているみたいだ。

 まあ、俺よりはいくらか効率が良いので早めに終わりそうだ。

 「ふぅ~……」

 気分転換として深呼吸をした。視線が痛いのは無視しておこう。

 姫野たちは別に気にしてなさそうだしな。

 それにしてもいつもは俺の事を見てないのにこういう時だけ見てますよね、こういう人たち。

 人数が少ないのもあるが、それでもいつもより視線が俺の方に集まっている。

 とにかく仕事が終わってからにしよう。俺は目の前の紙に視線を落とした。

 卓球部か……。俺が今見ているのは卓球部の練習試合のスケジュールだ。ってこれ、俺見ていいのか。

 そんな疑問があるが、別に問題ないものとして作業を進める。

 俺の仕事はスケジュールチェックやメンバー表のチェックなどだ。こういう物はマネジャーや顧問とかがやって欲しいものだが、俺の高校にいるそういう人たちはまた別の仕事があり忙しいそうだ。暇だったらいいのかよ。

 スケジュールは大丈夫そうだな。本案と原案を見たところ、特に変更がなさそうなので良しとした。

 さて、次は卓球部のメンバー表だな。どれどれ……。

 俺の知らない名前ばかりでこういうチェックは本当に困る。花澤とかがチェックした方が早いと思ったのは俺だけですか。適材適所と言う言葉の重みが今よく分かる。

 一年生からずらずらと名前が並んでいる。その中に一つだけ見覚えのある名前があった。というかそれしかない。

 「水野!?」

 まさか、水野が卓球部に入っていたのは意外だったので、つい声を出してしまった。スポーツなのか、水野は。

 その驚きで他の人たちが俺の事をまた睨んだが、俺は無視した。

 一年五組水野輝兎。一年生の最後の所に書かれていた名前だ。

 初めての人はその名前だけで、恐らく可愛いのだろうなと想像するだろう。いや、可愛いから間違っていない。 

 あれこそ天使だと俺は言い切れる。可愛い過ぎるのだ。水野が男子じゃなければ、速攻好きになっているだろう。

 そして、嫌われる。嫌われるのかよ、俺。

 「杉山さん? 手、止まってますよ」

 「おお、すまん」

 どうやら、水野が気になり過ぎて作業が止まってしまったようだ。

 花澤に声を掛けられた事でようやく我に返った。

 また、視線が……以下略。

 だが、一度人とは止まってしまうとすぐに動き出す事は難しい。最近は無くなったが、パソコンとか機械系は一度止めた後、動き出すのに結構時間掛かったんだぞ。

 それと同じように俺も中々作業を再開出来ない。俺、やっぱり駄目人間なのか。

 ああ~……。こういう時に水野が居てくれればな。だいぶ違うだろう。

 そんな依頼放棄寸前の状態になっていると、教室の扉がゆっくりと開いた。

 「失礼します……」

 そんなまさか……。たじろいながら、教室の中に入って来たのはまさに天使の水野だった。

 なぜ、水野が。

 「水野……」

 「あ、懸!!」

 俺の存在を水野が気づくと先ほどよりも笑顔が増えた。やっぱり可愛い。

 緊張が解けたのか、俺の所に徐々に近づいてくる。

 一瞬お花畑が見えたのは気のせいだろうか。結婚したい。

 えへへという笑顔が本当に可愛い。いつまでも見ていたい。

 「懸……」

 「おお、すまんすまん」

 さすがにジッと見過ぎか、少し水野が照れている。なんで、男子なんですか。

 いかんいかん。まさか、本当に来るとは思わなかったので、このままゴールインしても良かったがそれはさすがに止めておこう。

 ここに来たと言う事は部活で何か用があるのだろう。

 「どうした? 部活で何かあったか?」

 「うん……ちょっとね。メンバー表ってここで大丈夫かな?」

 「ああ、大丈夫だ」

 俺はそう答えた。水野は俺にメンバー表改定案を渡した。

 水野がとても気まずそうな顔をしている。

 「どうしたんだよ。俺で良かったら、相談聞くぞ」

 「いいの?」

 そんな不安そうにしなくても。俺が解決してやる。

 俺は頷いた。

 「良かった……。確か、懸って青春部に入っているよね?」

 ここでその名が出るか。その名前には姫野たちも反応している。

 こちらに顔を向けている。

 「ああ、そうだが」

 「じゃあ、お願い。青春部として卓球部の手伝いをして!!」

 そう言い、水野はぺこりとした。

 なに、スゲェ可愛い。もうするいや、したい。

 すると、姫野たちが近づいて来た。

 「水野さんだったかしら? その依頼詳しく聞かせてくれないかしら」

 おい、お前ら邪魔するな。

 「うん。ここじゃちょっと言いづらいから一度教室を出てもらっていいかな?」

 「別に構わないわ。では、部室に行きましょう」

 まあ、それもそうか。

 「仕事、頼んだぞ」

 「ここまで、ありがとうな」

 案外感謝とかもしてくれるんだな、霧島。

 俺は霧島に残りの仕事を渡した。

 「じゃあ、私も行きます!!」

 結局、このメンバーかよ。

 俺たちは霧島を残し、部室へと移動した。

 

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