第九話『依頼と苦労』1
青春部。その名とおり、青春を送る部活である。
とても抽象的ではあるが、それが青春らしいと言えば青春らしい。
青春部の部員は四名。その中の一人は本を読み、また違う一人は携帯をいじっていたり、とまあ一人一人自由な事をしている。
ちなみにその部員の一人である俺は雑用、報告書をまとめている。今日も変わらず、自由に活動を行っている。
「これが青春かよ……」
俺は報告書を書き終え、ぼっそとそんな事を呟く。
いやだって、ここ一週間何もしてないんだぞ。暇で暇で仕方がないのだ。
「なに、急にそんな事言って」
俺の呟きを聞いたようで、姫野は俺を軽く睨んでいる。
愚痴ぐらい言わせてくれよ。
「青春部なのに、一つも青春っぽい事してないんだぞ。これぐらいの愚痴は当然だ」
青春部じゃなくて暇つぶし部に変えようかな。
本当に青春のせの文字もない部活だ。早く帰りたいが、帰れない。
やめられない、とまらない。どこかのcmみたいな言葉を言いそうだ。
もちろん、姫野のせいだ。俺に色々と雑用を振ってくる。
本当にブラック企業かよ。
「確かにそうですね……。あまり青春部らしい事はしていませんね」
花澤も共感してくれたみたいだ。携帯を閉じて話してくれる花澤は優しい。
姫野は俺に顔すら合わせてくれないぞ。全く酷い扱いである。
ちなみに依頼はゼロだ。霧島が女子や男子に色々と宣伝したそうだが、俺がいると聞いてみんな大丈夫だと答えたそうだ。
俺でごめんね。というか勝手に人の名前使うじゃねぇよ。そして俺を傷つけるな。
その霧島は今日は不在だ。何か、女子の手伝いをしているそうだ。いや、それを持って来いよ。
「宣伝が悪かったのかしら。それとも人の問題かしら」
そう言いながら、俺見るの止めろよ。
結局俺のせいかよ。
「悪かったな、俺で。これは生まれつきだ」
もうそう言うしかない。
「でも、そういう事ではないと思います」
すると、花澤がそんな事を言う。
どうした急に。悪い物でも食べたの。病院行こうか。
そういうわけではないらしく、これは花澤自身の言葉だ。
「多分ですけど……やっぱり初めて出来た部活にそんな堂々と依頼しに来る人はいないと思います」
まあ、それもそうか。俺だってこんなわけの分からん部活に依頼をしに来ないだろう。
名前は俺が決めたんだけどな。
それは置いておくにしても、確かにこの後何も依頼がないと、部活として活動が出来なくなるかもしれない。
さすがにそれだけは阻止しなければならない。
「なら、依頼を待つのでは駄目だ。」
「と言うと何かしら?」
珍しく姫野が俺に疑問を投げかける。
姫野なりにこの部活の事を考えているのだろう。
俺はご期待に添えるべく、こんな提案をした。
「つまり、待つのではなくこちらから助けるんだ。困っていた人をこちらから助けるのも部活の活動に入るだろう?」
「確かにそうね……」
どうやら、姫野は納得したようだ。花澤も納得したような顔をしている。
結構当たり前の事を言ったつもりだが。シンプルイズザベスト。素晴らしい言い訳である。
だが、これでいいみたいだな。
「でも、どうすれば?」
「まあ、そこは自分が助けたいと思ったら助ければいい」
俺は困っている方が楽しいからいいんだけどな。
ふっ。我ながらこの性格の悪さに尊敬しちゃう。
ここまで、自分を貫ける人はそうそういない。つまり、ここの面ではリア充に勝っている。
こんな事で勝ち誇ってもしょうがないのは自分が一番分かっている。
笑うだけにしておこう。ふっ。
「笑顔が腐ってるわよ、杉山」
どうやら、俺の笑顔で姫野もだいぶ引いている。姫野が引くぐらいだから、だいぶ腐っているのだろう。少し傷付いた。
花澤も苦笑いだ。みんな、酷くないですか。
「じゃあ、行くか」
「何処に行くつもりかしら?」
何となく察しているらしく、少し嫌な顔をしている。
ふっ。伊達に人を罵っているわけではないな。
さすがだ。俺の思考を読みまくっている姫野に比べ、花澤が分かっていないようなので俺は話すことにした。
「決まってんだろ。霧島の手伝いを奪い取る」
「最低ね」
「最低ですね」
当然のような言葉を言われた。
まあ、慣れている。
そう、俺って最低。これが俺だ。
呪いでこうなってしまったがゆえにこれだ。
「じゃあ、俺だけ行く」
「ちょっと待ちなさい」
俺が扉を開けて部室から出ようすると、姫野に引き留められた。
花澤もそれと同時に立ち上がった。
何だよ、急に。やっぱり悪い物でも食べたの。
「何だよ。別に問題沙汰にはしない」
俺は一応心配させないようにそう答えた。
だが、姫野たちはそういうわけではないらしい。
「そういう事ではないわ。私たちも行くわ」
「はぁ?」
結局来るのかよ。
姫野は外に出る準備をした。いや、そんなに本気で準備しなくても。
どんだけ俺の事を心配してんの。ツンデレなの。
いや、こいつにそんな属性はない。
こんなのツンデレとは認めない。
花澤は携帯を置き、俺に近づいて来た。
近い近い。どうしてこういう女子はこうして俺みたいなやつにまで馴れ馴れしいですかね……。やめろ、好きになってしまうだろうが。
「近いな」
俺はつい、耐えきれずそんな事を呟いてしまった。
「すっすっすいません!!」
それに気づいた花澤はだいぶ俺と距離を置いた。
そんなに離れなくてもいいんだけどな。
「じゃあ、行くぞ」
気を取り直して、俺は姫野たちにそう言い、部室を後にした。




