第七話『記憶と勝負』8
「はぁ~……。そういう事かい」
司書さんは俺たちに深いため息を吐きながら、そう続けた。
高城が少しやり過ぎたなっていう顔をしている。よ~し。しっかり反省しろ。
「ごめん、母さん。楽しくて止められなくなっちゃったんだ」
楽しかったのか、あれで。少し驚きだ。
まさか司書さんの息子が高城とは思わなかった。
まあ、言われてみれば似ているが。
「たくぅ~しょうがないな。みんな、息子を許してやってくれ」
意外とあまいですね。息子が好きなんだろうな。
「別にいいですけど」
「はい!! 私も大丈夫です!!」
「無論、我もだ!!」
俺以外もさほど気にしていないみたいで、取り敢えず良かった。
最後はどうなるかと思って冷や汗を掻いたが。
それを聞いた司書さんは安心したのか、少し表情が柔らかくなった。
「みんな、良い子だな。感心したよ」
「うん。僕の大事な友達だよ」
「おい、いつの間にそんな関係になったんだ。それに俺には友達という人種は存在しない!!」
自分で友達いない事をアピールしてしまった。だが、今の俺には友達は要らないのは本当の事だ。
一人でいるからこそ人に価値が出るものだと俺は思っている。
突然の意見に驚いたのか、少し渋い表情を見せている。
だが、すぐに笑顔になった。
「その様子だともう大丈夫そうだね」
「え? 何がですか?」
「昔のトラウマ、引き摺ってるんじゃないかと思ってな。少し心配していたんだよ」
そういう事か。つまり、司書さんは俺の事を覚えていたわけだ。
まあ、あんな問題があって忘れるわけないよな。
「トラウマですか……。まあ、今は気にしていません」
そうしないと生きていけないからな。
過去を振り返っている暇があったら、今を見た方がいい。
「そうか!! なら、本当に良かった!! 少し息子がやり過ぎてしまったが、どうだった?」
「まあ……息抜きにはなったんじゃないですか」
あれを息抜きと言うのは変だとは思うが。
「なら、安心安心。後はその事を綺麗さっぱり忘れてくれれば大丈夫だね」
俺は少し忘れるという言葉に引っかかった。
「そうだよ。そんな辛い過去、忘れた方が良いよ」
高城も続けてそう言う。
だが、俺は気に入らなかった。
忘れるという行為に。
「悪いんですが、忘れるつもりはありません」
「どうして?」
「絶対に忘れた方が良いよ」
「ふざけるな!!」
俺はつい心に溜まっていた怒りを外に出してしまった。
その様子を見たみんなは凍り付いている。
誰もしゃべろうとしない。静かな空間になった。
「すいません。ですが、どうして忘れなければいけないですか?」
俺がもし忘れるという行為をした場合、昔の自分を否定することになる。
それがただ嫌だった。
「確かに忘れてしまった方が楽かもしれないかもしれません。ですが、それは逃げです。俺は別に間違った事はしてません」
俺は強くそう言い張った。
忘れるという行為を消すために。
ただ、トラウマだけで俺は忘れたくない。
俺にはまだ疑問が残っている。
ただ、気にしていないだけで、まだ終わってない。
「気持ちだけ受け取っておきます」
俺は最後にそう言い怒りを抑えた。
ようやく気持ちの整理がついたのか、表情が戻って来ている。
ただ、申し訳なそうな顔をしていた。
「そうか……。すまない、悪い事を言った。もうそろそろ図書館を閉めるから早く帰んなよ」
そう言い残し、司書さんは去って行った。
今、ようやく自分に後悔が降りてきた。
悪い事をしてしまった。本当に。
「じゃあ……今日はありがとう……みんな……」
高城も暗そうだった。
まあ、自分では正しいって思っていた事が否定されたんだ。しょうがない。
「私たちも帰りましょうか。ねっ?」
優姫は気を使ってくれたのか、そう声を掛けてくれた。
茜も頷いている。
「ああ、帰ろう」
俺たちは図書館を出た。
外に出るともう日が沈む寸前だった。
結構長い時間居たんだな、俺たち。
意外と気付かないもんだ。
「じゃあ、我はこっちだから。」
「ああ、じゃあな」
「さよなら」
そう何気ない挨拶をして、茜と別れた。
茜にも悪い事したな。茜も帰りは暗そうだった。
ごめんな、茜。俺は心の中で誤った。
「ねぇ、懸? 本当に気にしてないの?」
どうやら先ほどの件で優姫は気にかけているみたいが。
まあ、無理もないか。
「別に気にしてない。ただ、忘れるという行為に腹が立っただけだ」
「そう……。じゃあ、早く解決しないとね」
「何でだよ。気にしてないって言ってるだろう」
すると、優姫は真剣な表情になった。
「じゃあ、懸は今が幸せ?」
幸せか。その言葉は少し痛い。
何とも言えない。
そんな事を茜にも聞かれたな。
「幸せとも、不幸とも言えない」
「だったら、やっぱり解決しなくちゃ駄目だよ」
優姫の目は本気だった。本気で心配していた。
とても心が痛い。
「じゃあ、頼むよ」
「うん!!」
そう言い、また笑顔に戻った。
俺は言葉では気にしていないと言ってるだけで、本当はずっと引っ張っているのだ。
だから、さっきあんな事になってしまったのだろう。
俺の願いかぁ……。
俺にはどうやら一つ終止符を打たなければいけないようだ。
あの時の彼女はいったい何をしているのだろうか。
再び、その疑問が頭をよぎった。
次回から第八話です。




