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第七話『記憶と勝負』4

 「なぁ……もう他行っていいか?」

 謎の沈黙に包まれてからしばらく経った。ホント、静かだったぞ。

 さすがに俺でもこんな沈黙は耐えられない。茜は先ほど俺が取ったライトノベルを読んでるからいいけどな。

 「駄目だ。我が読み終わるまで待っておれ」

 「嫌だ。俺はお前の両親じゃないんだぞ。俺は忙しいんだ!!」

 「ぼっちなのにか?」

 痛い所を突くな。確かにぼっちは基本暇だが。しかし、暇がある事は素晴らしい事だ。忙しいという方がおかしい。あれ?結局、俺暇じゃん。

 「うるせぇ。ぼっちにはぼっちなりの事情があるんだよ」

 そう、ぼっちのためな。ぼっちのぼっちによるぼっちのための時間を。俺、リンカーンになれるじゃね?まあ、戦争とか止める程の力は要らないが。というか面倒くさい。そうか……。俺はぼっちの神になればいいんだ。はぁ~……。自分で言っていて凄く悲しい。

 「後少しだから、待っておれ」

 俺の残念思想に同情してくれたのか、茜は優しくそう言った。確かにもうすぐで終わりそうだな。

 茜は本を読むスピードがものすごく速いだ。四百ページぐらいあんのにな。

 「それ、面白いのか?」

 「ああ!! ものすごくな!!」

 「そうか……」

 あまりに即答過ぎて圧倒されてしまった。いつもよりも気迫が感じられた。

 すげぇな。そこまで好きなのか。やっぱり伊達に中二病に患っているわけではないな。

 茜が読んでいるのは意外にも学園ラブコメの本のようだ。てっきりファンタジー系かと思ったが。何だよ、しっかり恋する乙女やってるじゃないか。

 それにしても学園ラブコメと言うのは改めて考えるとやっぱり存在しないものだという事を思い知らされる。俺なんてラブコメのラの文字もない生活を送ってるぞ。

 でもだからこそライトノベルは売れるのだろうな。自分の理想を求めて。

 今の茜は何だか、昔の俺みたいだ。いや、茜とは全く同じじゃない。俺は現実から逃げる為に読んでいた。だが、茜は違う。好きだから、好きで好きでしょうがないから。それで、読んでいるのだ。そこが俺と徹底的に違う。そういう意味では茜の事は尊敬している。

 「何だ!! そこまでじっと見られると引くぞ」

 ああ、まったくだ。先ほどまでの俺の感動を返せ。

 別に見ていたわけじゃないのにな。時々こんな風の状況になる。

 「別に見てない。早く読み終われよな」

俺は待つのはあまり好きではない。某ランドだって必ずファストパスを買う。

 あれ、ないと俺は本当に困る。ファストパスはまさに神だ。

 「あと少しだ!!」

 先ほどよりも読むスピードが上がった。今にも暴走しそうだ。って俺は何で解説してんだ。

 それで、本当に読めているか気になるんだが。

 「ふぅ~……」

 「そこまでして本気になるか、ふつう?」

 そんな血眼になって頑張らなくてもなあ。

 別に暇だから待ってるぞ。ぼっちだからな。

 俺って何でもぼっちで片づけてしまう。俺、神だ。

 「先ほどよりおかしいぞ、雑種」

 そんな不審そうな顔で見るなよ。しょうがないだろう。

 「それはすまん。それで読み終わったのか?」

 「ああ!! 実に面白かった!!」

 「そうか。良かったな」

 俺は茜の満足顔が少し腹が立ったのでさらっと流した。

 「ああ!! 懸!! こんなところにいた!!」

 聞き覚えのある元気な声が聞こえた。と言うかさっきまで一緒だったしな。

 「おう。終わったのか、優姫?」

 「うん!! ばっちり!! いや」

 俺は急いで優姫の口を塞いだ。

 優姫は何か言おうとしているがまた変な事だろう。

 「おい!! 人がいるんだから、止めろ」

 「分かってるよ、懸」

 少し諦めた表情を見せ、すぐにいつもの笑顔に戻った。

 毎度切り替えが早いな。

 「ぐっ。こやつは、雑種の恋人か?」

 何、やられてんだよ。こういうの苦手なのか。

 「そんなわけあるか。俺の従妹だ」

 そう言うと茜はほっとしたようだ。

 「だよな!! 雑種に恋人なんているはずない!!」

 「喧嘩、売ってんのか」

 「まあまあ。私は懸の従妹の杉山優姫です!! まあ、言っちゃえば遠い親戚? いや、いやらしいかんけ」

 「アホか」

 俺は優姫にデコピンをした。遠い親戚でいいだろう。

 一々、いやらしい関係とか付け足すな。

 「取り敢えず今月中はここら辺にいるから、よろしくな」

 俺はそう簡単にまとめて言った。

 「ふむぅ……従妹……全く似てないな!!」

 「うるせぇ。従妹だからしょうがないだろう」

 と言うか似てなくて逆に良かった。だが、その笑顔で言われると何か腹が立つ。

 「逆に似すぎてたら怖いから。クローンかよ」

 「考え方も全く違うな!!」

 「いえ、私と懸はアツいか」

 「お前は入ってくるな」

 俺はもう一度デコピンを喰らわせた。懲りない奴だ、まったく。

 「うぅぅ……。それより、懸この人と何をしていたの?」

 「うむ。我の読書に付き合ってもらっていたのだ」

 おお。話が分かっていて助かる。

 俺、少し感心した。

 「また今度、願い聞いてくれ」

 「はいよ……」

 そう言う事か。だよな。期待して損した。

 「そういう事ならいいけど」

 何を心配してんだよ。俺、指名手配されてんの。

 心配にも程がある。

 「この後どうするんだ? 何もすることないぞ」

 これがぼっちの生き様である。暇こそ神。忙しいは邪道。

 「帰るか」

 「それは駄目」

 「駄目だ」

 何でだよ……。お前たち、息ぴったりだな。シンクロしたらいいんじゃないか。

 「じゃあ、どうするんだよ。ここでぼうっとしてるとか嫌だからな」

 「それでもそうだな……」

 そう言って茜は黙ってしまった。肝心の所を説明しろよ。

 「君たち? いったい何をぼうっとしているんだ?」

 うん?誰だ。男性の声だな。少し真面目そうな声だな。

 俺は気になったので後ろを向いてみるとまさに真面目そうなメガネをかけた男子だった。

 俺たちと同じくらいか。高校生だな。

 「いや、やる事が無くなってしまって」

 「そうか……。では、僕とゲームをしないか?」

 「え?」

 予想外の答えに驚いてしまった。

 ゲームとはな。何をするのだろうか。

 茜も優姫も少し動揺しているようだ。まあ、真面目そうな人がこんな事言うもんだしな。

 「別に構わんが……」

 帰ると手段がない以上、こう答えるしか。俺の選択肢少ないな……。

 「よし!! ではついてこい!!」

 そう言い、その男子は俺たちを誘導した。

 


 

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