第六話『痛い病と弱点』1
五月。春でもなくまた夏でもなく中途半端の月だ。初夏だからといって全然夏らしくなく本当に中途半端だ。
そして、俺もまた中途半端に変わった生活を送っている。あれから、少し変わった事がある。五月の中旬に差し掛かっていた。
「おお、杉山!! これ運んでくれ」
「はい……」
「あら、杉山君!! 丁度良かったわ。これ、お願いね」
「分かりました……」
そう、俺はぼっちからパシリぼっちになったのだ。いやいや全然嬉しくないんだが。
あの大会のおかげで他の男子や女子に冷たい視線は来なくなった。だが、ぼっちはぼっちだ。ただ相手にされなくなっただけだ。
結局俺はぼっちなのである。先生に使いまわしにされて本当に疲れる。
「はぁ~……」
俺のため息は一日に一回程度の割合で出る。本当に良いことないな。
「杉山さん!!」
「次は何ですか? もう勘弁してくださいよ」
「あの……私です」
よく見てみると花澤だった。と言うか俺そんなに疲れてるのか。もう本当に休みたい。
「何だ、花澤か。どうした?」
「いや、あの……手伝いましょうか?」
「本当に良いのか?」
「はい!!」
たまにこうして花澤が俺の仕事を手伝ってくれる。花澤はいい奴だ。決して悪くない女子だ。
ただ、相変わらず花澤と一緒にいると男子の視線が痛い。それだけは今になっても変わらない。
「そうか。じゃあ手伝ってくれ」
「こっち持ちますね」
「ああ、頼む」
俺は半分を花澤に渡した。
「あら、相変わらずパシられているのね」
「うるせぇ、先生に好かれているんだよ」
いつも通り毒舌全開の姫野が俺たちに話しかけてきた。
「そうかしら。授業中は先生に全く相手にされていないのに」
「……!! 痛い所突くなよ」
俺は生徒にもそうだが先生にもあまり好かれていない。
『ええと杉山……には無理か、佐藤』
それぐらいの問題分かるから。俺結構頭いいんだぞ。
中学生時代の先生の態度を思い出してしまった。俺、嫌われ過ぎだろう。
「まあまあ、姫野さん。姫野さんも手伝いに来たんですよね?」
「違うわよ、ただ通りかかっただけよ」
「どこまで俺に冷たいんだ。お前の言葉で世界中凍るぞ」
こいつには氷の女王がピッタリである。本当に。
くそっ。姫野に弱点はないのか。
「でも流石にこの量を二人では大変なんですが……」
「まあ、花澤さんが言うなら別にいいわ」
俺にもそれぐらい優しくくれよ。寒暖差激し過ぎだろ。
「どうしたの? 早く私に渡して。手伝ってあげるから」
「ああ、頼むよ」
俺に対してその上から目線は何なんだ。俺は奴隷ですか。
「そういえば、杉山さんと姫野さんは実力テストどうでしたか?」
俺たちが職員室へ歩き始めた頃花澤がそう聞いてきた。
「実力テストかぁ……。まあまあだな」
ゴールデンウイークが終わった後すぐに実力テストがあった。なのであまり休めていない。
ちなみに定期テストは六月の最初にある。この時期はテスト三昧だ。
「姫野さんは?」
「えっえっ。私もそこそこよ」
うん?姫野がそんな態度を取るなんて珍しい。まさか。
「花澤はどうだったんだ?」
「私もまあまあです」
「でも俺は英語とか国語は完璧だな」
まあ数学や理科はあまり自信ないが。ぶっちゃけ、俺は文系の人間である。
「私も案外英語は出来たはずです」
「姫野はどうだったんだ?」
そう俺が聞くと急に機嫌を姫野は悪くした。
「あら、人にテストの事聞くなんて失礼じゃないかしら」
「いいだろう、別に。それとも自信ないのか?」
やっぱり英語とか苦手なのか。
「まさか。そんなわけないじゃない。私は天才よ」
凄い自信だな。よしならば、
「じゃあ私は天才ですって英語で言ってみ」
「もっもっもちろんよ。アイ・アム・ビート」
「そりゃあてんさいだ。と言うかそっち知ってて何で知らないんだよ。逆に凄いな」
ドイツでとれる大根のようなてんさいは英語でビートと言うらしい。某大御所の芸人さんはここから芸名を付けている。
「ジーニアスだよ。お前、英語苦手なのか?」
驚いた。本当に苦手とは。花澤も少し苦笑いをしている。俺は心底から笑いたいけどな。
「うっうっうるさい!! たまたまよ。」
図星か。姫野は痛い所を突かれて動揺している。
「まあ、明日返されるからそれで分かるか」
「見たら、殺すわよ」
怖いです。本当に見たら殺されそうだな。怖い。
「まあ、取り敢えずこれ、職員室まで届けましょう」
「ああ、そうだな」
「ええ」
よし。俺は姫野の弱点を手に入れたぞ。
俺も数学大丈夫かな。少し不安になってきた。




