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第五話『試練、そして少し変わる日常』1

 「みん~な!! 高校生活、楽しんでいるかい!!」

 司会を務めるのであろう一人の生徒が声を上げた。

 「うおおおぉぉぉぉ!!!」

 立ち待ち会場は歓声で溢れた。

 「今日は一日楽しもうぜ!!」

 「うおおおぉぉぉぉ!!!」

 それにしても凄い歓声だ。まさか歓迎会がこんなに盛り上がる行事だとは思わなかった。

 東隠学園では歓迎会は一日行われる。普通なら一、二時間で終わってしまう行事だ。主に部活や高校について紹介される。だがそれだけではない。吹奏楽部が二、三曲演奏したり演劇部が劇を披露したりイベント盛りだくさんだ。

 この高校はどうやら行事に力を入れているらしい。この歓迎会は別名『もう一つの文化祭』とぐらい言われるビックイベントなのだ。しかも歓迎会用の会場もある。まあ今回、俺はあまり楽しめなさそうだが。

 大食い大会は午後に開かれる。午前は部活動紹介が主に行われる。精神的に疲れそうなスケジュールだ。

 「杉山っち!! 楽しみだね、大食い大会」

 「ああ、そうだな」

 俺はそう答えた。霧島はつれないなとでも言いたそうな顔をしてさらに話しかけてきた。

 「相変わらずだね。今日ぐらい楽しもうよ」

 少しは空気を読んでくれ。

 会場全体は歓声で溢れているが俺の場所は相変わらず冷めた空気である。男子からの痛い視線。女子からの冷たい視線。

 ああ、これがぼっちの象徴なのか。まさか歓迎会までこんな状況になるとは。運がないのも大概にしてほしい。

 「なぁなぁ、午後には大食い大会があるんだよ。そんな調子で大丈夫か?」

 だから空気を読め。霧島が俺に会話しようとすると余計に視線が強くなる。だが当の本人はその事に気づいていない。リア充男子ってこんなに鈍感なのか。これも一種のスキルなのか。

 「別に大丈夫だ」

 本当かみたいな顔をしたがすぐに爽やかフェイスに戻った。

 ちなみに姫野と花澤は俺たちの向かい側に座っている。つまり俺が会話出来る人は霧島しかいない。だがその代わり痛い視線を浴びることになるが。

 俺にとってはこういう行事ほど修羅場になるものはない。

 「ではまずは部活動紹介からです!!」

 そう司会が言った後次々に紹介が始まった。運動系も文化系も多種多様な部活があり、とても充実している。

 「やっぱり部活と言ったらサッカーか。いや野球もはずせない」

 大抵の男子はそればかりであろう。俺は今の所運動部に入る予定はない。

 あまり俺にはいい思い出がない。どうせやるなら個人競技のスポーツをやりたい。団体競技は好きではない。失敗するとある男子は舌打ちしたり睨んだりするしな。

 先生はみんなで仲良くやろうねと声を掛けているがそんなものは実現しないことが中学生の時知ってしまった。そう、スポーツに平等はないのだ。

 「元々人は一人生きていくものだ。だからわざわざ……」

 「また始まった。杉山っちのぶつぶつタイム」

 「勝手に名づけるな」

 どうやらつい声に出してしまったようだ。昔から悪い癖だ。

 「杉っち、部活何にするんだ?」

 「急に呼び名変えるな」

 俺たちは親友かよ。馴れ馴れしいに程がある。まあそんなに気にしてないが。

 「別に良いじゃんか。で何にするんだ?」

 「俺は今の所特にないな」

 「そうか。でも似合ってるな」

 それはどういう意味だ。俺には帰宅部が良いと言ってるのですか。まああまり否定出来ないが。

 「霧島はどうなんだよ?」

 「ああ、俺か? 俺も特に決まってないな」

 驚いた。てっきりサッカー部か野球部に入るって言いだすのかと思ったが。

 「お前は帰宅部なのか?」

 「違うよ。俺は部活を作ろうかなと思ってるんだ」

 「はあ?」

 「そんな目で見ないでよ。あくまで予定だから」

 部活を新しく作ろうか。それも悪くないかもしれない。

 「まあ取り敢えず午後は精一杯頑張ろう」

 「そうだな」

 しばらくこのような会話が続き午前の部はあっという間に幕を閉じた。

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