第三話『ありえない現実と非休日』3
こころに言われた場所に行ってみると会場は人だかりができていた。
「へぇ~。この食べ歩きはそんなに人気なんだな」
「そうだよ!! この祭典はもう何回も開かれてるんだよ!!」
「それにしてもよくそんなの知ってるな」
「こころは食べ物界のウィキペディアって呼ばれてるから。どうすごいでしょ? ねぇ、お兄ちゃん」
「誰から呼ばれてるんだ」
「お兄ちゃんから」
「ウィキペディアのうの文字も言ってないぞ。お前は嘘つき界のウィキペディアに改名したほうが良いんじゃないか?」
こころは少し残念そうな顔をした。
「ちょっとくらい良いんじゃん。嘘ついたって」
いやぁ、拗ねられても困るんだが。
「皆様!! 間もなく始まりますのでもうしばらくお待ちください」
会場から運営の声が聞こえた。
「さて、もう少しだな」
「まだかな、まだかな。心、待ちきれないよ」
さっきとはうって変わってとても笑顔だった。本当に食べるのが好きなんだろうな。そんなソワソワしているこころを見ている内に時間は過ぎ、
「皆様!! お待たせしました!! 慌てずご入場ください」
まあ、そんな忠告を聞かず、参加者たちは走って行った。もちろん俺は走らない。そんなことしても疲れるだけだしな。ここは空気を読んでこころも走らないはず。
「なぁ、心……。っていねぇ……」
あいつ、行動までも幼くなったか。俺も結局走るはめになった。
会場の中に入ると焼肉、ステーキなど肉系の料理店が沢山並んでいた。
「お~い、心!!」
あいつはいったいどこに行ったんだ?まずはどこに行くだろうか?まあいいや。あそこから行こう。あれ?なんか引っ張られてるような。
「お兄ちゃん。心、お金持ってなかった」
そこには裾を引っ張っている心がいた。
「お前もうっかりか。と言うか全部俺のおごりかよ」
「テヘっ☆」
こういう時の可愛い顔ってなんか腹立つ。
「まあいいや。とりあえずどこから行くんだ?」
「う~ん……。じゃあここ」
そう言われて心に連れてこられたのは……。
「いきなり高級品の店かよ!!」
何処かの女王様なの、心は。
「そうかな? ここの黒毛和牛のステーキ二千円だよ?」
「以外に安いな。ってそうじゃない」
俺のお財布事情を知らないだろう。
「それに客も結構いるし……」
「食べ物は並んでこそ意味があるんだよ!」
そんな今にもよだれが出そうな顔で言われても全然説得力ないからな。後、隣の店全然並んでないぞ。店員凄い暗そうだし。誰か可哀想だから並んでやれ。
「他にいいところあるだろう。他の所にしてくれ」
「うぅぅ……。いいじゃん、お兄ちゃんのケチ」
こういう時だけそんな泣きそうな態度とるな。可愛いから。
「はぁ~……。分かったよ」
「いいの!! やったぁ!! お兄ちゃんありがとう」
あぁぁ。妹が欲しい。いかんいかん。この後もこころに高級な物ばかり買わされて俺の財布はすっからかんになった。ちなみに高級店の隣の店にも一応行って買った。