第三話『ありえない現実と非休日』2
「……で何の用だ?」
ひとまず駅前で話すのもなんだから公園まで俺は連れてきてしまった。
「えぇぇっ!! お兄ちゃん、約束忘れたの?」
先ほど買ってきたジュースを飲みながらそう尋ねてきた。
「約束も何も会うのはこれが初めてだ」
「もしかして記憶喪失!? 可愛そうなお兄ちゃんお兄ちゃん……」
「何度お兄ちゃんって連呼するな。妹が欲しくなるだろうが。」
危ない。あと少しで缶コーヒーを吹き出しそうになったじゃないか。
「もう……。お兄ちゃん、本当に忘れてるの?」
「まず俺には妹などいない!! 一人っ子だ」
だから俺には妹は存在しない。とにかく今までの姫野と様子が違う。今日はツインテールで白いワンピースを着ている。
「名前は姫野心。どう? これで心のこと思い出してくれた?」
「悪いがその名前にも聞き覚えがない。つまりこころは別の人格の人なんだな?」
「人格? 何言ってるの、お兄ちゃん?」
どういうことだ。こころは別の人格があることを知らないのか。
「いやぁ……。こころも呪いの持ち主だろう?」
「うん、そうだよ。心はね、『お兄ちゃんしか愛せない』という呪いがあるよ」
「なんて好都合な呪いなんだ。それは呪いと言うのか?」
『人格はそれぞれ別の知識と記憶を持つよ』
ああ、そういうことか。俺は桜が言っていたことを思い出した。
「確かに心にとっては嬉しいことだけど社会的にはまずいよね。だけど食べ物は別だよ!! 食べ物とお兄ちゃんだけが心の幸せなの」
「俺、食べ物と同類なの。」
「そんなことないよ。今ならフライド系といい張り合いしてるよ」
「それ、全然カバーになってないから。しかもファストフードかよ」
ってそんなことより呪いについて聞こう。
「なぁ、心? 心は呪いについて何か知ってないか?」
心はジュースを飲みほし、少し考えてから答えた。
「詳しいことは分からないけど、呪いを解く為には呪いを持った人の願いを全て叶える必要があるらしいよ」
「らしいよ……って誰から聞いたのか?」
「う~ん……。分かんない」
「分かんないのかよ」
「ごめん、お兄ちゃん。心が知っているのはこれだけだよ」
しょぼんとした顔をして俺を見ている。こうして見るとそういう顔も女子は可愛いんだなというくだらない事を学んだ。
「少しは分かったから、ありがとう」
「ありがとう、お兄ちゃん大好き❤」
「おぉぉい、抱き着くな」
俺のほうに心は抱き着いてきた。本当に精神が幼女化してるんだな。いつもなら殺されるぞ、こんなことしたら。
「お礼に心のお願いを叶えて」
「それはお礼じゃないから。なんで俺がお礼する立場になってるんだ?」
今までよりはマシだがやっぱり姫野は姫野だ。どんな人格でも共通点があるみたいだな。
「あそこで何やってるのかしら?」
「いやぁね」
まずい。とりあえず俺はこころをどけた。
「うぅぅ……。酷いよ、お兄ちゃん。心の願い、聞いてくれない」
おい、そんな涙目になるな。俺が悪いみたいになってるじゃないか。これが普通の妹なんだろうな。やっぱり理想の妹はどこにも存在しないらしい。
「分かった、分かった。いいよ。別に構わない。暇だしな」
「ありがとう、お兄ちゃん❤」
そう答えるとすぐにこころは笑顔になった。小悪魔か。人の目を使うのが上手なようだ。
「それで、願いは何だ?」
「それはもちろん……食べ歩きだよ!!」
俺のスマホを使って調べて俺に見せた。
「食べ歩きツアー?」
「そう!! これがここの近くでやってるから、行きたいの!!」
確か食べる好きだったな。
「分かった。じゃあ行こう。それよりお金は?」
「お兄ちゃんが払ってよ」
「ですよね……」
「よし!! 沢山食べるぞ!!」
妙にやる気を出した心に、俺はついていけなかった。結局俺には休日はないらしいな。まあ、これもありか。ああ、俺の今月のお小遣いがぁ……。