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1.開始―6


 成城は急にタメ語になったな、なんて思ったが、そんな事は思ってもどうでも良く、考え、応える。

「……この、今いる村。こういう建造物ってのはやっぱり、日本とかアジアの一部でしか見れないだろうし、日本である可能性は高いと思うけど」

 少ない情報で考えて出した結果だった。今時、石造りの家等、本土にはほとんど存在しないが、こんな小さな人のいない島があるならば、そういう過去の産物が残っていても、問題はなさそうだ。

 そう思った、からこそ、成城はそう応えた。

「……そう、ですよね」

 口調は戻った。が、素っ気ないな、と成城は思うが、当然口にはしない。

 話は現状に戻して、話を続ける。

「ところで、高無さんは、俺、砂影君、それ以外には誰も何も、見ていないの?」

 問う。

 頷く。

「全く、見てないですね。……今思うと、動物の一匹も見てなかったかもしれないです。……おかしいですよね、これだけ『人の手がついてない自然』があるっていうのに……」

 聴いて、同じか、と成城は思った。

 村というモノがあり、そこに人間がいないという事は、過去に人間がいたという事。村の惨状を見れば、素人目でもそこに人がいなくなってから数年が経過していると分かる。つまり、自然に人の手が加わっていない。故に、人間以外の生物にとっては環境状況以外で考えれば、最高の住処となる。が、蟻一匹、見る事はなかった。

 何かが、おかしい。――とは、思わなかった。そこまで、気が回るはずがなかった。

 そこまで会話を交わしたところで、木製の扉が数回ノックされた事で、二人の会話はぴたりと止まり、ノックされた扉へと向かう。

 警戒。当然だ。扉の向こうにいるのが、砂影だとは限らない。

 が、

「俺だ。開けてくれ」

 聞き覚えのある影。二人がその声から連想するは当然、砂影だった。

 成城が真っ先に立ち上がり、高無に動くな、という意思で掌を向けて、すぐに扉へと向かった。そして、開けた。僅かに隙間を開けて先を確認してから、というつもりだったが、鍵が空いたと同時に砂影が扉を開けた事で成城は数歩下がる事になった。

 入ってきたのは、声の通り砂影であった。

 砂影は入って来るなりすぐに入ってきた扉を閉め、二人と、部屋の中を確認していた。して、すぐに、

「よかった。少し落ち着けるな」

 そう言って、成城と共に囲炉裏の前へと戻り、腰を下ろした。

 成城も高無も、砂影の衣服に付着する返り血の後が増えている事に気付いた。ほとんどが既に衣服に染み込み、ある程度乾き、変色して遠目に見ては気づけない程になっているが、先の敵を倒してきたのだろう。まだ真新しく、蛍光色の緑に輝いている血液も残っている。そしていつのまにか、腰に刀二本を結びつけていた。

 が、当人は全くそれについては気にしていないようで、腰を下ろしたところで、二人を一瞥し、そして、深い溜息を吐き出した。

 その直後、言う。

「さて、やっと落ち着けた。……全て、話し合おう。いいかな?」

 砂影は言って、二人を再度一瞥する。砂影は気を遣っているのか、表情を見て分かる程度に明るくしていた。まだまだ、気を落としている場合ではない、と二人を励ましているようだった。

 二人は当然首肯した。二人にとっても、それは、損ではない。

「じゃあ、俺から話そう。俺が話を持ちかけたんだから当然だ。聞いてくれ」

 そう言って、砂影は一度の咳払いの後、語りだす。

「俺は……覚えている限り、仕事の後だ。会社からの帰り道、気づいたら、ここにいたって感じだったな。意識が途中で途切れた、というか、記憶が帰路の途中までしかない、って感じだ。そして、目覚めたら、この島にいた。起きたら、この刀、」長さのある太刀を指して、「が入ったブリーフケースと、山頂で言ったメモがあった」

 武器の事を話され、成城は、砂影の持つ打刀が、自分のブリーフケースに入っていたモノではないか、という推測を思い出した、が、この場では、口を挟まなかった。成城には、砂影がそういうことをする人間に思えなかったからだ。

 今、砂影は太刀が自分の武器だと宣言したばかりだ。だとすれば、打刀についての話もあるはずである。

 砂影は続ける。

「とりあえず俺は武器を取って、目に入った山の頂上を目指した。あ、言い忘れてたけど、俺が目覚めたのはここから東に行ったところだ。建物とかもあったし、確認したが、そこで敵にあったり、味方にあったりはしなかった。それどころか生物一匹みなかったよ」

 そう言って苦笑する。散々だった、と言わんばかりだった。

「そのまま山頂に到達、するわけにはいかず、道中で敵にあった。君達二人も知っているだろうけど、あいつらは、人間の格好をしているんだ」

 そこまで語ったところで、口を挟んだのは、高無だった。

「あ、あの。質問……です」

 と、僅かに前のめりになり、手を上げるように手のひらを砂影に見せる高無は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。

「あぁ、敵の事だよね、今、続けて話すよ」

 砂影はそう言って、笑んでやり、続ける。

「敵は、……なんなんだろうな。とにかく、俺の知る限り、人間じゃない。君達も見たはずだ。あいつらは形こそ人間のそれだが、体中に流しているはずの血液は、緑の蛍光色で、粘着質だ。あれだけ粘着質だと毛細血管まで流れていないのではと思う程にな。今の所、俺が確実に、といえる見分けが出来るのは、血液の色だけだ。あとは舐め腐ったような態度を取ったりもするからわかりやすいと言えばわかりやすいが……、人間に、いや、味方にも、そういう人間がいる可能性もあるから、確実じゃあない」

 言われて、成城と高無は見た光景を思い出す。

 思い出すと、先程砂影が見ただけで二人に先に逃げろと言ったのは、彼の経験則と、念を押して、という事だったのだと分かる。

「で、だ」

 砂影は続ける。

「山頂に上るまでで二匹、倒した。この刀でな」

 言って、強調する様に太刀を揺らす。その仕草を見た成城は、やはり、打刀は最初から砂影に与えられた武器ではないのだ、と思った。

「その後、だ。山頂で話した時に言った、もう一つのメモの人物が現れた。名前を聴きはしたが、応えるどころか、攻撃を仕掛けてきたよ。……純白の武器でね」

 純白の武器。言われて、聞き手の二人が連想したのは当然、支給された武器の存在だった。それと同時に、思い出す。

「あ、そう言えば、あの……敵? は、真っ黒の武器を、」

 高無がそう言った所で、砂影は頷く。

「その通り。まだ、全てを確認したわけではないから、はっきりとした事は言えないが、恐らく、俺の推測だと、俺達味方側に支給された武器が純白で、敵が漆黒なんだと思う」

 推測を言い終えた砂影は、さて、と確認を続ける。

「見たとは思うけど、あいつらは武器をいつのまにか手に持ってる。だから、確認はできないんだ。武器を取り出すまではね」

 さて、と本題は話に戻される。

「その男と戦ったよ。俺は、当然最初は敵だと思って応戦したからね。斬ったよ、その男を。でも、動きがよかった。その男も。だから致命傷になんてならなかった。ただ、片目は潰さしてもらったけどね。でも、斬った時、」

「血が、……赤かったのか?」

 成城の言葉に、砂影は頷く。

「そうだよ。その男の目、斬られた所から吹き出した血は赤かった。だから、俺も攻撃の手を止める事にした。相手も目を潰されたからだだろうか、そこで、引いてくれたよ。その際にこっちの、刀を奪わせてもらった」

 言って、砂影は打刀を揺すった。

 当然、ここまでくれば、成城の疑問が出てくる。

「……、その男は、他に武器を持ってなかったか?」

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