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4.能力






4.能力






「これからどうするか、それが、問題だと思うけど……」

 橘の言葉に、霧崎は頷いた。

「あぁ、その通り。正直、テストを終わらせる事はそこまで難しくないはずだ。俺もいるし、成城君、砂影君と力を既に手に入れた人間が二人もいるんだ。問題の敵も、どれほど強いのか検討もつかないけど、きっと大丈夫なはずだ。やっぱり問題は、能力を手に入れなきゃいけないって事。正直、俺も能力を手に入れずにテストをクリアして、その後、とまでは保証できない。きっと、どうにか外へと逃げ出しても、秘密を知っている以上は殺されるだろうね。理由はさっき言った通り、宇宙人の存在とこのテストを知っている以上、情報が宇宙人にどうにかして漏れたらそれこそ世界的な人類の危機に陥るからね。だから、極力皆、能力を手に入れてもらいたい。でも、運なところもあるから。能力がない人でも、有能な人材は事務員として抜擢されるなんて話しも聴いた事はあるけど、実例があるのかどうかもわからないから、極力、皆がいるところで俺が敵を倒す」

「俺も倒すよ」

 成城が言うと、霧崎は嬉しそうに頷いた。

「助かるよ。皆で出よう」

 霧崎からそれぞれにまとめて伝えられたこのテストの通常のクリア条件は、敵を殲滅し、つつ、宇宙人から能力を奪っている事、である。

 つまり、敵を殲滅しきっても、敵の持つ能力を奪って自身のモノにしていない時点で、この島から出たところで、機密保持のために殺されてしまう、という。

 その機密保持の理由は霧崎でさえも頷く事しかできず、それは絶対だと言う。

 そして、

「問題の敵って、どうなんだろうね。霧崎君がテストを中止にしろって言う程でしょ?」

 里中が問う。成城も橘も佐伯も、皆、その敵とやらが気になっていた。

 霧崎がこのテストに乗り込んだのは、その強敵がこの島、テストに送り込まれたため、そして、それに対して中止要請を出したが受け入れられなかったがため、である。

 つまり、敵はそれ程のモノである。という事だ。

 聴いた霧崎は眉を潜めた。考えるような間を数秒開けて、そして、静かに応える。

「……正直、勝てるとは思ってる。けど、気になる事もあるんだ」

「気になる事ってなんだ?」

 橘が食いつくように問うた。これは、聞き逃す事はできない、という反応であった。成城も目を尖らせる。里中も、耳を澄ます。全員が、知らなければならない事だ、という認識を持っていた。

「……まず一つ、俺が、テストに参加しても、排除されなかったって事。これはまぁ、前に言った通り、俺が『三位』だから殺しはしない、って理由がある可能性もある。けど、二つ目。……ここには、俺以外にももう一人、テストをクリアしている人間が、進入してるんだ」

「もう一人……? あの仲間殺しの男か?」

 成城が問うが、

「違う」

 霧崎は首を横に振った。振って、応えた。

「君達、じゃない。砂影君でも、成城君でもない。また別に、一人、進入してる。……つまり、被験者と俺とその人と合わせて、この島には人間が一二人、入ってたって事なんだ」

「まだ、会ってはないな……」

「だろうね」

 そこで一旦話しを切り、本題へと戻す。

「さて、話しはここまでだ。砂影君と高無さんと合流するよ」

 全員の腰が上げられる。

 ここまで話しを聞けば、十分だ。

 状況の把握、現実の解決方法、問題の定義が見えてきた。だとすれば、あとは脱出のため、クリアのためにひたすら邁進するしかない。

 何も変わらず、仲間は、絶対的に必要なのだ。生きている仲間は、救い出さねばならない。

「砂影君は村にいるはず」

「分かった。急ごう!」

 成城、霧崎、佐伯、橘、里中の五人は、山を出て、これから村へと向かう。砂影が高無を救出しているはずの、村へと。

(まだ時間はそこまで経ってないはずだ。移動したとしても、砂影君ならきっと、俺達にわかるような場所に移動しているはずだ。信じよう)

 成城は特に、砂影の力を信じている。助けてもらった恩もあり、経験でもある。信じる他、出来るはずがなかった。

「成城さんっ!!」

 あの機械の部屋から外へと繋がる長い階段から外へと出たその瞬間。成城へと飛びついてくる影が一つ。

「高無さんッ!?」

 能力を手に入れ、超人的な反応を持っている成城は、すぐにそれが高無だと理解し、素直に受け止めてやった。胸元に落ちる高無の顔を見ると、恐怖の色が、伺えた。

 何があったのか、と当然誰もが思った。代表し、成城が問う。

「何があったんだ? ……それに、砂影君は……?」

 返ってきた返事は、泣き啜る音と共に、

「バケモノに、殺されちゃったの……!!」

 絶望の説明であった。





「よし!! ……よっしッ!! やってやるよ。見てくれが変わっただけじゃねぇかッ!!」

 砂影は自身を奮い立たせるように叫び、そして、立ち向かった。

 目の前に立つは、巨大な異型の宇宙人。蟷螂と人間と、更に何かを混ぜたような形状のバケモノに、当然恐怖していたが、負ける、という考えはなかった。挙句、逃げるという考えも、持てなかった。

 理由は二つだ。一つ、動けないでいる高無が傍で横たわっている事。

 二つ、相手は、何かしらの遠距離攻撃を持っているのだ。砂塵の舞う中、正確にかどうかはまだしも、狙いをつけてその謎の攻撃を砂影自身に当てたのだ。背中を見せれば、逃げ切るよりもまず、殺される可能性の方が高い。

 横っ腹は風穴を開けられた。つまり、二発とも貫通していた。大きさから銃弾程だと思ったが、感覚は違うと告げていた。

 反応こそできなかったが、砂影には先の攻撃自体は見えていた。

(レーザーかってな)

 連想したのは、ウォーターカッターのような、連続的に発射され、レーザーのように見えたモノだった。が、水ではない、とすぐに気づけた。

 血がすぐに止まったのは、何も砂影が超人的だから、というだけではない。

 単純に、『ソレ』が貫通した傷口が、焼けたからである。

 それも、ある程度は回復したのだが。

 砂影は二本の刀をしっかりと構える。無闇矢鱈に突っ込む真似はしなかった。あの攻撃もそうだったが、相手が、どんな動きをしてくるか、どんな攻撃をしてくるか、予想がつかないのだ。もしかすると、接近した時点で死を免れない可能性だってある。

 様子見、だ。相手の攻撃を伺って、それを受け止めるか躱し、そうやって相手の攻撃の種類を記憶していき、対策を立てる。考え方は簡単でも、それなりに動ける人間でなければできない技である。

 砂影が僅かに膝を落として体勢を低く、しっかりと構えた時点で、敵の、手が動いた。

 右手が前へと伸ばされた。と、同時、

「ッ!!」

 砂影右へと大きく飛んだ。そして、その砂影すれすれを、敵の右手から突如として銃弾の如く発射された何かが、通り過ぎた。

 その際、砂影はそれを目で追った。敵が右手を上げた際、まず想像したのが今の攻撃で、正体を掴めるならば、掴んでやろうと判断したからだ。

 だが、ステップ後に着地し、砂影が下した判断は、

(やっぱりレーザーじゃないか)

 どうしようもなく、今現代の科学の範疇から超えている、SF映画でもなければ見る事の出来ない攻撃手段であった。

 と、なると、それは避ける以外にない。

 武器を失う事は当然避けたい。仮に二本持っているからといって、レーザーを刀で防げるという確証がない以上、片方でも犠牲にする事は出来兼ねる。

 飛んですぐ、砂影は地を蹴って大きく後退した。

 が、敵も迫ってきていた。

(早いッ!?)

 八本の足が奇妙な動きをしながら、戦車の如く砂影へと距離を詰めてきていた。今の攻撃は、今の距離だと躱されるという事を学んだのかもしれない。

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