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3.分断―12


 砂影が、ここで初めて膝を地面に落とした。左手で刀を持ったまま、風穴を開けられた腹部を抑える。見てみれば、抑えているその手の指の隙間から、真っ赤な鮮血が漏れ出していた。

 なんだ、と思った。砂影は、今の攻撃が銃撃でない、と気付いていた。

 顔をゆっくりと上げる。そして、薄くなってきていた砂塵の幕の向こうに見えたのは、

「なんだ……ッ!?」

 宇宙人の、姿であった。





「宇宙人は、能力以外にまず、前提として、その姿を変化させる特性を持ってるんだ。これは、個々のオリジナリティじゃなくて、宇宙人という種族の、オリジナリティ。だからこそ、連中は『人間社会に混じる事ができている』んだ」

 機械の部屋にて。集った成城、橘、里中、佐伯に、合流したばかりの霧崎は自己紹介を終え、ある程度の話しを済ませると、そう説明した。

「なるほど……。だから、連中は人間の格好をしてたんだ」

「流石成城君。聴いてた通りの鋭さだ」

 そう言って笑った霧崎は、補足説明をする。

「連中の姿を変えるって行為は、幻覚を見せる、とかそういう視覚的な問題じゃなくて、完全に変身だ。だからこそ、戦う相手にあった変身が出来る。ある程度の条件とかはあるようだけどね。……だから連中は、人間と相手をするのに、人間の姿を選んだ。それが連中の中で対人類の常識に長い時間をかけてなって、今みたいな状況になってるんだね」

 霧崎の言葉を聴く四人、の内特に二人、女性陣。橘と里中、更に言ってしまえば、特別、里中が、唖然としていた。

 宇宙人の存在も、目の前にしていて理解していが、いざこうやって他人に肯定され、説明されると、更に現実を突きつけられるようで、思わずそんな間抜けを晒してしまっていた。

 成城、そして橘は比較的冷静であった。佐伯は既に一度話しを聞いているからこそ、落ち着けていた。それに、佐伯に至っては既に霧崎の能力も見ている。話し程度で驚きはしない。

「なんていうか。すごい事に巻き込まれた感じ。いや、言葉そのまんまか」

 橘が額に手をやって困ったようにそう呟いた。里中はまだそこまで考えが追いついていないようである。

「俺も被験者だった時はそう思ってたよ。なんでこんな状況に、なんでこんな事に、ってね。でも、まぁ、結果オーライというべきか。能力を手に入れてから、確かに生活には困らなくなったからね。俺すっげぇ貧乏だったからさ」

 そう言って冗談めいて笑む霧崎。霧崎なりにこの現状に置かれた三人を気遣ったつもりだった。

 




「なるほどッ!! これが宇宙人って事か……ッ!!」

『その一撃』を刀二本で受けとめ、弾ききれないと感じ取った砂影は相手が『その一撃』を振り切る力を利用して、大きく後方に飛んでその相手と距離を取った。

 砂影が冷や汗を頬から顎へと垂らしていた。それを拭う余裕はない。視線も顔もぶれない。真っ直ぐに、その相手を見ている。

 刀を握り直した。緊張のために溢れ出すような手汗が気になって仕方が無かった。

「はぁ……よし、大丈夫だ。落ち着け、俺」

 砂影が相手と正対している。巨大な、相手とだ。相手の足元には家が崩れ落ちた瓦礫が積もっている。そしてその中に、清瀬の身体は消えた。消えていた。瓦礫が大きく、数も多いため、指一本見える事はなかったが、確かに、その中に埋まっているはずだ。もしかすると、体中潰され、既に死んでいるのかもしれない。

 顔はぶらさない。視線も意図的に釘付けにしている。

 見えるのは、宇宙人。

 そうだ。変身していない、宇宙人の本来の姿である。

 砂影は恐怖していた。その未知と正対して、まだ戦う覚悟と意思を持っているだけ十二分にすごいのだが、確実に、恐怖していた。

 身長、いや、全長は大凡二メートル。何かに例えるなら、虫だ。蟷螂が、一番近いか。顔は特によく似ているが、触覚の代わりに角のようなモノが生えている。上半身は人間に近いが色、形、何を見ても人間でないと分かり、下半身はそれこそ蟷螂のようであるが、筋肉質且つ細く、不気味な虫を連想させる足が合計で八本生えていた。上半身から生える二本の腕の先は人間のように手があるが、どれも鋭く尖っていて、触れただけで皮膚が切り裂かれてしまうだろう。と容易く推測出来た。

 これが、宇宙人。人なんて文字は使うが、人とは言えない。やはり、虫が、一番近い形である。

(超こえー! 宇宙人やべぇ!!)

 内心は、パニック寸前だった。いくら取り繕おうが、怖いモノは、怖かった。主婦がキッチンに飛び出してきたゴキブリに怯えるように、子供が暴力を振るう父親に怯えるように、学生が強面の教師に怯えるように、人間が、宇宙人に怯えるのは必然的である。

 いくら砂影であろうが、見慣れないモノ、それが宇宙人であれば尚更、恐怖するのは当然である。

 風穴を開けられた横っ腹は、まだ、傷んだ。

 血の流れは大分落ち着いた。抑えていなくても溢れ出す事はない。

 これが、宇宙人の能力を手に入れた超人的な力を持つ人間の驚異的な回復力である。『あの時』、成城が強烈な打撃を受けてもなお、すぐに立ち上がれた理由でもある。

「よし!! ……よっしッ!! やってやるよ。見てくれが変わっただけじゃねぇかッ!!」

 砂影は自身を奮い立たせるように叫び、そして、立ち向かった。

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