表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/74

2.人間―11


 言われ、成城はすぐに判断した。この男、そして高無は砂影に任せて大丈夫だろう、と。そこまで判断すれば、すべき事は理解出来る。

「里中さん、橘さん。俺達は別行動するよ。着いてきて」

 成城が二人にそう声を掛けて、すぐに歩き出した。里中と橘は一瞬困惑したが、すぐに成城の背中に続く。別れ際、

「信じるから」

 橘が砂影にそう言葉をかけると、砂影は武器を構え、男へと視線を向けたままだが、確かに、頷いた。

 成城が向かう先は敵の村の西の出口へと。砂影と向き合う高無を引きずる男は、一切そちらへと視線を向けなかった。彼の視線は、砂影に完全に固定されていて、挙句、引きずっている高無自身にも興味がないと見える。

 砂影は緊張の生唾を飲み込んだ。喉が鳴る音すら、響いた気がした。今、この村には、海風が通り抜け、男の足音が響き、高無が引きずられる音が引き引き、成城達三人の急く足音が響いている中で、それでも、なお。

 それ程に切羽詰まっていた。

 男は、砂影に完全に近づく前に、その手から高無を解放した。突然離された高無は走行中の車から落とされたかの様に転がり、男の遥か後方に落ちて、そのまま呻きこそするが、立ち上がらなかった。

 男は砂影との距離を五メートル程にまで詰めた所で、立ち止まった。

 砂影は視線を高無に投げ、心配する。が、今は、生きている事が分かるだけで十分だった。そもそも、この状態、無視して駆け寄る事が出来るはずがない。

「おま、」

 砂影が何かを言おうとするが、男が声を被せてかき消した。

「そういやぁ、名乗ってなかったなぁ。俺は『清瀬亜樹(きよせ あき)』ってんだ。よろしくな。犠牲者君」

 調子に乗るな、と砂影はまずその言葉を聴いて思った。

 そして、無駄だと思いつつ、率直に、問う。

「……俺が聞きたいのはそんな事じゃない。お前は何故、」

 だが、再度、嫌がらせの如く、言葉を覆いかぶせる。

「俺が、なんで、『味方』を殺すのか、だろ? 聴きてぇのはよォ」

 が、今回は別。代弁してもらえた所を確認すると、状況を把握しているのは、理解出来た。

 砂影の表情は変わらない。だが、清瀬はその表情から、『説明しろ』という言葉を察した。

 察しつつ、考えた。不気味に笑いつつ、考えた。

(……説明しねぇつもりだったけど、聴いた奴の顔の方が、見てみてぇ気もするけどな)

 どうでも、良かった。

 当然、清瀬が仲間を殺すには理由がある。その理由がくだらないモノであろうが、深く入り組んだ迷宮の如し深きモノであろうが、清瀬にとっては、どうでも良い。清瀬はただ、自身の目的さえ、果たせれば良い。

 この『状況』、すなわち――『■■■』の中で、清瀬は、利用する事を考えている。この、状況を。

 砂影は察している。互いに、『済んでいる』人間であるだろう、と。





「ちょっと、成城君。どこに向かってるの?」

「山頂」

 体力の事を考慮した上で、ランニング程度の速度で駆けつつ、時折歩いて呼吸を整えながら進む成城達は、村を西に出て、すぐに南下した。山の手前を走る川を横断して、そこでやっと橘が声をかけると、当然とばかりのその言葉が返ってきて、橘も里中も当然、何故、と思う。

 日はかなり傾いて、地平線に寄ってきている。もう日没まで時間がない。日が沈めば当然、電力というモノが存在しないこの島では明かりが月明かりのみになり、それ故に視界が悪くなる。視界が悪くなるという事は、索敵が難しくなる。視力の低下と言っても良い。それは、命の危険である事。そして、山の中では当然、その状況は更に悪化する事になる。

 山の中に足を踏み入れるのは、好ましくないと思えた。それが、通常である。

「な、何故なのかな? ……成城さん」

 里中が問う。

「問題がない、ってわけじゃないけど、……説明は後。っていうか行けば分かるよ」

 成城はそうとしか言わない。

 橘は、砂影に信頼を置いているが、まだ、成城とは出会ったばかりだ。正直な所、信用はできていなかった。だが、その砂影に任された男だ、と自身に言い聞かせ、間接的にだが信じて移動する事にした。

 里中は既に、成城に救われている。彼を信じるのは、この状況であれば、容易い事であった。

 成城は山に入ると、駆けるのを辞めた。流石に山に登る上で、駆け続けるのは難しいと考えたのだろう。橘はともかく、里中はそういう類の能力は高くない。それに、今の成城からすれば女性が二人、だ。無理はさせられないと思った。

 挙句、成城は、『力を手に入れている』のだ。他に合わせるのが、少なくとも今は、それが正しい。

 山に入ると不気味な程の静寂が三人を包んだ。響くのは三人が足元に犇めく雑草を踏みしめる音だけで、それが乱立する木々に反響して足音が多く聞こえてきて、不気味さを演出していた。

 成城は当然道を選んでいるが、続く二人はそのルートがどういうモノなのか気付けていない。それが、通常。

 成城は二人を引き連れたまま、真っ直ぐに頂上へと向かった。そこが、

「ここで集合になってる」

 集合地点だからである。

 三人が頂上へと上がった時には既に、太陽の半分以上が地平線の先に沈んでいて、太陽光はほとんど差し込んでおらず、暗い、と言っても良い程に視界が落ちていた。

 空を見上げれば暁星を見つける事が出来た。音は高度から来る強い風が吹き抜ける音しかしなかった。辺りを見回して、すぐに村の方向を見たが、暗さと距離のせいで何がどうなっているのか、確認する事はできなかった。砂影の心配を三人ともするが、成城と橘はきっと大丈夫だと信じた。まだ砂影の実力を知らない里中も、きっと大丈夫だ、と信じる事にしていた。

 そして、

「……あのさ、砂影君もそうだったけど、成城君も、……、成城君だから聞くけど、」

「何かな?」

 突然橘が質問を投げると、成城は首を傾げる。聞き方から、今の状態についてではないと察すると、何の質問なのか、と本当に疑問に思った。成城は、橘の鋭さを知らない。

「砂影君も、成城君も、何か、違うよね。『普通の人』と比べて」

 その言葉を聴いて、一番驚いたのは何故なのか、里中だった。

 何を言っているのか、という表情をしているが、それを無視して、橘が続けた。

「一言で言えば、超人って感じがする。砂影君自身が言うようにね。合流したばっかりの時の、君と砂影君の会話を聞かせてもらったけど、……メモにあった、力を奪うって事に成功した、って事でいいのかな」

 その言葉、当然、成城はそれを聴いて橘の勘の良さ、鋭さに気付く。

 成城にだって確信はなかった。砂影と話して、『恐らくそうであろう』と推測した程度の現実の把握具合だったが、少なくとも、橘の勘によるそれは、その推測に沿っている。

「あぁ、多分、だけど……、」

 言いかけた所で、知っている事を伝えようとしたその瞬間、

「あ、成城君!」

 木々の隙間から飛び出す『二つの影』。

 三人とも反射的にそちらへと向いた。三人が来た方向とは違う方向からだった。

 橘が警戒し、里中が一歩引いたが、すぐに成城が「大丈夫」と言って二人を落ち着かせた。

 成城が、出てきた二人を見て、言う。

「予定通り。ありがとう。佐伯さん……と、そういえば、名前を聴いてなかったかな」

 山を登ってきたばかりの佐伯と、もう一人の男を見て、成城はそう言う。と、その男が佐伯と共に三人の前まで来て、軽く頭を下げた後、言う。

「あの時は急いでいましたからね。俺の名前は『霧崎條(きりさき じょう)』。成城さんに、それに女性二人も、よろしく。俺は君達を『救いに来た』」

 そう言って顔を上げた霧崎の表情には、自信、が溢れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ